映画みたいな恋に憧れて【完全版】
深夜のオフィス。気がつけば、残っているのは僕と先輩の二人きりになっていた。明日のプレゼン用の資料作りに、時間が掛かってしまったのだ。
「山田君、進捗はどう?」
「何とか、あと30分くらいで仕上がりそうです」
「よかった。こっちの資料ももう直ぐ終わるわ。何とか終電には間に合いそうね」
「はい。如月課長のお陰です。僕一人だったら、きっと朝まで掛かっています。有難う御座います」
「山田。そんなにかしこまらないで。貴方の上司なんだから、貴方をフォローするのは当たり前。入社半年の貴方にこんな面倒な仕事をさせてしまって、逆に申し訳ないわ」
「そんなことありません」
如月絵里は、僕の上司で営業部きってのやり手だ。営業成績は、毎月営業部トップを維持している。しかも美人でスタイル抜群。部下にも優しく、社内では男性社員の憧れの的というだけでなく、女性社員からも慕われている。もちろん僕も如月先輩に憧れを抱いている一人だ。
「ちょっと、休憩しよっか」気が付くと、僕のデスクに如月先輩が淹れてくれたホットコーヒーが置かれていた。
「あ、有難う御座います」
「だからぁ、山田は固いんだよ。二人きりなんだから、絵里って呼んでも良いんだよ」
「え?あ・・・」
「冗談、冗談。ごめんね、からかって」
「大丈夫です。幸せです」
「幸せ?なんだ山田、面白いじゃん」
「有難う御座います」
僕は如月先輩との、こんなたわいもない時間が永遠に続けばいいと思った。
「山田君は、最近耳かきした?」
「え?耳かきですか?・・・しばらくしていない気がします」
「それはいけないわ。私がやってあげる」
「え?」
如月先輩に促され、パーテーションで仕切られたミーティングスペースに二人で入った。如月先輩は、躊躇なく靴を脱ぎ、椅子を踏み台にして長机に昇り、そのまま卓上に腰を下ろした。
「はい。ここなら横になれるでしょ」
「え?」如月先輩は、膝枕を受け入れる態勢で僕を待っていた。短いタイトスカート姿のため、太ももの奥が見えそうでドキドキする。
「私、耳かきをしてあげるのが趣味なの。これなんて言うか分かる?」いつの間に手にしたのか、如月先輩は竹の棒の先に白い綿毛がついている道具を見せてきた。
「見たことはありますが。名前は知りません」
「・・・そう。じゃあ、ここに来たら教えてあげる」如月先輩が、自らの太ももに僕を導く。僕は靴を脱ぎ長机に昇り、吸い寄せられるように、先輩の膝枕に収まった。如月先輩の太ももは暖かくて適度に張りがあり、大人の女性の良い香りがする。世界最高峰の枕がここにあった。
如月先輩の唇が僕の耳元にぐっと近づき、息遣いが聞こえてくる。同時に先輩の柔らかく大きな胸が、僕の体にぐいっと当たるのが分かった。
「ぼ・ん・て・ん」如月先輩のささやき声が、彼女の吐息と共に僕の耳元で転がった。ここは、天国か?
目を瞑ると、僕の耳に【ぼんてん】がガサゴソという心地よい音と共に侵入してきた。
「ふふふっ・・・」
「な、なんですか?」
「いつもまじめな顔して仕事している君の顔が、とろけそうになって歪んでいるのがおかしくって…」
僕はすでに先輩の言葉に反応できなくなっていた。快楽の沼にすっかりハマってしまったようだ。
頬に、何か液体が落ちてきた気がして僕は眠りから覚めた。あまりの心地良さと仕事の疲れで、数分間眠ってしまったようだ。見上げると、夢の続きのような光景が目の前に広がっていた。それは、幸福な夢ではなく、悪夢だ。タコと海老が合体したような巨大な怪物が、その大きな口から白濁した粘液をダラダラと僕に滴らせながら、そこに存在していた。怪物が僕に語り掛ける。
「・・・山田、ごめん。おなかが空いて私、我慢出来そうにない。・・・君を食べていい?」巨大な怪物は、如月先輩だった。
「あなたに食べられるのなら、僕は幸せです。あなたと一つになれるのですね。」僕は運命を受け入れていた。
「・・・じゃあ、いくよ・・・山田、・・・好きだよ」
「・・・ぼくも、で・・す・・・」