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百二十七 とある男のリテラチュア 明日の君へ その五

 自分の思った事に、ついて、つらつらと、考え込み始めて、自分の世界の中に没入して行って、皆の事をすっかりと忘れてしまっていた町中一を、小説ちゃんの声が、一瞬にして、呼び戻した。


「書けたのです。短いけど、初めての小説が書けたのです」


 小説ちゃんの、喜びと興奮に満ち溢れた声が、部屋の中に響き、周りの皆が、やんややんやと声を上げる。


「小説ちゃん。じゃあ、どうしよっか? 俺だけが読むか? それとも、皆にも読んでもらうか?」


「皆に読んでもらいたのです。小説の、皆、えっと、か、か、家族に対する、思いが、入ってるのです」


 途中から、消え入りそうな程に、小さくなった小説ちゃんの言葉は、町中一を含めた、誰の耳にも届く事はなかった。


「良し。分かった。じゃあ、魔法でささのさっと」


 町中一は、魔法を使って、小説ちゃんの小説を、皆に配る。


「感想は、どうする? こっそりと聞くかい? それとも、皆に聞こえちゃっても平気かい?」


「ちょっと。なんか、小説ちゃんにだけ、優しい。狡くない?」


 スラ恵が、唇を尖らせる。


「一しゃんの一番のお気に入りだものね。しょうがないわ。でも、わえも、小説ちゃんの事が大好きよ~」


 お母さんスライムが、言いながら、かわい過ぎて辛いっ。きゅうぅ〜んっ。といような顔をしてみせた。


「スラ恵にお母さんスライム。俺は、皆の事を、平等に愛しているぜ。ただ、今は、小説ちゃんにとっての、初めての、小説が書けた瞬間だからな。大事にしてあげないと」


「スラ恵の時は、そんなふうに、気を使ってなかったと思うけど」


 スラ恵の唇が更に尖る。


「チーちゃんも~?」


「面白いうが。凄いうが。小説ちゃん。どうすれば、こんな面白い物が書けるうが?」


 いち早く読み終えたうがちゃんが、携帯電話越しに、声を上げた。


「え? そうなの? 一しゃんなんて、かまってる場合じゃなかった」


「スラ恵。そんな~」


 皆が、小説ちゃんの小説を読み始め、町中一の、ちょっと、情けなくて切ない言葉には、誰も反応をしてくれないのであった。


「うん。面白い」


「愛に溢れてるわね」



「ま、まあ、これの次くらいには、面白いとは、思うわん」


「売れそう~?」


「そうねぇん。この男のどの小説よりも、面白いと思うわぁん」


 読み終えた皆も、口々に、小説ちゃんの小説を褒めたので、小説ちゃんが、むふーんむふーんと鼻息を荒げる。


「どれどれ、じゃあ、俺も、読ませてもらおうかな」


 町中一は、重鎮ぶって言いつつ、手元にあった原稿用紙に目を落とす。


 それから、皆が、固唾を飲んで見守る中で、町中一は、小説ちゃんの小説を読み進めて行った。


「うん。うん。小説ちゃん。面白い。良いな。言葉では言い難い事を、こうやって、文章にして、人に伝える。物語を書くっていう行為の意味が、ここにはあるな」


「ありがとうなのです。皆も、小説の小説を読んでくれて、とっても、嬉しいのです」


 小説ちゃんが、目に涙を一杯に溜めて、皆の顔を見た。


「あ。かわいいかも」


「かわい~い。なんか胸の辺りが、きゅうぅぅ~って、なっちゃうのよね〜」


「でんきぃぃぃあんまぁぁぁぁ~?」


「チーちゃん。それは違ううが」


「あたくし、また、新しいのが書きたくなって来たわぁん」


「きぃぃぃぃ。小説が面白くって、かわいいなんてわん。嫉妬してしまうんだわんぅぅぅぅ」


「じゃあ、これからは自由時間にするか。俺も書きたいしな」


「また、書き終わったら、皆で見せあいっこするんでしょ?」


 町中一は、そう言ったお母さんスライムの顔を、じっと、見つめた。


「お母さんスライムは、エッチなのを少し自重してもらおうかな。今回はすっかりと油断していて、うがちゃんに読ませてしまったけど、次からは、未成年には読ませないようするから」


「そ、そんな。未成年が読んだ時に見せる、初な反応が、良いんじゃない」


「駄目駄目。お母さんスライムは、なんでもかんでも、エッチにしちゃうからな」


「ねえ。そんな事より、一しゃん。書き始める前に、ちょっと、質問。面白い小説ってどうやったら書けるの? さっき、書き方とか、テーマとかの話はしてくれたけど、肝心な、そういう話をしてくれてないじゃない」


 スラ恵が、どうしてこんな大事な事に今更になって気が付いたんだろう? というような顔をしつつ、町中一とお母さんスライムの、会話に割って入って来た。


「面白い小説の書き方か」


 町中一は、そんな物があるのなら、俺も教えて欲しいもんだ。と思いながら、皆の顔を見る。


「わえも聞きたいわ。エッチなのを書くのは、やめられないけど」


「チーちゃんも~? 面白い~? でんきぃぃぃあんまぁぁぁぁ~?」


「うがも知りたいうが」


「どうしても話したいって言うんなら、聞いてあげない事もないんだからわんね」


「あんたん。大丈夫なのぉん? これは、あんたんにとっては、デリケートな問題なんじゃないのぉん?」


「小説も聞きたいのです」


 町中一は、皆の言葉を聞き、大きく溜息を吐いた。


「そうだな。話しておいても良いかも知れないな。けど、変な期待をしないように、最初に言っておく。面白い話の書き方なんてないと思う。もしも、あったとしても、俺は知らない。だから、俺なりに、こういうふうにやれば良いんじゃないかって、いうような事は言えるけど、それでも良いか?」


 町中一は、言葉を切って、皆の返答を待った。

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