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百二十三 とある男のリテラチュア

 小説ちゃんの、蠱惑的なルビー色の瞳が、しっとりと濡れて、妖しく光り、小説ちゃんの片方の手が、体に巻いていたタオルの上部の、折り込まれて止めてある部分に触れると、衣擦れの音を、残して、ゆっくりと、タオルが床の上に落下した。


「しょ、小説ちゃん?」


 町中一は、小説ちゃんの、未成熟過ぎる、幼い肢体を見て、慌てて顔を横に向けたが、小説ちゃんの事をこのままにはしておけない。と思い、手探りで床の上のタオルを探す。


「おい。そこじゃねえんだよ、なのです。触るならこっちを触れ、なのです」


 小説ちゃんが、クールアンドダークに言いながら、タオルを探していた、町中一の手を、とても柔らかな小さな両手で掴むと、自分の、胸に押し当てた。


「こ、こら。小説ちゃん。やめなさい」


 町中一は、小説ちゃんの、しっとりと、少し、湿った感じのする、柔肌に触れて、性的な衝動が芽生えるどころか、体が、一瞬、びくりと、大きく痙攣してしまう程の衝撃を受けつつ、小説ちゃんの幼さを改めて意識して、小説ちゃんに、こんな事をさせてしまっている自分に、激しい憤りを覚え、小説ちゃんに対しては、深い憐憫の情を感じ、小説ちゃんを、強く強く、抱き締めたい衝動に駆られる。


「こっちを向け、なのです」


 町中一は、小さく頷くと、小説ちゃんの方に顔を向けた。


「小説は、ディープなディープなキッスを所望するのです」


 小説ちゃんが、甘く蕩けそうな、桃色のハート型の光を瞳の中に宿すと、火傷してしまいそうな程に、熱い視線を町中一に注ぐ。


「小説ちゃん。ごめん」


 町中一は、そっと優しく、小説ちゃんの手を解き、タオルを拾って、そのタオルを、小説ちゃんの体に、巻き付けた。


「何をしてるのです? はっは~ん、なのです。あれなのです? 自分で脱がしたいとか、そういう事、なのです?」


 町中一は、小さく頭を振ってから、そうだ。魔法で服を出してあげよう。いつまでもこんな格好じゃかわいそうだ。と思ったので、小説ちゃんに、小説ちゃんって、どんな服が好き? と聞いた。


「服、なのです?」


「ああ。ごめんね。そんな恰好のままでいさせて」


「ふっふ~ん、なのです。パパ~ンは。むふふ。呼び方を、変えるのです。一は、どんな服装した女が、好みなのです?」


 小説ちゃんが、話している内容とは、似ても似つかない、とても、無邪気な笑みを、顔に浮かべる。


「俺の、好み?」


 そう呟くように言って、町中一は考え込み始めた。


 少し経ってから、小説ちゃんが、町中一がどんな返答をするのかが、凄く楽しみといった顔をしたので、町中一は、今までも真剣に考えていたが、今まで以上に、真剣に考え始める。


「早くするのです。じゃないと、風邪をひいてしまうのです」


 いつまでも、黙っている町中一に、業を煮やしたのか、小説ちゃんが、今までよりも、ちょっと、きつめな口調になって言う。


「は、はい」


 最早、調教が完了しつつある町中一は、返事をしながら、慌てて、もうしょうがない。なんでも良い。取り敢えず、えっと、ジャージだ。ジャージで良い。と思うと、魔法の言葉を唱えた。


「これは? なのです?」


 小説ちゃんが、物珍し気な目で、自分の体を包み込んでいる、町中一の中学生時代の学校指定ジャージを見ながら、弾んだ声を出す。


「それは、ジャー」


 町中一はそこまで言って、待てよ。ここは、今までの流れだと、この服を持ち上げるような事を言わないと、小説ちゃんがキレそうだ。けれど。ジャージだしな。何をどう言えば良いんだ? と思い、しばしの間、沈黙した。


「あらぁん。懐かしいぃん。そのジャージぃん。あの頃のあんたんを思い出すわぁん」


 完全に図ったような、見事なタイミングで、皆が部屋の中に入って来て、真っ先にななさんが、そんな言葉を投げ付けて来る。


「はん? 学校指定のジャージ? なのです? それって、凄くダメダメな物なんじゃねえんだろうな? なのです?」


 とてもとても察しの良い小説ちゃんが、瞬間湯沸かし器のような勢いで、ブチギレた。


「いえ、それは、その、あの」


 おろおろとしている町中一を、心配そうに見たり、愉快そうに見たり、睨むように見たりしつつ、皆が空いている席に座る。


「小説は~?」


「一しゃん。うがの書いた小説を読んで欲しいうが」


「スラ恵もまた書いたのがあるんだよね」


「わえの愛とエロスの超大作も読んで欲しいわ」


「わ、わん? 文句を言おうと思ってのに、わん。皆、なんて切り替えが早いんだわん。これは、しょうがないんだわん。これも、新作を書いてあるんだわん。主様。読んで欲しいんだわん」


「あたくしは、あんたんに文句を言うわよぉん」


 皆が、一斉に、口を開くと、町中一を責めるような調子で言った。


「むむむ、なのです」


 小説ちゃんが言って、子供然とした顔に何かを考えているような表情を浮かべると、町中一から離れて、空いていた席に座る。


「どうしたんだい?」


「小説も、皆と一緒が良いのです。小説も小説をやりたいのです」


 町中一は、小説ちゃんの言葉を聞いて、こんなに嬉しい言葉を、今までの人生の中で、人の口から聞いた事があったのだろうか? いや、ない。などと、大げさに良く分からない事を思いながら、全身から喜びのオーラを発しつつ、立ち上がって、勉強部屋の前の方、皆の姿が見渡せる場所へと移動した。


「では、これより、第二回小説勉強会を始める」

 

 町中一は、咳払いを一つしてから、高らかに、そう宣言した。

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