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八十一 全員出撃

 大柄な兵士が、酷く歪んだ下卑た笑みを顔に浮かべると、うがちゃんに向かって手を伸ばした。


「う、うが」


 うがちゃんが、反射的に言葉を漏らし、つっと後ろにさがる。


「おいおい。こりゃ、かわいいなあ。お前、まだ、未通女か? 先祖返りした獣人なんぞ、発情しちまえば、ただの、慰み物だからな。まだ、経験がないとは、珍しい」


 大柄な兵士が、今度は、先程よりも、素早く手を動かした。その動きは、確実にうがちゃんを捕まえようとするものだった。


「やめて」


 母親が、父親の手を振り解き、うがちゃんの前に出て、うがちゃんを庇うように抱き締める。


「なんだ、お前? こいつを売りたいんだろ? 俺が領主様に高く買い取るように言ってやるよ。こいつの、処女を俺にくれたらな」


 大柄な兵士が、手を止めて、大声で笑った。

 

「ぶっ殺す~?」


 チーちゃんがドスの効いた声を出す。


「え? チ、チーちゃん?」


 町中一は、チーちゃんのあまりの迫力に、びびりながら、チーちゃんの表情を伺うように、見つめる。


「ちょっとあんた、そんな事よりも、魔法。うがちゃんが危ないじゃない」


「おおそうだ。あの大柄な兵士を、えっと、ええっと、どうしよう?」


 町中一は、縋るような目で、皆の顔を見回した。


「どうしようじゃないわぁん。何か、言いなさいよぉん」


「主様。蚤。蚤だわん。そんでもって、ぷちっと潰すんだわん」


「蚤じゃ逃げてしまうわ。ここは、スライムよ。スライムなら、うがちゃんの力なら楽勝よ」


「良し。じゃあ、スライム親子の目の前だと、なんか、申し訳ない気がするけど、本人が言っているんだしな。あいつをスライムに」


「おい。婆。いつまでそうしてるんだ? 俺様の気が変わっちまうなあ。そうだ。どうしても娘を、差し出せないって言うんなら、お前が、脱いでみせろ。それで、俺が満足できたら、この娘の事は許してやる」


 大柄の兵士が、持っていた槍の穂先で、母親の服の背中の部分を縦に切り裂いた。


「や、やめてくだせえ」


 父親が、大柄な兵士の傍に行くと、大柄な兵士の腕に縋り付く。


「放せ爺。死にたいのか?」


 大柄な兵士が、父親の胸倉を掴み、自身の腕から引き離してから、父親の顔面を殴り付けた。


「お父しゃん」


 うがちゃんが、母親の腕の中から抜け出て、父親の傍に寄る。


「そっちじゃねえ。こっちだ。こっちに来て、俺様に何かいやらしい事でもしてくれ。そうししたら、こいつらの命は許してやる」


 大柄な兵士が、父親を殴った方の手の、指全部を使って筒のような形を作って、それを上下に動かしながら、自身の股間を、うがちゃんに向かって、突き出すような恰好をした。


「うが。逃げなさい」


 母親が、大きな声で叫ぶ。


「今、逃げなさいって言ったぞ」


「確かにそう言ったわぁん」


「さっきのうがちゃんを庇った事といい、これは、意外な展開になって来たんだわん」


「一しゃん。魔法。早く、魔法で、あの兵士をやっつけて」


「もう、こうなったらあの兵士をこっちに呼んじゃって欲しいわ。わえとスラ恵に後の事は任せて」


「でんきぃぃぃぃあんまぁぁぁぁ~?」


 町中一は、大きく頷いた。


「じゃあ改めて、大柄な兵士をスライムに」


「おい。何もしてくれないのか? それならしょうがない。婆は脱がないしな。また、爺を殴るしかないか」


「お母しゃんとお父しゃんに酷い事をしないでうが」


 うがちゃんが大柄な兵士に突進して行き、大柄な兵士を突き飛ばす。


「そうだった。うがちゃんって、力が強いんだった」


 酷く情けない声を上げて、吹っ飛び、水堀の中に落下して行った大柄な兵士の姿を見て、町中一は、俺、一度殺されたんだよな。と思った。


「これは大変な事になったんだわん。このままだとうがちゃん達が、他の兵士達に殺されてしまうかも知れないんだわん」


「もうぉん。こうなったら、皆であっちに行くのよぉん。戦争よぉん。あの城を滅ぼすのよぉん」


 ななさんが、酷く興奮した様子で、大きな声を上げる。


「でんきぃぃぃぃあんまぁぁぁぁ~?」


 チーちゃんの目がギラリと光る。


「一しゃん。移動の魔法」


「そうね。それが一番だと思うわ」


「そうだな。じゃあ、皆、行くぞ?」


 皆が一斉に返事をしたので、町中一は、画面の中にいるうがちゃん達も含めた皆に思い付くの限りの防御系のバフをかけてから、瞬間移動の魔法を使った。


「うがちゃん。もう大丈夫」


 スラ恵が、うがちゃんを抱き締める。


「う、うが? 皆、うが?」


「ああ。魔法で来たんだ」


 町中一は、スラ恵の腕の中にいる、うがちゃんの頭をそっと撫でた。


「貴方、達は?」


 母親が、突然現れた町中一達を見て、怯えた表情を見せる。


「あたくし達は、うがちゃんの新しい家族よぉん。この子を助ける為に来たのよぉん」


「まったく、しょうがない駄獣人なんだわん。しょうがないから助けに来てやったんだわん」


「うが。お前、なんて事してくれたんだ? これじゃ、取引が台無しだ。金、金がもらえないじゃないか」


「でんきぃぃぃぃあんまぁぁぁぁ~?」


 チーちゃんが、父親の眼前に行き、父親の全身を嘗めるように見た。


「来てくれてありがとううが。でも、うがは、皆と一緒には行けないうが。領主様に謝って、買ってもらって、ここで暮らすうが」


 うがちゃんが、泣きそうになるのを我慢しながら、町中一の目を、じっと、見つめる。


「うがちゃん。そんな必要はない。俺が魔法で全部なんとかする。ただ」


 町中一は、言葉を切って、うがちゃんの、心の動きを、微塵も見逃さないようにと、うがちゃんの顔を、凝視した。


「うがちゃんが、本当にそうしたいのなら、俺は、魔法は使わない。うがちゃんの気持ちが一番大事だからな。だから、うがちゃんの本当の気持ちを聞かせて欲しい」


 町中一は、言い終えてから、なんか、こういう場面って、こういうのだよな。と思って、格好付けてやっちゃったけど、こういうのはいらなかったか? うがちゃん。頼むから、本当は、俺達と一緒にいたいって言ってくれ。と、祈るように思った。

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