自己紹介
吸血鬼界最強の姫と人間界最強の男子高校生が協力して、世界征服を目論む組織と戦うお話です。
戦いに入るまでが少し長いかもですが、気長に読んでくれると嬉しいです。
俺は君浦玄貴。今日から高校一年生。まさに今入学式の真っ最中だ。
とはいえ、心は中学二年生で成長が止まっている。
俺が持てば、傘は魔剣に、ハンガーは神弓に、ベルトは呪われし鎖鎌へと早替わり。
そんな中二病を引きずっている俺には一つ、すごいところがある。
それは…
この世で一番強いことだ!!
…と、いうのは流石に言い過ぎかもしれないが、少なくとも同年代のやつの中では最も格闘術に長けている。
中学時代、多くの格闘技において全国大会で一位を獲得していた。一年生にも関わらず上級生たちを圧倒し優勝する…そんなことは日常茶飯事だった。
俺は何故か生まれつき身体能力が高かった。本当になんでかはわからない。ただとにかく体を動かすことが得意だった。
それに加えて、俺は中二病であるが故に強さを求めた。努力に努力を重ねた。
その結果、素質と努力の結晶ともいえる異次元の強さを手に入れることができたのだ。
基本的にほとんどの格闘技ができる。空手、柔道、太極拳、古武術、ボクシング、レスリング、ムエタイ、テコンドーなどなど…
あと格闘とは少し違うが剣道や弓道なども得意だ。
精神統一にいいから?そんな理由ではやり始めたのではない。
武器ってかっこいいじゃん!!!!
というアホみたいな理由だ。(後にそういう競技でないことに気づいた。)
だから周りの競技者が雑念を払い競技に集中している中、俺は「戦慄せよ…ダークトルネードブラッディースラッシュっ!!!」とか「見るが良い、我が奥義、ファイナルホープソニックアロー!!!」とか心の中で言いながらやってる。(周りからは普通に集中してるように見えてるらしい)
様々な競技の中でも一番好きなのは空手だ。特に型で競う方。戦闘において見た目のカッコ良さを追求する俺に、これほど合っている競技はない。さらに仮想の敵と戦うというのも中二心を揺さぶってくる。
ということもあって、俺が頭の中で「世界の破滅にたった1人で立ち向かう戦士」ごっこをしてる時、基本的に空手で悪の組織と戦っている。
さて、俺が心の中で自己紹介をしている間に入学式が終わったみたいだ。
次はホームルームかな?また自己紹介をさせられるのか。(今度は現実世界でだが。)
中学時代、俺は自己紹介にて中二病を患っていることを言ったからなのか、一切友達がいなかった。ただ強いだけの頭おかしいやつ、という認識だったみたいだ。
今度の自己紹介ではなるべく普通なことを言おう。
だが中二言語を日常生活においても用いるようになってから約5年…
標準語だけで話すことができるだろうか…
うっかり「漆黒の…」とか「永久の…」とか言ってしまわないだろうか…
耐えろ、耐えるのだ、君浦よ。大丈夫、お前ならできる。
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「さて、先生の自己紹介も終わったし、今度はみなさんの番です!右前の人から順に自己紹介してってください。」
ほーらきた。やっぱきましたね、自己紹介。幸い俺の番はそこまで早くはない。何を喋るかはじっくり考えよう。
「青山唯です!おしゃれとか好きです!仲良くしてください!」
なるほど。好きなことか。いいね。好きなことね。空想、戦闘、技名詠唱… まずい、ダメだこれ。
「石塚海斗です。趣味は本を読むことです。よろしくお願いします。」
趣味か、いや結局今さっきと一緒だ…他になんかないんか。
「江川拓也っす。俺に勝てる自信ある奴、いたらタイマンしようぜ。」
うわぁ、チンピラかよ…典型的すぎんだろ…全く参考にならん。というかここにいますよー、お前に勝てる人。
そんな感じに無駄な時間が過ぎ、前にはあと2人ほどとなってしまった。
なんてこった。これでは3年前と同じ自己紹介になってしまう。まあ、もう、いっか。特技は格闘技ですって言うか。怖がられても仕方ない。
いやでも、高校こそは普通の生活を送ってみたい…どうせ今後の人生でもずっと中二引きずってるし、高校くらいは普通の人生送ってみたい…
あー、でもネタがない〜、どうしよ〜どうしよ〜。
こんな時、時間が止められたらなんて素敵なんだろう。俺も漫画のキャラみたいに時間とか止められたらなぁ。
あーーー、あーーーー、むり、むり、しんどい、なんで自己紹介とかしなきゃいけねんだよ、あーーーー、あーーーーー。
「「君の番だよ?」」
誰かが囁く。
ふと顔をあげてみると皆がこちらを見ている。
「君浦くん、どうしました?あなたの番ですよ?ずっと呼んでるのにどうしたんです。はやくしてください。」
あ、やべ、終わったわ、俺の高校生活。
「あ、すみません…少し緊張してました…え、えっとー、君浦玄貴です。特技は…」
もういい、今弱そうに話したからプラスマイナスゼロだろ。言ってしまえ。
「格闘技です。いろんな競技が好きで、中学では全国で優勝していました。今後も大会など出ることがあるかもしれません。だから他の人より学校に来ることが少ないかもしれませんが、仲良くしていただけると嬉しいです。」
決まった!!ちゃんと標準語で喋れたし、話し方は弱そうにしといたから普通に見えるでしょ。ね?大丈夫だよね?
「………」沈黙が続く。
ふっ、そうか。やはり、俺は普通の道は歩めないのk…
「うおおおおおおおおー!!!!!」
「すげーーーーー!!」
「マジ?やばっ!」
え?え?ええーーーーー!?
そんな驚く!?いや、まあいいんだけどさ…
思ってたのとは違うがなんか友達はできそうでよかった。
それにしても…
隣の子だよな…
俺のこと呼んでくれたの。彼女が呼んでくれなければ俺の高校生活は終わっていたかもしれない。礼を言わねば。
って、そろそろ隣の子の番か。それが終わってからにするか。
彼女がそっと立ち上がる。
「皇紅月です。よろしく。」
え、それだけーー!?
おいおいおいおい、俺があそこまで考えた意味なんだったん!?それだけでもよかったの!?
てかめっちゃ気まずい空気感になってるやん…
この子、終わったな…
そんな玄貴や周りの気持ちとは裏腹に、なに一つ動じていない表情で彼女は座った。
まあとりあえずはこの子に礼を言わなければ。
「あの、今さっきはどうもありがとうございました…」
「さっきの話、ほんと?」
「え?」
「君が格闘技で世界で一番だということ。」
「世界一かは分かりませんよ?あくまで全国一なので!日本だけの話です。」
「全国とは世界のすべての国、ということではないのか…」
「え?」
「いや、なんでもない。それにしても凄いね。そんな人が隣になるとは驚きだよ。」
「いやいや、そんな凄いことではないですよ。」
「凄くない!?この世界ではそれが普通なのか…」
「あはは…まあ上には上がいるって世の中だからね。」
なんだろう、この子。少し会話が噛み合わない。
なんというか、常識が抜けているところがある。
全国の意味がわかってない、謙遜が通じない、これは随分と変な子だ。
まあ俺より変わった子がいてよかった。これでハブられることはなさそうだ。