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十八 うがちゃん

 町中一は、妖精女王に向けていた顔を、女神様の方に向けた。女神様が、優しい笑みで、町中一の視線を受け止める。


「仕方がないですね。町中一さん。また、しばしのお別れです」


 女神様が言ってから、妖精女王の方に顔を向けようとしたが、途中で、顔の動きを止めると、顔を俯けた。


「どうしたの?」


 妖精女王が、ブルンっと下乳を揺らしつつ、女神様の顔を覗き込むように、腰を曲げて上半身を前に向かって倒す。


「なんでもないです」


 そう言った女神様の声は、酷く震えていて、泣いている時のような声になっていた。


「泣いてるの?」


 妖精女王が、心配そうな声を出す。


「女神様。大丈夫ですか?」


 町中一は居ても立ってもいられなくなって、女神様の傍に行った。


「ごめんなさい。ごめんなさい」


 女神様が謝りながら、俯けている顔の目の辺りを、両手でゴシゴシと擦る。


「こっちも泣いちゃったわねぇん」


 ななさんが、困ったように言う。


「どうしよう?」


 妖精女王も、困ったように言った。


「なあ、妖精女王がこっちに来てるって事はさ。女神様があっちに行く事もできるって事じゃないのか?」


「それだ」


「それだわぁん」


「それだわぁん」


 妖精女王と、ななさんとななさん二号が、同時に声を上げた。


「駄目です。仕事があるんです」


 女神様が泣き続けながら、言葉を出す。


「向こうですれば? どこでもできなかったっけ? 女神様の仕事って」


「あっ。……。でも、駄目です。できません」


 町中一は、がっくりと肩を落としている女神様の、その肩の上に、そっと片方の手を置いた。


「ごめん。皆。俺はいけない。こんなふうになっている女神様を一人で残して行く事なんてできない。悪いけど、俺は、どこの誰だか知らない奴の為に、大切な人を犠牲にできるほど立派な人間じゃないんだ」


 町中一は言い終えると、女神様の体を包み込む事ができるようにと、両手を目一杯広げて、女神様を抱き締めた。


「ありがとうございます」


 女神様が顔を上げる。


「そんなに泣いたら、かわいい顔がもっとかわいくなってしまっています。これ以上、僕を困らせないで下さい」


 町中一は、そんな、気取っていて、ちょっと意地悪な事を、わざと言って、女神様を笑わそうとした。


「ずるい人。そんな事を言われたら、私は、もう、泣けないじゃないですか」


 女神様が微笑むと、その涙で美しく潤んでいる瞳に、強い意志の炎が燃え上がった。


「では、向こうの世界に戻します。妖精女王。ななさん。くれぐれも、この子をお願いします」


「女神様」


 町中一は、凛々しくなった女神様の顔に、視線を奪われつつ、呟くように言う。


「また、会いましょうね」


 女神様のその言葉を最後に、町中一の意識は途切れた。


「起きて。もう戻ったから。ほら、早く」


 体が揺すられてから、そんな女性の声が聞こえて来る。


「もう食べられない~」


 寝惚けている町中一は、そんな事を言ってから、あれ? 俺は何か大切な物を、どこかに置いて来てしまったような気がするぞ。なんだろう? この気持ちは? と思う。


「あんたん。起きなさいよぉん。もう戻って来てるのよぉん」


 ななさんの声がして、町中一は、ななさん? あれ? ななさんは、卓球のラケットで、それで、俺は。とそこまで思った瞬間、町中一の意識は唐突にはっきりとし、覚醒した。


「お帰り〜。からの〜。でんきぃぃぃあんまぁぁぁぁ」


 町中一のお股を、なんとも言えない、あの痛くて気持ち良くって、それでいて、屈辱的なのに、ああん。もっと。と言いたくなってしまう感覚が襲う。


「いきなりなんじゃ〜こりゃー」


 町中一は声を上げながら、何が起こっているんだろうと思うと、器用にも、電気按摩を喰らい続けつつ、周囲を見回そうとした。


「うが〜。うがが〜ん」


 動物の鳴き声のような物が聞こえ、急に視界が塞がれると、何かが町中一の左右の脇腹の辺りに触れて、それが体を、グイグイと真っ二つに折らんばかりの勢いで締め付けて来る。


「ああ〜。もう痛いやら気持ち良いやらで、訳が分からん」


 町中一は、様々な感覚に襲われながら、悲鳴のような声を上げた。


「また死んじゃったらどうするの? チーちゃんもうがちゃんも、もう止めないと駄目」


 妖精女王のちょっと怒ったような声が聞こえ、女王もやりたい~? 変わる~? というチーちゃんの声とともに、お股の刺激がなくなり、うがが~ん。という声がして、体を締め付けていた何かも動きを止めた。


「う、うが、うがが。うががん」


 また鳴き声のような物が聞こえてから、町中一の視界を塞いでいた物が離れたのか、町中一の視界に光が戻った。


「紹介するね。この子が、さっき話した獣人の子。名前は、うがちゃんって呼んでるの。本当の名前は知らないんだ」

 

 妖精女王が言い、町中一の目の前に立っていた、熊耳を頭から生やした少女が、町中一の視線に気が付くと、慌てた様子で、妖精女王の背後に隠れた。


「まったく。女神様と別れたばっかりだってのに。悲しんでいる暇もありゃしない。俺は、本当は、落ち込んでいたい気分なんだ」


「う、うが? うがうがうが? うががが?」


 うがちゃんが言い、とても悲しそうな、泣きそうな顔をする。


「うん? おお? おおおお!? 今度は、ロリ獣人か。こいつは新しいな。ふむふむ。これは、熊耳か? どうせなら猫とかがいやらしそうで良かったのに。いや、まあいい。どれどれ? 服装は、なんというか、パッとしないな。この世界にあって、ただの、半袖半ズボンみたいな感じか。まあ、生地は、なんか、昔っぽいな。麻とかかな。でも、普通の服だな。胸とかあそことかが毛で隠れているとかではないのか。お。手と足は、熊っぽいな。でも、これじゃ、物が掴めなそう。へえ。尻尾も生えているんだ。顔はやっぱりまだ子供だから、綺麗というよりは、かわいい係だな。年は、十才くらいか? 俺のが年上っぽいな。お兄ちゃんと、うーん。兄様でも良いな。……。そうだ。今日からお前は、俺の妹的なキャラな。うんうん。こりゃあ、良い」


 町中一は、妖精女王の背後に回り込み、熊耳を生やした少女を、観察しながら、少女の周りを歩き回った。

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