百四十八 巨大人型魔法兵器 その名はジプシー・チュリンジャー その五
町中一の語った内容は、アイドルについての方は、町中一も大して詳しくはなかったので、自分の持っているアイドル感に基づいて、偏見や思い込みだらけの説明をし、売り出し方は、昔やった事のある、とあるゲームから得た知識――イベントの開催やグッズ販売などをして、のし上がって行くというような――それから、それと並行して、魔法を使って作り出した、やられ役の魔物をイベント中などに、襲来させ、その魔物を倒して、チュリンジャーに乗れるという事も、同時にアピールするという物だった。
「アイドルという物は、皆の前で歌ったり踊ったりする物なのか。売り出し方は、君が言うんだから、それで良いんだろうとは思う。けど、魔物を魔法で作って、襲来させるというのは、どうだろうか」
「どうして? 皆の前で戦った方が、強くアピールできると思うけど」
「それは、今回だけで十分じゃないか? 急にそんなに何度も巨大な魔物が襲来するのは、おかしいと思う。そもそも、この王都に、こんなに巨大な魔物が襲って来た事なんて、僕の知るこの王国の歴史の中でも、今回を除くと、一度しかない。そんな事が、そう何度も続いてしまったら、今度は、このチュリンジャーがいるから、魔物が来てしまうなどと、思われてしまわないか?」
町中一は、チュリ子の言葉を聞いて、チュリ子ちゃんって、かわいいだけじゃなくって、頭も良いんだな。ああ。そっか。そりゃそうだよな。こう見えても、苦労人だもんな。たくさん必死に勉強もしていたんだもんな。流石だぜ! チュリ子ちゃん! と思った。
「なるほど。確かに、そんなふうに思われる可能性はありそうだ。戦闘はやめよう。でも、チュリンジャーのアピールはそれだけで良いのかな。なんか、もっと、あれば、何か、良い方法ってないかな」
町中一は、そんなふうに言いながら、どうしようか? と考え始める。
「それなら、この王都や、他の、この王国内のどこでも良い。土木工事や、何かの手伝い、それに、大きな魔物じゃなくっても、何かしらの魔物の襲来に困ってる場所は、必ずあるはずだ。そういう場所に行って、国民達の手助けをするっていうのはどうだい?」
「チュリ子ちゃん。君は……。君は、そんなふうに考えるなんて、なんて、この王国の事を、ちゃんと考えているんだ。素晴らしいよ。そうだ。そうしよう」
「そう言ってくれると、とっても、嬉しいが、その前に、解決しないといけない問題がある。王都周辺は道の整備もできてるから、チュリンジャーが歩くのも大変ではないだろうけど、辺境などに行く場合は、道がない所もあるし、移動時間だってかなりかかるだろうし、大所帯となれば、旅の準備をするだけでも、大変な事になってしまうだろうからね」
町中一は、張り切って、思わず、自分の胸を叩いてしまった。
「任せてくれ。それも魔法で解決できる。どこへでも、アイドルユニットのメンバーとチュリンジャーごと、魔法で移動させれば良い」
チュリ子が、酷く驚いた顔をして、目を白黒とさせる。
「魔法で、移動? 君は、転移魔法まで使えるのか? しかも、こんなに、巨大な物を転移させるというのか?」
「ああ。使える。そもそも、このチュリンジャーや基地を出したり引っ込めたりできるんだぜ。何も心配はいらない。チュリ子ちゃんは大船に乗ったつもりでいてくれれば良い。それで、そう。また、何か、さっきみたいな、素晴らしいアイディアを思い付いたら、いつでも言ってくれ。俺には、なんでも、実現できる魔法があるから」
チュリ子が、じっと、町中一の目を見つめる。
町中一も、その目に、引き込まれるようにして、チュリ子の目を見つめ返した。
「なあ、君よ。そんなふうになんでもできる魔法があるなら、なぜ、母上達の為に、女体化した僕を、チュリンジャーに乗せるという方法を、敢えて、こう言わせてもらうが、そんな遠回りな方法を、選んだんだ?」
「急に、どうした? 何か、問題であるかな? それが、この状況下(チュリ子ちゃんのお母さん達の事と結び付ければ、男に戻せない理由にもなるし、あ、違った。そもそも罰だし、勝手に戻しちゃうとファミリーの皆に怒られるだろうし)なら、一番良いかなって、思っただけなんだけど」
「一番良い……。いや。そうだな。今のは、僕が悪かった。何かを成すのになんの苦労もないなんていうのは、おかしいし、意味がない。流石は、君だな。夢を追って苦労してたからこそ、僕にも、そういう苦労の大切さを知って欲しいと思ってくれてたんだな。すまなかった。今のは、忘れてくれ。ただ、誤解はしないで欲しい。僕は、君に、魔法ですぐに解決して欲しくって、横着や楽がしたくって、こんな事を言ったんじゃない。君の、真意が、本当の気持ちが、知りたかっただけなんだ。ありがとう。君は、そんなにも、僕の事を、考えててくれたんだな」
チュリ子の瞳が、涙で、潤み、きらきらと輝く。
「あ、ああ、うん。そ、そうだね」
ああ〜。そういう事か。そっか。その手があったのか。そうだよな。魔法でちゃちゃっとやっちゃえば良かったのか。その辺の事は、何も考えないで言っていた。まあ、でも、なんか、チュリ子ちゃんが、凄く感動しているみたいだからな。このまま、勘違いさせたままにしておこう。こんなふうに、女の子に感動される事なんて滅多にないしな。うんうん。このままにしておいても良いよな。うへへへへ。と町中一は、言葉を出した後で、チュリ子の言葉の意味に気が付き、そんなふうにセコさ全開で思うと、余計な事は何も言わない事にした。
「まったく。君は、謙虚だな。僕は」
チュリ子が、ふっと、言葉を切って、微かに目を伏せた。
「どうした?」
「僕は、君の事が、君の事を、す、好きに、なってしまったようだ。こんな僕に、こんな事を言われても、気持ちが悪いだけかも知れないけど、僕だって、自分の気持ちの変化に戸惑ってはいるんだ。だが、こんな気持ちは生まれて初めてなんだ。できれば、こんな僕を、もちろん、君が、良ければだけど、受け入れてくれると、凄く、嬉しい」
チュリ子が、伏せていた目を上げると、真っ直ぐに、潤んでいる瞳で、町中一を見つめて、そう言った。