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3.

 目印の場所は、我が群青(ぐんじょう)高校の生徒があまり利用しない区域にあるショッピングモールだった。

 と言っても、ゼロではない。行き交う他校の学生達の中に、群青色の制服もたまに見かけた。その中で、一階の雑貨店にいる男子生徒が目に付いた。女性向けの店内ではかなり浮いている。

 まっすぐな黒髪をあごのラインで切りそろえた、雰囲気のある男子だった。一番の特徴はその背の高さだろう。生徒会室で話題になったバスケ部の鈴城(すずしろ)先輩と同じくらいあるかもしれない。

 そう思ったとたん、先ほどまでの怒りが再燃した。


 ――あこがれの君にお近づきになれるチャンスじゃない?


 手に持っていた資料を思わず握りつぶしてしまう。

 私は別に鈴城先輩に恋愛感情を抱いているわけではない。が、確かに、気のあるふりをしたことはある。

 なぜなら、よりにもよって、会長と私がつきあっているというデマが流れたからである。

 実態はともかく、外面のいい会長は、校内の女子人気ナンバーワンだ。

 そんな人の彼女だなんて思われたら大変だ。(ねた)みや(そね)みの対象にされるのは面倒くさいし、この私が奴に好意を寄せているなどと想像するだけでおぞましい。

 そこで目をつけたのが鈴城先輩である。バスケ部のムードメーカーである彼に憧れている女子は多く、私がその中の一人だとしても不自然ではない。また、高身長ゆえに、私のような大女と並んでもバランスがとれる。そして、接点がないので本人に知られる可能性は低い。つまりは、ダミーとしてちょうどよかったのだ。

 しかし、会長はそれをうすうすわかっていながら、からかっているふしがある。

 腹立たしい……。

 私は怒りであふれそうになった頭を横に振って、深呼吸をした。

 落ち着け。今はそんなことに気を取られている場合ではない。なるべく早く奴の面の皮を()ぎ、退任に追い込んでやるのだ。

 そのための絶好の機会が、今週末に控えている予算会議である。

 決議は多数決制。私と会長が根回しした部だけで過半数を超えているから、残りの部が反対したとしても会長の政策が承認されることはすでに決まっている。

 しかし、将来に禍根(かこん)は残るだろう。会長はそれを避けるために全員の説得と承認を目指しているが、とうてい間に合いそうにない。

 この調子でどんどん各部員の不興(ふきょう)を買ってもらえれば、会長の不信任決議が現実味を帯びてくる。そして、見事会長をリコールしたあかつきには、副会長である私が会長代行を勤めることができる。

 そのとき、私では不服と思われないよう、先生方や生徒達からの信頼を集めておく必要があった。

「あのー……。君、もしかして、三澄(みすみ)(かおる)さん?」

 気がつくと、先ほど注目していた男子生徒が目の前にいた。

 何度か声をかけられていたようだ。いつも冷静沈着を心がけている私だが、会長が絡むとたまに、怒りで我を忘れてしまう。

 反省しつつ、平静を装って顔を上げた。彼は近くで見るとやはり背が高く、切れ長の目が緊張してこわばっているように見えた。

「ここへは、生徒会の仕事で……だよね?」

「……ええ。急遽(きゅうきょ)、メンバー交代になりましたので。失礼ですが、あなたは?」

 なぜそのことを知っているのか。これは、一般の生徒たちには知らされていない事項のはず。

 ネクタイの色を見ると三年生のようだが、面識はない。

 全校生徒の名と顔を覚えたという妖怪みたいな会長ならば、一目で誰なのかわかるのだろう。その点、私は、部活や委員会などのトップのような目立つ生徒でなければ、把握できていない。

 彼は私の持っているプリントを見て、小声で何か言った。

「まさか、本当に……?」

「え?」

 聞き返すと、彼は慌てたように、左腕につけた腕章を指さした。

「あ、ああ、ごめん。ええと、俺は空手部の鈴城(すずしろ)亜樹(あき)。生徒会だけじゃ足りないからって、君のところの会長に助っ人を頼まれたんだ。各ルートは二人以上でまわることになっていて、この辺は君と俺が担当みたいだね。短い間だけど、よろしく」

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