第二話 彼女の家
第二話のタイトルを予告なしで修正しています。
第一話を読んで頂いて、タイトルを覚えておられた方がおられましたら、申し訳ございませんでした。
今回も稚拙な物語ではありますが、宜しければ一読願います。
雄人は大学の男子寮に住んでいる。男子寮は大学から電車の移動を含めて三十分程の所にある。東京では珍しく自然の多い場所だが、その分利便性が良くない。
同じように悠奈も大学の女子寮に住んでいた。女子寮は大学側も安全面を考慮して、大学から徒歩十分程の所に建てられていた。利便性は男子寮と違い、買い物も交通手段も非常に良かった。
男子寮に住む学生は、その事に不満を募らせている者も多い。
時刻は十六時。雄人は大学を出て、女子寮に向かって歩いていた。悠奈にパソコンを使わせてもらうためだ。雄人は肩から下げた布製の鞄を開き、携帯電話を取り出した。
「悠奈、今から君のパソコンを使わせてもらえないかな?」
『構わないけど、何に使うの?』
「来週末、神戸に行くけど、事前にパソコンで調べたい事があるんだ。その調べ物は、実は悠奈にも手伝ってもらいたいんだよ」
『じゃあ先に質問させて。神戸に行くのは旅行? それとも用事?』
雄人は悠奈の質問に困っていた。旅行目的で行くなら悠奈を連れて行きたいと思えるが、それだけではなかった。雄人は少し躊躇した。「半分は旅行かな……。でも楽しいとは言えないよ」出来る事なら今回の神戸に行く話しは、悠奈を連れて行くのに抵抗を感じていた。
『半分旅行なら私も連れて行って。ついでに私の所に来るならトマトジュースを買ってきて』
「分かった。途中のコンビニで買って行くよ」雄人は携帯電話を鞄の中に入れ、コンビニエンスストアに向かった。
雄人は悠奈の部屋の前に着くとインターフォンを鳴らした。しかしインターフォンの返事は待たずにドアを開けた。
「トマトジュースをお届けに参りました♪」
「入って」
奥から悠奈の声が聞こえ、雄人は靴を脱いで奥の部屋へと入っていった。奥の部屋に入ると悠奈はコンピュータの技術本を読んでいる。
「パソコンを使うなら、好きなの使って。でもテーブルの上のノートは使わないでね」
雄人がノートパソコンのディスプレイを覗くと、プログラムが入力されている途中だった。コンピュータが苦手な雄人にはプログラムは理解できない。
「じゃあ、この青いパソコンを借りるよ」パソコンの違いが分からない雄人は、一番近いパソコンを選んだ。
「今日は何を調べるの?」
「来週の旅行先の事、新幹線のチケット、それと宿泊先の予約かな……。そうそう、後は悠奈にお願いがあるんだ」
「お願いって何?」悠奈は雄人が買ってきてくれたトマトジュースにストローを刺していた。
鞄の中から一枚の紙を取り出し、それを悠奈に見せた。
悠奈は雄人から渡された紙を開くと、そこには区画図が書かれている。
「これは、どこなの?」
「兵庫県尼崎市の昔の区画図。それを今の地図と重ね合わせて欲しいんだ」
「いいけど、これで何が分かるの?」悠奈は雄人の意図が分からない。軽く首を傾げて見せた。
「この場所に行きたいんだ。出来る限り今の何処を示すのか抑えておきたいんだ。まずはコンピュータで今の地図と重ねる必要があるのだけど、それを悠奈にお願いしたいんだ」
「どこが基点になるの?」
「一応、海側を基点にして欲しい。基点がどこになるのか分からないから、重ねて行って自分で判断する必要もあるんだ」雄人は苦笑いした。
「分かったわ。区画図をスキャナーにセットしてくれる」
悠奈はプリンターと複合型のスキャナーを持っていた。それを雄人に指で指した。
スキャナーの取り込みが開始すると、耳で聞き取れにくい超音波のような音が鳴り出し、区画図が取り込まれていった。
区画図を取り込み終えると、悠奈はグラフィックソフトを起動した。普段からコンピュータを触る悠奈は、人の目で追えない程のスピードでキーボードを入力する。悠奈はパソコンを使う時、マウスを出来る限り使わない。出来る限りキーボードで操作をする事で腕の疲れを軽減していた。
グラフィックソフトで区画図を半透明にした後、今度はナビゲーションソフトを起動して全国地図を表示した。地図を使うソフトは感覚的な操作が必要になる為、悠奈もマウスを使い始めた。全国地図から兵庫県、そして尼崎の地図にズームして行く。
「悠奈、ストップ! ここで少し待ってくれ」尼崎市の詳細な地図が表示されてから、悠奈の持つマウスを横から奪い取り、海側に表示位置を移動し始めた。
何度か区画図を現在の地図と合成したが、雄人の望む結果が得られず、合成を何度かやり直した。四回目の合成した結果、雄人が望んだ結果が表示された。
「よし!」と雄人はガッツポーズを取っていた。
そんな雄人を眺めて悠奈は少し微笑んだ。「雄人、これでパソコンを使う目的は達成した?」
「ああ、この辺りが目的の場所になると思う。ありがとう! あ、新幹線のチケットと神戸の観光地の資料が欲しいな……」
「後は私に任せてくれる」悠奈はパソコンのディスプレイを見ながら雄人に話しかけた。「それより、この前、雄人、京都に行ったじゃない。その時の目的は達成できたの?」
「ああ、探していた人に会えたよ」
京都の事を聞いた瞬間から、悠奈は雄人の様子に変化を感じた。横に座る雄人の顔を見ると普段と変わらない様子だったが、どこか表情が曇っている。
「ごめん。もしかして私が嫌な事を聞いた?」
「いや……。この前も悠奈が協力してくれたからこそ、その人に会えたんだよ。だから悠奈には感謝してる。もし俺一人で探していたら、一年や二年では済まなかったかもしれない。もし、そうなっていたら……」雄人の言葉が詰まった。
その時、雄人の目にうっすらと涙が溜まり始めた。
(京都から帰ってきた次の日、大学でも一日中悲しい顔をしていたけど、何かあったのかしら)
その時、突然、雄人は両手を上げながら立ち上がり、「少し喉が渇いた! 悠奈、冷蔵庫の飲み物もらうよ」と笑顔で言い残し、キッチンに入って行った。
悠奈には雄人が辛い事を隠しているようにも見えた。
ここ迄、読んで頂き、本当にありがとうございました。
第三話は「涙の理由」です。
次回も宜しくお願い致します。