百三十四 魔物と王騎士
町中一の言葉を聞いていた、その場にいた全員が、町中一を、その豊満なバディで責めている小説ちゃんでさえも、ええ~? 何この人格好悪くない? というような目で、見てしまっていた。
「バカ過ぎで、格好悪過ぎで、もう、フォローのしようがないわこれ。流石のスラ恵も、エッチな気分が失せちゃった」
「そうかしら? わえはかわいいと思うけど?」
スライム親子が言葉を出した直後に、魔物と、ガゴル達を含む王都の軍勢が、戦っているであろう方角から、大勢の者が上げる、歓声のような物が聞こえて来た。
「む? 何事だ?」
町中一は、小説ちゃんのばいんばいんの感触と、相手が娘だという思いに、もう開いてしまっているような気もするが、また、新たな性癖のページを開いているような気になって来ていて、いよいよ、アヘアへしつつも、やっぱり、どこか冷静な部分もあったりしたので、歓声のような物を聞いて、そっちに意識を多少取られた。
「そうだったわんよ。こんな事やってる場合じゃないんだわん。主様。魔物を先になんとかした方が良いと思うだわん」
「おお。おお。そうだったそうだった。小説ちゃん。そういう事だから、手を放してくれまいか?」
「くれまいかじゃないのです。このまま行けば良いのです」
「いやいやいや、それは、いくらなんでも、格好悪いだろう?」
「は? 何言ってんの? 一しゃん、まさか、自分に格好良い時が、一瞬でもあるとかって思ってんの?」
「そ、そんな、スラ恵。それは、流石に、冗談、だよな?」
「じゃあ、こうするのです」
小説ちゃんが、とても楽しそうに嬉しそうに言うと、町中一をひょいっと、お姫様抱っこの要領で抱き上げる。
「え? どういう事?」
「なんだか、小説よりも小さくなった一が、かわいく思えて来たのです。こんなふうに扱いたくなったのです」
小説ちゃんが言い、そのままの恰好で、声のした方角に向かって歩き出した。
「小説ちゃん。これは、こんなのは、やめて。こんなの、誰かに見られたら、もう、一生人前に出られなくなっちゃう」
「なっちゃうじゃないわよ。全然かわいくない。一しゃん。あんたは、いっつもそんなような感じだってば。それに、誰もあんたの事なんて、見てないから大丈夫だと思うけど?」
「そうかしらぁん。小説ちゃんを見る男どもがいるから、必然的にあの男も見られると思うわぁん」
「くっ。ななさんめ。さりげなく意地が悪い事を言いやがって」
そんな事を言いながら、顔をななさんの方に向けようとした町中一は、そこで、始めて、巨大な、体躯を、その体躯が作り出す大きな影とともに、異質な何者かとして、この世界の中に、存在させていた、魔物の姿を見た。
「おおおおおおお。なんだあれ。あんなの、あんなでかいの、いつからいたんだ?」
「本当だわん。話に夢中で気が付かなかったんだわん」
「本当に大きいわね。わえ達の後ろにあるのが、王都の城壁でしょう? それよりもかなり大きいわ」
「小説なら魔法であれくらいの大きさにもなれるのです」
「チーちゃんも~? なれる~?」
「あれは、雄なのかしらぁん。それとも雌なのかしらぁん」
「どっちでも良いけど、エッチな事はしてみたいかも」
その場で足を止めた、皆が、相変わらずの、自由な発言をする。
暫くの間、魔物の迫力に圧倒されて、その姿を見つめていた町中一達だったが、誰ともなしに、歩き出し、再び、皆で、魔物の方に向かって行くと、金色に光り輝く、やけに派手派手な甲冑に身を包んだ人物が、空中を縦横無尽に飛び回りながら、一人で魔物に攻撃をしている姿が見えて来た。
「あれは、なんなんだ?」
町中一は、自分がお姫様抱っこをされている事など、すっかりと忘れて、夢中になって、その光景を見ながらそう言った。
「あそこにガゴルちゃんがいるわ。あっちに行って聞いてみましょう」
お母さんスライムが、ガゴルの姿を見付けて、そっちに向かって、一人、早足になる。
お母さんスライムが、ガゴルのいる所に向かって歩いている間も、派手派手金色甲冑騎士の攻撃は続いていて、その攻撃が魔物に当たる度に、兵士達から、歓声のような物が上がっていた。
「ガゴルちゃん。ガゴルちゃん。あれはなんなの?」
お母さんスライムが、ガゴルの横に行って、足を止めた。
「なっ。誰かと思ったら、こっちに来てしまったのか? ……。まあ、今は、魔物は動けなくなってるし、一方的にこっちが攻めてるだけだからな。問題はないか。あれか? あれは、王騎士十傑が一人、チュリントゥンだ。王騎士十傑の中でも最強と言われている者だ。つい今しがた戦闘に参加してな。邪魔はするなと宣う物だから、こうして、我々は、傍観する事にしたんだ」
ガゴルが言い終えてから、町中一と、小説ちゃんの状態に気が付く。
「だあああ?! だだだだだ旦那様?! それは、それは、どういう事だ? 私という者がありながら、それは、裏切りか? 浮気か?」
ガゴルが、大声を上げながら、町中一と小説ちゃんの方に、詰め寄って来た。
「違う。違う。これは、ただ、なんか、こうなっただけで、特に意味とかはないから」
ガゴルの迫力に気圧されて、町中一は動揺して、へどもどとなってしまう。
「うるさいのです。お前だって、さっき、一の事を抱き締めていたのです。ふざけろなのです」
「一だとぉぉ?! ん? お前は何者だ? さっきは、いなかっただろう? どこから現れたんだ? まさか、お前も、あの魔物のような存在ではないだろうな? 旦那様を攫おうとしてるのではないだろうな?」
ガゴルが、腰に帯びている剣の柄に、手を伸ばす。
「ああ~ん? なのです? やんのかぁ~? ごるあぁぁ、なのですぅ?」
小説ちゃんがやり返し、ガゴルと小説ちゃんが睨み合って、一触即発の空気が醸造されて行く。
「へ~い。困ったちゃん達。僕の為に、揉めるのはやめてくれ給えよ。僕は、誰の物でも、っと。これは、ガゴル姫ではないか。それに、相手の君も、ばいん、おっと、そうじゃない。初めてお目にかかるが、とても、美しいお人だ。お二人とも、僕の為に争ってはいけない。幸い、魔物は今動けなくなってる。すぐにそっちに行くから、それ以上揉めないで待っててくれ給えよ」
そんな事を言う声が、聞こえて来たので、町中一達は、揃って、顔を、声のした方に向けた。
皆の視線の先には、あの派手派手騎士がいて、皆の視線に気が付いた、派手派手騎士がにこりと微笑むと、町中一達の方に向かって、ばびゅーんっと一直線に飛んで来た。




