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何者にもなれなかったとある男の異世界転生  作者: いたたたっ


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八十七 悪と罪

 領主が顔を青くして、倒れたまま、手と足を器用にしゃかしゃかと動かし、町中一から離れるように後ろにさがった。


「こいつ、逃げるんじゃないわん」


 柴犬が領主の背後に回り込んで、領主の頭頂部にかぷりと噛み付く。領主が、なんとも表現のしようのない、至極情けない悲鳴を上げて、今度は、町中一の方に戻って来た。


「また~? でんきぃぃぃぃあんまぁぁぁぁ~?」


 チーちゃんが羽音を鳴らして、領主の周りを、円を描くようにして飛ぶ。


 領主が、飛来した、チーちゃんの体を見て、ちょっと、表情を変えたのを、町中一は見逃さなかった。


「あらぁん。随分と余裕じゃないぃん。じゃあ、あたくしが、でんきぃぃぃぃあんまぁぁぁぁ~して、あげようかしらぁん」


 ななさんも、領主の表情の変化に気が付いていたらしく、機械の手の指を、ぼきぼきと鳴らしながら、領主の傍に来る。


「皆。ここは悪いけど、俺にやらせてくれ。今はちょっと、悪人になりたい気分だ」


 町中一は、そう言って、また、ぞくぞくした。


「一しゃん、凄く悪い顔になってる」


「そうね。でも、ちょっと、良いかも」


スライム親子が、妖しい笑みを顔に浮かべる。


「そうだ。良い事を思い付いた。皆。城の中を見て来てくれ。こいつに買われた人達がいるかも知れない」


「それなら、俺が案内する。場所は分かる。これも領主に対する復讐になるしな」


 でんきぃぃぃぃあんまぁぁぁぁ~を、かける側に回っていた、兵士の一人が、声をかけて来た。


「お、お前、裏切るのか?」


 領主が、声をかけて来た兵士を睨む。


「今更だな。俺は、あんたの事、大っ嫌いだったんだ。さっきは、言わなかったけど、嫁やら親やら子供やらで、しがらみがあった。だから、今日まで我慢して来たんだ。それと」


 声をかけて来た兵士が、口を閉じると、領主の方に向けていた顔を、町中一の方に向けた。


「せめてもの罪滅ぼしだ。嫌々とはいえ、随分と、酷い事もしちまってるしな」


 声をかけて来た兵士の顔には、己が罰を受けるのも厭わないという、意思が見えていた。


「俺は、俺のやりたいようにしかやらない。世の中の正義は関係ない。兵士さん。あんたには、俺は何もしない」


「そうか。それは、なんと言えば良いのか、分からないが、少し、ほっとしたよ」


 声をかけて来た兵士が、罰せられなかった事に対する安堵と、自分の犯した罪は決して消える事がないという事に対する暗澹たる思いとを、綯交ぜにしているような、複雑な表情をする。


「じゃあ、皆、改めて、頼む。兵士さんと一緒に行って、見付けた人達を全員ここに連れて来てくれ」


「皆で行くと、何かあった時の、対応が大変になるんだわん。ここはこれが行くんだわん。案内もいるし、一人で楽勝なんだわん」

 

町中一は、確かにそうか。じゃあ、柴犬。頼む。くれぐれも気を付けてな。と言ってから、柴犬が、治癒の魔法を使えるようにと、柴犬に、魔法をかけた。


「怪我人がいたら、これが魔法で治せば良いんだわんね?」


「ああ。頼むな。柴犬と兵士さんが戻ったら、連れて来てくれた人達の目の前で、こいつに酷い事をしてやろう」


 町中一は、ああ、頼むな。と言った後から、町中一ファミリー皆の顔を、確認するように見つつ言葉を続けた。皆から、賛同の声が返って来て、柴犬達が、城の中に入って行った。


 それから、暫くの間をおいて、柴犬達が、五人ほどの、下は、十才に満たない位の少女から、上は、二十才に行くか行かないか位の歳の、女の子達を連れて戻って来た。


「主様。かなり酷い事をされてたようなんだわん。今は、治癒魔法のお陰で、皆、元気そうに見えるけど、手足を切断されてた子や、両目をくり抜かれてた子、後は、歯を全部抜かれてた子なんかもいたんだわん」


「あらあら。これって、そういう事なのかしら?」


「あからさま過ぎでしょ」


 スライム親子が、そんな事を言い出す。


「これは、予想以上に、酷いな。まさか、そこまでとは、思わなかった」


 町中一は、ショックを受けながら、自分が元々いた世界でもこういう事はあったのだろう。でも、俺の身近にはなかったし、あくまでも、関係のないどこか遠い場所の話だと思って生きていた。こっちの世界だって、確かに、俺のいた世界よりも、そういう意味では、酷い世界だろうとは思っていたけど、こんなふうに、露骨にやられてしまうと、これは、かなり、精神的にきつい物がある。と思った。


「魔法で全部治ったのか?」


「皆、どうわん?」


 柴犬達の横に横並びで立っていた、女の子達が、頷いたり、小さな声で、はい。と返事をしたりして、柴犬の言葉に応じた。


「本当に、大丈夫なのか? なんでも言ってくれ。俺の魔法があれば、治せるから」


 女の子達が、何やら、お互いの顔を見合って、小さな声で話し始める。


「大丈夫」


 一番年長に見える子が、町中一の方を見て、小さな声でぽつりと答えた。


「皆。さっきは、俺にやらせてくれって言ったけど、ちょっと、考えが変わった」


 町中一は、そう言って、町中一ファミリー達の顔を順々に見てから、女の子達の方を見る。


「柴犬から、もう、話は聞いているかな? 俺達は、領主を倒したんだ。だから君たちは自由だ。これからは好きに生きていける。けど、ここから出て行く前に、お願いがある。この領主に、どんな罰を与えれば良いか考えて欲しい」


 町中一は、言葉を終えると、女の子達の返事を待った。

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