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馬とゴーレム

その日、オレはゴーレムの初号と楽しく散歩していた。


ここは”乙女の塔”とかいう女ばっかりの場所だそうだが、厩舎に居るのは牡馬ばかりだ。まぁオレ以外は騙馬ばかりなので、もしかすると繁殖力の無い男であることが重要なのかもしれない。


あれ? ということはオレもそのうち去勢されるのか?


それは絶対に避けたい事態なので、サラの前では大人しく振舞っておくことにしよう。気性が荒くて扱いにくいと思われると、去勢コース一直線だ。


「デュランダル、おしゃべりのあなたがさっきから黙りこくってますが、一体何を考えているのですか?」

「うーん、オレは将来去勢されるのかなぁって心配になってな」


初号を始めとするゴーレムたちは、魔力を乗せて話しかけるとオレの言葉を理解するようになった。最初は妖精たちが手伝ってくれていたが、いつの間にかゴーレムたちは、オレの言葉を理解するようになっていた。


もっとも、オレのように転生した経験のある馬でなければダメらしく、普通の馬の言うことは理解できないのだとか。だから、オレはときどきゴーレムたちに馬が考えていることを教えてやるようにしている。疝痛を起こした馬がいたら、すぐにゴーレムに報せるのもオレの役目だ。


「何故そんなことを心配するのかわかりませんが、おそらく、デュランダルは去勢されないと思いますよ」

「どうして?」

「良血ですし、体格も素晴らしい。それに、何より足が速いですからね。サラお嬢様もグランチェスター侯爵も繁殖に使いたいと思ってるはずですよ」

「ほう! それは良かった」

「まぁ競走馬としてトレーニングはしてませんけどね」

「あぁん? オレはそこらの競走馬より速いぜ!」

「同じ年の馬の中では速いでしょう。でも競走馬として鍛えられた馬たちには勝てないはずです」

「なんだとぉ」

「でも、そんなことは重要じゃありません。彼らは”走る”という目的のために鍛えられた馬たちですが、デュランダルはサラお嬢様の乗馬じゃないですか」

「それは、サラの乗馬として大人しくしろってことか?」

「いやいや、どちらかといえば軍馬みたいに使われる覚悟をしておくべきってことですよ」

「確かに地味に襲撃多いんだよな。しかも、サラはオレの上でも剣を振り回すんだよ。耳を切り落とされないか不安だ」


初号はオレの首をぽんぽんと叩き、放牧地の中でも特に美味い草が生えている場所に到着したことを教えてくれた。乙女の塔の厩舎はグランチェスター城外に続く広い牧草地に面しており、ゆったりと散歩するのに最適なのだ。


「サラお嬢様はそんなことしないでしょう。ただ、矢を射かけられる可能性はありますね。あなたを狙って」

「マジか」

「馬を狙うのは基本戦略ですからねぇ」

「オレ痛いのはイヤだよ」

「なんでも”気配を察する”というテクニックを磨いておくと良いらしいです」

「なんだか曖昧な言い方だな」

「ゴーレムは気配なんて察しませんからねぇ」

「ふむ」

「でも人の気配を察することができれば、自分への攻撃を避けやすくなるそうです」


まぁオレたち馬は基本的に周囲を常に警戒することの多い生き物だ。だから、初号のいう気配は何となく理解できる。だが、オレ気付いたとしても、上に乗ってるサラが気付いてなきゃ意味がないんじゃないだろうか。


「他には無いのか?」

「そうですねぇ。あなたのように魔力に声を乗せられるのなら、魔法も使えるかもしれません」

「魔法? アレは人間だけのモノじゃないのか?」

「ドラゴンは使えてますし、一部の魔獣も魔法を使うみたいです。だからといって馬が使えるかどうかはわかりません。試してみないと」

「魔法が使えると何かいいことあるのか?」

「ドラゴンは火を吹けますね。あと、身体強化で身体を固くすると、矢が刺さったり、剣で斬られたりしにくくなるらしいです。あなたは馬ですから、身体強化で足を速くしたり、ジャンプ力を高めたりもできるかもしれません」

「ほうほう。それはいいな。魔法の使い方を知ってるか?」

「人間用のだったらわかりますけど、馬に応用できるかは分かりません」

「それじゃぁ試してみよう」


オレは初号から魔法の使い方を教わった。身体強化については、人間のキシとかいうヤツラが詳しいやり方を本に纏めてくれていたので、初号はその内容を説明してくれた。


「まずは身体の中を魔力が駆け巡るのを感じるって言うけどさ、それって言われなくても普段から動いてるよ。そうじゃなきゃ初号と会話なんてできないだろ」

「デュランダルは優秀ですね。じゃぁその訓練はもうしなくて大丈夫そうです。次にイメージしてみてください」

「イメージってなんだ?」

「こうなってほしいってことを、頭の中で考えることですね。具体的な状況や効果を思い描くってことです。身体強化の場合、身体のどの部分をどんな風に強化したいかを思い描くってことになります」


オレは初号に言われるまま、超ストロングでいい感じになってるオレを想像してみた。足が速く、高い障害も楽々と飛び越え、身体が頑丈で矢や剣を弾き返せる凄い馬になったオレだ。


「お、初号。なんかオレ漲ってきたぜ!」

「ふむ。どんな自分を思い描いたんですか?」

「足早くて、ジャンプ力あって、頑丈なオレ」

「試しに走ってみてください」


初号に促されて軽く走ってみると、びっくりするほど速い。あっという間に牧草地の端から端を走り切り、途中にある池も楽々飛び越えることができた。


「ふむ…どうやら成功してますね。そうかぁ馬も身体強化の魔法が使えるんですね」

「お前が言い出したんだろ!」

「我らは実験を好むんですよ。いやぁ実に素晴らしい実験でした。残るは身体の頑丈さですが、さすがに失敗してると怪我するので止めておきましょう」

「お、おう。オレもそっちは試したくねーな」

「ひとまず、魔法の発現おめでとうございます」

「ありがとうよ」


身体強化を使って初号と遊んでいるところに、ディムナとアルヴァがやってきた。こいつらの上に乗っているのは、サラの友達のスコットとブレイズだ。アルヴァは若い牝馬だが、最近はイイ感じに色気が付いてきている。おそらく、来年くらいには最初の発情期が来るんじゃねぇかな。だが、ディムナと一緒に居る時間が長いせいか、あいつのことが好きらしい。まったく気に入らねぇ。アルヴァに乗っかるのはオレだろ。


「おい、ディムナ。競争しようぜ」

「上に人を乗せずにかい?」

「たまには良いだろ。牧草地を横切るだけでいいからさ」

「仕方ないなぁ」


ディムナは面倒見の良い気の良い牡馬なのだ。初対面でオレと併せ馬させられたときにも、コイツはオレに向かって『君は若いのに早いね。そのうち僕より速くなりそうだ』と言ってくれる兄貴のようなヤツだ。だが、アルヴァは渡せねぇ。オレはディムナよりも速いことをアルヴァの前で証明したくてうずうずしていた。身体強化したオレなら、絶対ディムナよりも速くてカッコいいはずだ。


そしてオレたちは初号の合図で一斉に駆け出した。ぐんぐんと速度を上げ、ディムナを大きく引き離して目標地点に到達した。


「デュランダル、お前凄いな。頑張ったんだなぁ。弟分がこんなに速くなるなんて、僕も最高に嬉しいよ」

「お、おう。ありがとう」


こういうところなんだよ。ディムナはもの凄くイイ兄貴だ。競争に負けてもオレのことを全力で褒めてくれる。ちょっと魔法で速くなったからと、得意気になった自分が恥ずかしい。どんなにオレが速くなったとしても、ディムナには勝てそうにない。


「ディムナ兄さんって本当に素敵よね」


ゆっくりと駆けてきたアルヴァがうっとりとディムナを見つめている。クソっ、オレもそう思うよ。


「アルヴァは本当にディムナが好きなんだな」

「当たり前じゃない。カッコいいもの!」

「けっ」


するとアルヴァは意味ありげな視線をオレに向け、オレの首元に鼻先を近づけた。


「私はブレイズの乗馬だから簡単に妊娠はできないでしょ。さすがにお腹に仔馬がいたら、ブレイズを乗せるわけにはいかないもの。だから次にブレイズを乗せる馬は、ディムナ兄さんの仔が良いなって思ってるんだ。だから、ディムナ兄さんの仔馬を産んでくれる姉さんを探してもらいたいの。デュランダルならサラお嬢様に伝えられるでしょう?」

「できるけど、お前はそれでいいのか? ディムナの仔を産みたいんじゃないのか?」


するとアルヴァはオレにカプッと噛みついた。噛まれたところは全然痛くないが、オレの胸がどっくんどっくんして痛い。何度転生してもこの気持ちには全然慣れない。


「バカねぇ。私はデュランダルにしか尻尾を上げないわよ」

「え?」

「将来ブレイズとサラお嬢様の子供を乗せる仔馬は私が産むつもりなの」

「待て待て。相手はスコットかもしれないぞ」

「何言ってるのよ。ブレイズに決まってるじゃない」

「そ、そうか。うん。アルヴァがそういうならそうなんじゃないかな」

「何を暢気なコトいってるのよ。父親はデュランダルなんだからしっかりしてよね! ちゃんとブレイズの良いトコアピールしなきゃダメじゃない」

「お、おう」


そしてオレたちは初号と弐号に丁寧にブラシをかけてもらうため、一緒に仲良く厩舎に戻って行った。


背後ではディムナがニヤニヤと笑いながら、「あいつら仲良いな。でもサラお嬢様の相手はスコットだと思うけどな」と呟いていたことなどオレたちには知る由もなかった。

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[一言]  風も発現させられたら、飛来する矢を逸らしたり吹き飛ばしたりできるんじゃない?  グランチェスターの馬は馬もヘタレなのか?(笑)
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