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九十三 魔王(女の子)

 女の子の手が、町中一の体のあんな所やこんな所を這い回り始めて、町中一の意識は、また、別の意味で、朦朧とし始めて来て、町中一は、もうこうなったら、どうにもでもなれ。ぐえへへへへへへへ。という、自暴自棄? な気持ちになって来てしまっていた。


「お母さん。あいつ、あんな顔をして」


「そうね。最近、ご無沙汰なのに、あんな、どこの誰だか分からない女と、イチャコラして。ちょっと許せないわ」


 スラ恵とお母さんスライムが、そんな事を言ったと思うと、女の子に、絡めとられ、アヘアへし始めてしまっている町中一と、町中一をアへらせている女の子とを、獲物を狩ろうとする時の、猛禽類のような目付きで、見つめた。


「主様。アへってる場合じゃないんだわん。早く魔法を使うんだわん。この状況は非常にまずいんだわん。主様の魔法の効果が、こいつの力の前では無効になってるみたいなんだわん。魔法が使えるかどうかを確認して、その結果次第で、どう対応するかを考えないと、このままだと、どうなるか分からないんだわん」


「そうよぉん。魔法の事は分からなけど、あんたん、そんなんじゃきっと駄目よぉん。しっかりしなさいよぉん」


 柴犬とななさんが、スライム親子とは違って、ちゃんと、この状況の事を心配している、といったふうな事を、言ってくれる。


「魔法が無効だって?」


 アヘアへしつつも、柴犬とななさんの声を辛うじて聞く事ができた町中一は、俺の魔法の効果が消されている? 本当にそんな事が? ……。そうか。確かにそうかも知れない。俺自身にも、柴犬やななさんにも、バフをかけている。それなのに、あんなふうに見ただけで、俺達の動きを止めるなんて。それに。今だってそうだ。この俺が、そう簡単には、アへらされたりしないはずなのに。


「あんたん。嘘はいけないわぁん。あんたんは、誰にでもすぐにアへらされてるわぁん」


「え? ななさん、なんて? 今の、俺の心を読んだ?」


「え? なんだか分からないけど、びびびっと来たのよぉん。でもでも、あんたんとあたくしの仲だものねぇん。そういう事もあるかも知れないわねぇん」


 ななさんがラケットの打面を朱に染めて、ラケットの体をくねくねとくねらせる。


「主様。駄ラケットなんかと話をしてる場合じゃないんだわん。スラ恵達が参加し始めてるんだわん」


「え? 何? どういう事?」


 気が付けば、町中一と女の子の体の半分以上の部位が、いつの間にか融合していた、スラ恵とお母さんスライムの体の中に、取り込まれていた。


「一緒」


 女の子が、誰にともなく、そんな事をぽつりと、言う。


「怖いけど、怖いけど、こんな事目の前でされたら、我慢できないじゃない」


「そうね。こんなイベントに参加しないなんて、スライムとしてのプライドが許さないわ」


 スライム親子が、全人類の存亡を賭けた戦いに挑んでいる時の、勇者のような凛々しい声で、そう告げた。


「世界中のスライムに謝るんだわん」


「くふくふぅぅぅ。だ、駄目だ。か、快楽に、快楽に、飲み込まれてしまう」


「でんきぃぃぃぃあんまぁぁぁぁ~?」


 チーちゃんが、この流れに乗り遅れた事に寂しさを覚えているのか、はたまた、先程、でんきぃぃぃぃあんまぁぁぁぁぁ~? が効かなかった事を、また引きずっているのか、どこか、切なそうな顔をしつつ言った。


「チーちゃん。駄目だ。でんきぃぃぃぃあんまぁぁぁぁ~? を誰にやる気なんだ? こんな時にやったら、やられた奴は、喜ぶだけだ。おおおうぅふぅ。俺以外だけどぉぉぉ」


「あんたん。そんな嘘は良いのよぉん。あんたんだって喜ぶんでしょぉん」


「主様。魔法は使ってみたのかわん? それで、魔法は、効いたのかわん?」


「まだだ、分かった。なんとか、使って、うわっ。でも、もう、ら、ら、ら、らめぇぇぇぇん」


 言葉の途中で、町中一の全身がスライム親子の中に取り込まれてしまい、町中一は全身を包み込む、快楽の潮に、心と体を蕩けさせられて、完全に、堕ちてしまった。


「――ん」


「――さん」


 どれくらいの時間、アへったのか。町中一の頭の中に、何を言っているのか判然としない、誰かの声が、聞こえて来る。


「だ、だ、れ? お、れは、も、う」


 口から言葉を出したのか、頭の中で言葉を作っただけなのか、それすらも、分からなかったが、謎の声を聞き、微かに、快楽の潮の中から漏れ出た意識が、町中一に言葉を返させた。


「目を、覚まし、て下さい。女、神です」


「め、が、み、さ、ま?」


「はい。貴方の女神様です」


 凄く嬉しそうな、きゃるるんっといったような声で、女神様が言う。


「って事は、俺、死んだんですか?」


 町中一の意識の大部分は、まだまだ、快楽のうねりに飲み込まれていたが、あの女神様が相手である。という事は、こんな事になっていては、女神様がきっと怒ってしまう。と、漏れ出ている意識の中でそんな事を思うと、漏れ出ていた意識が突き動き、しっかりと女神様の言葉を理解する事ができるようになって、しっかりとした返事の言葉も、作り出す事ができるようになった。


「違います。まだ生きています。私は、一さんの窮地を知って、頭の中に話しかけているんです。このままだと、一さんは、死ぬよりも辛い事になります。魔王の肉奴隷になってしまうんです」


「魔王? 肉奴隷?」


「そうです。一さんが、そんなふうになるなんて、私は耐えられません。というか。一さん。私を捨てる気なんですか? こんな女のどこが良いんですか? あの時に誓った愛は偽りだったんですか? そっちの世界に行ってから、何人の女と仲良くなったんですか? ずっと見ていたんですからね。どういう事なんですか? くどくどくどくどくどくどくどくど」


 町中一は、このままだと、永遠に続きそうな女神様の愚痴、いや、ありがたいお言葉を聞きつつ、嗚呼。これ。この感じ。この、愛の重い感じ。やっぱり女神様は最高だぜ! と思った。

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