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小さき者が生まれた日

サラのお誕生日記念のSSです。

「ねぇアーサー、この子の名前はどうする?」

「男の子と女の子どっちだろうね」

「すごくお腹を蹴る元気な子だから、男の子かもしれないわ」

「レヴィみたいなお転婆な女の子かもしれないだろ?」

「じゃぁ、アーサーは女の子の名前を考えて。私は男の子の名前を考えるから」

「女の子ならサラってのはどうかな。古代の女王の名前なんだ」

「じゃぁ、男の子だったらリアムにするわ。昔の英雄よ」


そんな会話をしていた夫婦の間に生まれたのは、母親によく似た容姿でありつつも、父親と同じ色の瞳を持った美しい娘であった。


「ふふっ。はじめましてサラ。私があなたのママよ」

「やぁサラ。僕が君のパパだ」


とても寒い冬の朝、サラは母親をそれほど困らせることなく生まれてきた。サラを取り上げた産婆は、赤子とは思えない程に綺麗な子供を見て驚いていた。


まだ生まれたばかりなので目線は上手く定まっていないが、声、匂い、暖かな肌を探り当てたサラは、ゆらゆらと手を動かした。


そんな両親や生まれたてのサラが気付かないうちに、周辺を漂っていた妖精たちが集まり始めていた。

妖精は魔素が集まって自我を持つことで生まれる。だが、その存在は曖昧で、生まれては泡のように壊れて魔素に戻っていく。

ところが生まれてからというもの、サラが泣いたり笑ったりするうちにサラの魔力に魅せられた妖精たちの存在がしっかりとした形をもつようになっていったのだ。


サラの住んでいる国境沿いの街に妖精を見る目を持つ人がいれば、サラは聖女のように祀り上げられていたことだろう。大小さまざまな数百の妖精たちがサラの周囲を漂い、キラキラとした妖精の恵みをまき散らしているのだ。


その中に、後に『ミケ』と名付けられる古株の妖精が居た。何かに縛られることを嫌い、さまざまな国を自由に飛び回る古い古い妖精であった。


ある日、同胞たちが集まっている家を見かけたミケは、好奇心に駆られてそっと窓から中を覗いてみたのだ。そこに居たのは小さな女の子が、泣きながら鮮やかな魔力の輝きを放出している光景であった。


「まぁ、何て綺麗なの!」


妖精は人間の容姿に惹かれるのではなく、魔力の輝きに魅せられる。同胞たちは強い輝きを放つサラの友人になりたくて周囲を漂っていたのだ。自由に世界を飛び回ることを何よりも大事に思っていたミケであったが、サラの輝きを目にした瞬間、自分はこの子の側にいるためにここまで旅をしてきたのだと確信した。


しかし、ミケはすぐに絶望した。この時代の人間たちは、子供に妖精と仲良くなることを教えないのだ。古代王国が栄えていた時代、人間たちはもっと妖精と近い関係にあった。親は当たり前のように子供に妖精と親しくなる方法を教え、妖精が喜ぶように魔力を増やす方法や魔法の使い方を教えていた。だが悲しいことに、そうした知識は古代王国の滅亡と共に失われ、妖精を見ることのできる人間は数えるほどしかいなくなってしまった。


「サラの両親は妖精を見ることを知らないのね……」


妖精たちは何度も何度も繰り返しサラに語り掛けたが、サラは妖精たちの存在に気付かなかった。妖精たちは必死に止めたが、アーサーは嫌な気配を纏った人間に騙されて出掛けたまま戻らなかった。


ミケはとても悲しかった。同時に母親であるアデリアにも怒りを感じていた。


「まずは元気に生きることが大切に決まってるじゃない。あなたやアーサーの実家とやらを頼りなさいよ。人間の事情はよくわからないけど、ヤバかったら逃げ出せばいいだけじゃない。まだ幼いサラを助けてよ!」


他の妖精たちも同じように叫んでいた。本人に自覚がなければ妖精たちにできることはほとんどない。それでも多くの妖精が、サラが生き残れるよう必死に祝福をばら蒔いた。そうでなければ、幼いサラはアデリアよりも先に儚くなっていたことだろう。


サラの命が尽きる寸前、やっとサラの祖父であるグランチェスター侯爵であるウィリアム・マディス・グランチェスターがこの家を訪ねてきた。多くの妖精たちが彼を歓迎したことは間違いない。


ミケや多くの妖精たちは、サラと一緒にアヴァロンの王都にあるグランチェスター邸へと付いていった。なお、サラがその街を去ってしまった後に生まれた妖精は、元のように曖昧な存在のまま生まれては消えてゆくようになった。畑や果樹園の収穫が少しだけ減少し、街の活気も少しだけ失われたが、そのことに気付いた人間は誰もいなかった。


王都ではサラのことをイジメている従兄姉たちに妖精たちは憤ったが、平民が貴族にイジメられることには驚かなかった。人間が集まることで発生する身分制度なるものを妖精も理解しており、『くだらない』とは思いつつも『そういうもの』だと思っていた。


しかし、運命の日がやってきた。サラが池に突き落とされ、命の危険に晒されたのだ。妖精たちは慌てた。サラの周囲にいた水を司る妖精は、サラが完全に沈んでしまわないよう必死に岸の方に水を動かしたが、生まれて間もない妖精だったため、サラが飲み込んでしまった水を動かす魔力は残っていなかった。


沢山の妖精たちが必死になったが、サラが自分たちを認識していなければ彼女の魔力を使うことはできない。


『どうしようどうしよう!』

『サラが死んじゃう』


人間には認識できない悲痛な叫びが池の周囲に漂う中、ふっと自分たちよりも上位の存在がサラに介入する気配をすべての妖精が感じていた。だが、古参の妖精であるミケは気付いていた。これは創世神の魔力であると。


次の瞬間サラは水属性の魔法を発現し、自身の力で水を動かした。飲み込んだ水すら自力で吐き出してみせた。その後、敷地内を見回っていた騎士がサラを発見して邸内に運び込まれるまで、妖精たちはずっとサラに祝福を降り注いで見守り続けた。


『創世神ってやることが中途半端じゃないかしら。どうせならちゃんと助ければいいのに。そもそも、アーサーとアデリアのことも助けてればサラも苦労しなかったはずなのに!』


ミケの指摘は確かに正しい。だが、この世界のすべてを詳細に観察することは、神にとって非常に難しいのも事実であった。余程注目をしていない限り、個々の生物の行動に創世神が干渉することはない。そういう意味では、サラは特別な存在であるらしい。


とにもかくにも、この世界に生まれたサラは前世の記憶を取り戻し、商人令嬢としての道を歩むことになったのである。


この頃、まだミケには名前は無いのですが、分かりにくいのでミケとしました。

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― 新着の感想 ―
注目度ランキング1位! SS集が1位て初めて見たかも? 設定集までランキング入り! 本編更新、楽しみにお待ちしてます!
こうして存在を知られていないうちからずっと妖精からキラキラの恵みを受け続けていたのですね。そりゃ人外にもなろうというものw そしてお祖父様にミケが甘いのもわかる気がします。自分の矜持よりも祖国で自分の…
ここで記憶が戻ったのは、偶然では無く、転生したサラを見殺しにする訳にはいかず介入した結果なのか
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