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物言いは時に身を危す

 

重たい瞼をゆっくり開いていく。

 さっきまでのことが夢だったかの様な感覚だ。頭が重く感じるながらぼんやりと視界に映った景色に一瞬だけ目を向け、自然と空を見上げて眺めている。仕方なかった。結花の意識は神経の深い一角にあった空間で繰り広げていただけなのだ。その為、身体は眠っているのと同様に頭が働かず身体の動きも鈍い。肉体はお春のものであってもお春の精神は心の奥底で深く眠りについているため今は結花のもうひとつの身体とも言ってもいい。徐々に思考力が回復していく事を自覚し、現在の自身の状況を改めてひとつひとつ辿って整理をしていた···。

 だが、結花はひとりでは無い。神社まで運ばれて来たことを忘れて物思いに耽っていると隣りから呼びかけられる。


「···っい·····お····い、·····おい!」


「っっっつ!えっあ···しっ晋さん···?」


 晋に声をかけられて驚き我に返って結花の今の体制を再確認する。

 頭を晋の右肩に凭れかかっていたことで顔と顔の距離が近く5センチもないぐらいだ。段々と頬に熱が帯び、慌てて起きようと体を起き上がらそうとしたがバランスを崩し晋の膝に倒れる形になった。そう、結花か拒否した膝枕だ····。


「········。」

「····あんたは大胆なのか間抜けなのわからんな。···っはは」


 晋の膝の上から覗くように見上げると呆れ気味に言っていたものの顔は無邪気な少年の様に面白いものを見つけたと言わんばかりにくしゃりと笑い、男らしい晋の外見が少し和らいだ感じがした。そんな彼に数秒見とれていた様だが、はっ我に返った結花は慌てて身体を起き上がらせながら言葉を返し隣りに座り直した。


「·····うっっつ!わた、私またすいませ····ん····。」

「ふっ、いやいい、あんたみたいな反応は珍しくってな。つい···ははっ」


「······?」


 結花みたく男の人に接することが不馴れな者からしたらひとつひとつのことに戸惑ってしまうのが普通の反応ではないかと思うが、要はそれは結花の見立てで、晋の見た目は目付きは鋭く少し怖いが整った顔と引き締まった身体なのかどこから見ても女の人にモテる色男だろう。だからか女の人の方から寄って来る。周りの女の人は晋に対し擦り寄って来るばかりで結花の様に初々しいが遠慮する反応の女の人はめずらしいなんだろう。

 晋の隣りで恥ずかしさのあまり俯きながら、晋の言葉で結花の振る舞いはこの時代の女の人では珍しいのではと不意に思った。

 ひとしきり、晋は笑いこけていた。

 なんだか結花は馬鹿にされてるような気分になり口をへの字ににし不貞腐れそっぽを向いた。

 へそ曲げ中の結花の顎を指で掴みぐいっと晋の方に血色が良くなった顔を向かせると安堵ともとれる微笑みを零した。


 ―よく分からない人だ。からかっているようでいて初め会った相手を心配して·······。―


 不思議と晋に触れても嫌悪感は抱かず戸惑いはあっても安心感に似た感覚を覚えてる。


「さっきより顔色が良くなったな。一人でも大丈夫なら俺は行くが······。大丈夫そうか?」

「あー········。」


 返事に迷い濁してしまった。

 徐々にお春の記憶が流れてきているが、それが余計と本来の結花自身との距離を曖昧にさせて不安を倍にさせている。そんな時に安心する温もりがあると縋ってしまう。今の結花には離すことは難しい。少しでも、ほんの僅かな間でも一緒に居て安心を·····。これが、この時代の細かい情報を集める時間を減らしてでもと思ってしまうくらい結花は不安だっだようだ。

 表情も不安を隠せず曇ってくる。


 ー今はどっと押し寄せる不安感を減らさないと神社の外に踏み出す勇気が出ない······いや、情報を集めるなら今、晋にこの時代の状況を聞いた方が······早いじゃないか····ー


 名案とばかりに晋の顔をを見て曇った顔とは対標的に輝いた笑顔をして訪ねる。


「····あの。どこか行かれるとおしゃいましたが、急いでますか?」

「いいや。まだまだ時間があるからなぁぶらぶら散歩でもと····どうした急に?」


 すーと浅く息を吸い、晋を真っ直ぐ意を決した眼差しで見る。


「······つっっ、あっあの····。もし時間に差し支えないならお話?お尋ねしたいことがあるのですが宜しいでしょうか?」

「ほぅー。時間は余裕あるからな。話しぐらいなら俺も聞いてやらぁ。ほら話して見ろ!」


 改まって頼んで見たら、面白いと言わんばかりに口元だけ笑い、すんなり了承が取れてほっと胸を撫で下ろし、一呼吸置いてぽつりぽつり話し出した·····。


「·····えっと····つかぬ事こき聞きまずか····今の年号と日付けを教えて下さい。」

「······はぁ?あんた頭大丈夫か?医者行くか?」

「あーえっと大丈夫です!年号と細かな時代の状況の記憶が曖昧になってて·····。でも、自分が誰かは分かりますよ(お春の記憶が途切れ途切れではいるけど入ってくるから)。」

「ほーう、あんた時代の状況を知りてぇのか····。」

 すーと徐々に晋の雰囲気が変わった。表情は変わらないがそれは結花を探ろうとしている眼差しで言葉を選び晋は逆に質問してきた。


「なぁ····· 夜の冷たさを味わったことの無い娘は知らんでいい事じゃないか。今のまま知らない方がいい事だってある。だが、·······あんたがただの娘だったらの話ならなあ····。」

「えっ·····。」


 口調は軽く話の深さと相異なっていて違和感を覚えつつ僅かに晋の眼差しがギラりと鋭くなった気がした。

 夜の冷たさと言われて言葉通りの意味と捉えていたが晋が醸し出す空気からは違う意味としての―冷たさ―と言ったのではないかと思う。

 息が詰まり晋の雰囲気の冷たさを受け身体の体温が氷風にでも当てられたみたく肌が泡立ち首筋には冷や汗が一筋伝っていく。


「··――いえ、私は、ただの町娘です。···ただ少し記憶が曖昧な部分があり晋さんに聞きたいだけです。」


 晋が纏う空気の変わり様に怖気付く中、結花は精一杯の勇気と共に真っ直ぐ晋の瞳を見て答えた。

 視線が交差し合い晋は結花から読めるのは真剣さと···恐怖心だけだた。患者なら読み取るのは難しいが、結花は「さあ、読んでください」と言わんばかりにいとも簡単に読み取れ、これの何処が患者なのかと一気に気が抜け肩の力が落ちる。


「·····はぁ。あー辞めだ辞め。疑って悪いな。」

「はっ·····いえ、あの」

「あぁ、情報か。わかった教えれる範囲だけだかな、疑った詫びに答えたるよ」


 晋の纏う空気が初めて会った時の様に和らいでいった。



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