おにぎりだが、新人の加入によりSSお弁当生産ギルド【王都のお弁当】から追放された。でも俺が抜けた後、カロリーがバカ高になるわ、味にも飽きられるわですぐに落ち目に。戻って来いと言われたが、もう遅い。
反省はしている。後悔はしていない。ただただ、ざまぁを書いてみたかったんだ……。
「おにぎり、お前はこのギルドには必要ない。出ていけ」
SSお弁当生産ギルド【王都のお弁当】のギルマスである、サンドイッチから、感情の全く籠っていない言葉が俺に向かって吐き出された。
俺はおにぎり。形は色々と変化出来るが、つまりは白飯。そう、炭水化物としてこのギルドの主力を担う一翼となっている。
そんな俺に緊急招集がかけられ、席に着いたと同時に冷酷な一言がぶっ放された訳だ。
先日、新人が入ったと聞いていたので、てっきりお披露目会でもしてくれるのかと思っていたのだが、まさかの追放宣言だった。
どの席に座っても優劣が付かないように設置された、丸型お弁当テーブル、もとい、円卓を囲むギルドのメンバー達。
ただ、サンドイッチが発したその言葉のせいで、他の全メンバーから俺に視線が集まる事になった。
「な、何を言ってるんだ……? このギルド、【王都のお弁当】は俺達食材が心を込めて作った弁当を冒険者を始め、一般の方に販売して生きる糧を提供しているんだぞ? その主食の一翼を担っている俺が居なくなったら——」
「お前はいつから自分が【主食】だと錯覚していた?」
俺の発言を遮って放った言葉には先程と違い、今度はひとつの感情が乗っていた。蔑む感情が。その様子を見てか、どこからか失笑も漏れてきた。
「な、なん……だと?」
「この飽食のご時世、塩味だけで何のひねりもない握り飯ごときに、一体どれだけの需要があると思っているんだ? 時代遅れも甚だしい。いいか、もう一度だけ言ってやる。お前はこのギルドには必要ない。クビだ」
親指を下方向に向けられ、告げられた。
「おにぎりってさぁ、ベタベタとご飯粒が指にくっついて気持ち悪いもんね、それに私と炭水化物属性被ってるし~。なにより風貌がダサいのも時代じゃないわよね~」
今回、新たに加入したパスタが口を開いた。
煌びやかに魚卵、タラコをまとい、全身を薄ピンク色でドレスアップしたタラコパスタ。その姿はまさに宝石箱の中にある金銀財宝を思わす容姿。白一色の俺からすれば直視出来ない程の美しさを誇っていた。
「いいか? 炭水化物ならこれからはお前に変わってパスタが居る。それにお前は俺達と違って彩に欠けるんだよ!」
追い打ちをかけるようにサンドイッチが言い募ってきた。今日のサンドイッチは卵サンドとシンプルな装いだが、フルーツサンドにドレスコーデした奴は、悔しいがパスタと肩を並べる程に美しい。
「ま、待ってくれ! 確かに素手で食べられるとご飯粒がついてしまうし、二人みたいに煌びやかさは備えていないが、ラップを使えば問題ないじゃないか! それに俺はこのギルドパーティとの相性は群を抜いて良い筈じゃないか!」
「そうでもないわよ、何より私とは相性最悪よね? そしてこの私はギルマスであるサンドイッチと相性抜群♪ この場に誰が要らないかは火を見るより明らかよね~?」
確かにお米とパスタはお互い相容れ難い。炭水化物に炭水化物だ。パスタをおかずにご飯を食すのは非常に難易度が高い。それを可とするのは相当の剛の者だろう。
だが一部の地域では、炭水化物の化身とも言える粉物に、ご飯を合わせて定食として出しているらしい。
一般的な相性は悪いかも知れないが、一部のコアなファン層は確実に存在する。パスタとの共存も工夫次第でやっていけないことは無い筈だ!
「サンドイッチ! どうしてだ!? 俺達、今まで上手くやってこれたじゃないか!? ご飯とパンが力を合わせてきたからこそ——」
「どこまでも能天気な奴だな、お前は。見ろ、生野菜もフルーツもハンバーグもポテトも誰もお前を必要としていない。和食のお前は俺のよしみで今までこのギルドに入れてやっていただけだ。だが、それももう限界だ」
ギルドメンバーを一瞥すると、どのおかずもまるで三角コーナーに捨てられた残飯を見るような目をしていた。
どうやらこの円卓に俺の居場所はもうないらしい……。だれも俺に助け船を出す様子はない。
「それがあんたらの総意か……分かった、今まで世話になった……」
最後に放った言葉にすら誰も反応してくれなかった。そのままは俺は席を立ち、ギルドを後にした……。
≪≪≪
SSギルド【王都のお弁当】から追放され、王都に居座る事に肩身の狭さを感じ、放浪の旅に出てしばらくが経った。
道中、風の噂によると、新たに加入したパスタによって完全に洋風弁当にシフトしたと聞いた。
サンドイッチとパスタがメインの弁当は、前評判が非常に高く、好調な滑り出しを見せているらしいが……。
「……俺はいつまで追放された古巣について考えているんだか」
「ちょっとそこの貴方?」
重い足取りで海苔をまとい、行くあてもなく放浪していると、すれ違ったおかずに声を掛けられた。
振り向くと、煽情的な肉厚ボディを持つ出汁巻き玉子が居た。その見目麗しい容姿に思わず息を飲まざるを得なかった。
肉厚な黄色い黄身をまとったその体は艶やかであり、世の全玉子好きを虜にするであろう美貌の持ち主であった。
かつて所属していたSSギルド【王都のお弁当】でも玉子焼きは居た。だが目の前に居る玉子焼きとは天と地ほどの肉厚の差がある。それは禁断のマヨネーズコーデをして外観を取り繕っても、決して届かない程の至高の肉厚、そして存在感があった。
「あ、え……お、俺、ですか?」
「ふふ、他に誰が居るって言うの?」
歩み寄る出汁巻き卵さんはその豊潤で弾む体を惜しげもなくさらけ出し、俺の腕を掴んだ。というか柔らかい何かが当たっている……な、なんたるふんわり食感、もとい触感は。
「見た所……フリーのおにぎりみたいだけど? 貴方、中の具材は?」
「あ、いや……俺、中に具材は入ってなくて。この通り、海苔ぐらいならまとえますが……」
そう、中には爆弾おにぎりと称し、数々の美女おかずを詰め込んだハーレムおにぎりも存在していると聞く。
まあそれは突飛な例だが、基本、おにぎりには何らかの具材、もしくは、炊き込みご飯など、既に味付けされている物で握られている事が多い。
つまり基本はカップル、リア充達がほとんどだ。
そして、俺はおにぎりと言うカースト上位の存在でありながら、種族としては塩結びになる。
おにぎりの中でも非常にピュアと言える存在。悪い言い方をすれば……童貞だ。
「驚きだわ……まさかこんな原石が街中を闊歩してるなんて……ねえ、ちょっと話を聞かせてもらっていいかしら?」
その豊満なボディは更に俺の固く握られたボディに押し付けられた。その瞬間、けんもほろろに崩れ落ちそうになったのは内緒にしておこうと思う。
「ち、ちょっと!? 出汁巻き玉子さん!? ち、近くないですか!? それにこんな大衆の面前で——」
「出汁巻き玉子ちゃんっ! 何してるの!」
すり寄ってくる出汁巻き玉子ちゃんを制する声が聞こえた。そこには薄絹のような白い衣をまとい、神秘的な印象すら受ける素揚げ唐揚げちゃんが腕を組んでいた。
この子はこの子で出汁巻き玉子ちゃんと違ったベクトルの美しさがある。清楚でスタイリッシュ。なんと美しい唐揚げなのだろう。
ギルド【王都のお弁当】の唐揚げは、片栗粉や調味料をふんだんに練り込み、厚化粧の衣をまとって着ぶくれしていた。
それとは違って最小限の衣をまとった彼女は、ボディラインが強調されるシンプルな装いだ。塩のみで握られた童貞の俺にとっては目の毒以外の何者でもない。
「あら素揚げ唐揚げちゃんじゃないの。何って、見たら分かるでしょ? ヘッドハンティングよ。ほら、今時希少な具材無しのおにぎりよ?」
「ちょ!? 出汁巻き玉子ちゃん!? 何言ってるの!? そ、そんな破廉恥な事を公の場で! え? ほ、本当に、具無しのおにぎりさん……なんですか?」
なんかとっても恥ずかしくなってきた。素揚げ唐揚げちゃん、それ『貴方、童貞?』と言ってるのと同義ですよ?
辱しめを受けたあと、そのままなされるがままに二人の美おかずに連れられ、小さなギルドスペースへと案内された。
中に入るなり、おにぎりが珍しかったのか、小さな双子のウインナーが物珍しそうに寄ってきた。その奥では恥かしがっているのか、顔を真っ赤にして柱の陰に隠れるタコさんウインナーちゃんも見えた。
真ん中のテーブルでは巨乳……いや、大きなミートボールさんとスレンダーなほうれん草のお浸しさんが俺を品定めするように見てくるし……。
なんだ……ここは。どのおかずさんも桁違いに可愛らしい、そして美しい。王都のギルドでもこれほどの可愛いおかずさん達の集まりはないぞ?
俺はここまで来る道すがら、SSギルド【王都の弁当】から追放された事を出汁巻き玉子ちゃんと素揚げ唐揚げちゃんに話した。すると二人は顔を合わせて同時に頷き、声を合わせて俺にこう伝えてきた。
『私達のギルドマスターになって下さい』と。
正直、最初は迷った。役立たずとして追放された俺が、こんな美女おかずが所属するギルドのギルマスなんて務まる筈がない。だが、彼女達の事情を聞いた瞬間、その迷いは吹っ切れ、了承した。
なぜなら彼女達は……ギルドから追放された身だったから。
厚焼き玉子ちゃんはその豊満な体を妬まれ、肉などのメインのおかずから『聞いた? あの子、誰とでも寝るビッチらしいわよ? 隣に並んだおかずを全部自分の黄色に染めちゃうらしいわよ?』などと、根も葉もない噂を流され、味移り、色移りの冤罪で追放されたらしい。
素揚げ唐揚げちゃんはシンプルな味付けから、『魅力もない、味気もない、ジューシーさもない』と、こってりしたおかず達にいじめられ、追放させられたとのこと。
そして目の前にいる他のメンバーも、決して本人達は悪くないのに妬みや嫉み、弱い者いじめで追いやられ、寄り添うように集まったのがこの名もなきギルドらしい。
その話を聞いて黙っていられるほど、俺の握りは緩くない。だから俺は誓った。絶対にこのメンバーで美味い弁当を作ってやると……彼女達と共に、俺達を追放した奴らを見返してやろうと誓った。
だがその道のりは決して楽なものではなかった。厚焼き玉子ちゃんや素揚げ唐揚げちゃんはさておき、当初、全員が全員、俺に好意があるとはかぎらなかったからだ。
特に温野菜ちゃんの追放の遺恨は深く、男であり、元主食である俺を幾度も追い出そうとしたぐらいだった。
そう、俺は他のおかずさん達と信頼を得る必要があった。全てはそこからだった。
一緒に弁当の勉強をしたり、試作を重ねたりなど切磋琢磨した。新たなレシピや彼女達がより輝ける盛り付けを模索するなど、たゆまず努力した。
その際、米の磨ぎ汁かのように副産物として、彼女達とラブコメ的な事は多々あったりもした……まあ、大きな声では言えないが役得だ。
ラブコメ展開は許して欲しい……俺が米だけに。
ごほん……それはさておき、彼女達のポテンシャルは半端じゃなかった。少しずつ信頼を得て俺を中心として作った弁当は売れに売れ出し、その名声は王都にまで響き渡るに至った。
≪≪≪
「頼む、おにぎり……戻ってきてくれ……」
追放から半年が過ぎた頃、SSギルド【王都のお弁当】のギルドマスター、サンドイッチとそのメンバーが、俺達が作った新ギルド【おにぎりさんのお弁当】を訪ねてきた。
サンドイッチの容姿は半年前と打って変わって随分とくたびれていた。もう水分が抜けてパッサパサになってる。かつての傍若無人で高圧的な態度は何処へ行ったのやら、今では力なく頭を下げ、覇気も全く感じられない。
だが俺は一切の動揺を見せずに言い放った。
「断る」
シンプルに答えを返してやった。うちのギルドメンバーの彼女達も頷いている。
俺は彼女達との信頼を勝ち得た。涙ぐましい努力の結果だ。まあ、体がちょっと持たないぐらいのラブコメは未だに続いているが。
俺が米だけに——ごほん。
「何言ってるのよ! わざわざこんな田舎にまで出向いて誘ってあげてるのよ、ふざけたこと言ってないでさっさと帰ってきなさいよ!」
金切り声をあげるパスタは以前のような煌びやかなソースではなく、オリーブオイルを申し訳程度にまとっていた。非常に貧相に見える。せめてバジルでも散らせば良いものを……。
「だから、嫌だってば」
めんどくさそうに答えてやった。怒りを滾らせているのはパスタのみであり、他のメンバーは意気消沈していた。どうやらパスタとは違って俺が断るのを分かっていたようだ。
「あんたに選択肢なんてないわよ!! いいから戻りなさ——」
「随分とシンプルな出で立ちじゃないか。原因はカロリー過剰……だな。重過ぎたんだよ、あんたらのギルドが作る弁当は。その件はあの時に何度も俺は忠告しようとしたんだかな。だが一切聞く耳持たずで最後まで語らせて貰えなかったが」
先ほどまで威勢の良かったパスタは、苦虫を噛み潰したような表情を見せた。
「漠然とした内容じゃ分かりにくいだろうから、少しばかり数字で表してやる。いいか、パスタは単体で100gあたり約380kcalだ。それに引き換え、俺は150gでも240kcal。大きな差だ。更にパスタにソースが加われば、おのずとカロリーは跳ね上がる。たまにならいい。だが毎日の弁当にソースの絡まったパスタは重過ぎるんだよ! そしてその相方はサンドイッチ! パンだ! これも米に比べてカロリーは高い! 高い×高いの二乗だ! それに濃厚な唐揚げなどの肉メインのおかず! デザートにフルーツの果糖! 脇に申し訳程度に添えられた生野菜程度じゃ、もうどうにもならないところまで来ていたんだよ……そんな弁当は……初めはもてはやされても、直に廃れる。それが今のあんたらだ」
息もつかずに言い放った。反論は聞こえない。どうやら身に染みている事のようだ。
しかし、自尊心の高いパスタはその状況下でも引くことはなかったようだ。ソースをまとわず、他のおかずの下に敷かれてでも弁当の具材に入り込みたかったのだろう。
だから廃れた。
しかし、サンドイッチもあのじゃじゃ馬は乗りこなせなかったようだな。パッサパサになったのはパスタのせいだったりして。
「分からなかったのか? サンドイッチが我が物顔でメインになっている時は俺は前に出るのを控えていた。だが俺が去ってからはどうだ? どうせサンドイッチとパスタがずっと前に出っぱなしでずっと1000kcal超えのハイカロリー弁当を作り続けていたんだろ? それに毎日毎日パンとパスタでは飽きも来るに決まっている」
どれだけ美味しい物でも毎日食べると飽きは必ず来る。だから俺はサンドイッチに休んでもらうよう気を回し、お客さんに飽きが来ないように俺がメインを変わっていたんだ。
俺がパスタとサンドイッチに真実を語っている中、体を震わせて一歩前に出てくるおかずがいた。
「わ、私はね……隅で努力したんだよ? おにぎり君が抜けたギルドを支える為に。でももう限界なの。ね、ねえ、分かってくれるよね……? だ、だから私だけでも助けて……私だけでもおにぎり君のギルドに入れて……」
蚊の鳴く声ような声で訴えてきたのは、生野菜だった。その突然の裏切り行為に【王都のお弁当】のメンバーは目を丸くした。
だがあの時……追放される時に冷笑していたのは、紛れもなく生野菜だった。まさに手のひら返し。随分と都合の良い話もあるものだ。
「……野菜は間に合っている。それにそんなかつての仲間に冷水を浴びせるような奴はいらん。うちのギルドにはずっと健気に食べてくれる人の健康を案じる、文字通り温かい心が通った温野菜さんが居るからな」
「そ、そんな……」
「ふぁっ!? お、おにぎり!? ひ、人前だぞっ!?」
生野菜は崩れ落ち、逆に温野菜さんが頬を真っ赤に染め上げ、照れ隠しで俺を小突いてきた。
「もう! おにぎり! 温野菜ちゃんばっかり贔屓して!」
「そうよそうよ! ちょっと最近、温野菜ちゃんといい雰囲気になること多いよ!?」
「なっ!? お、お前ら見てたのかっ!?」
出汁巻き玉子ちゃんを筆頭にブーイングが起こった。おかげで温野菜ちゃんの顔は真っ赤だ。もう煮崩れしそうな程に。
だが、これは一周回って俺が窮地だ。ちゃんと弁解しておかないと……。
「ち、違うんです! 誰かひとりをどうこうって訳では……その、ほら、俺、何の取り柄もないただの具無しおにぎりですから。だから、俺には皆が必要なんです! これからもよろしくお願いします!」
俺のハーレムギルドを目の当たりにして落胆するギルド【弁当】の面々。彼らはその後、ギルドを解体し、散り散りになったとも聞いた。
自業自得である。弁当全体のバランスを……弁当のなんたるかを見抜く事ができなかった者の末路だ。
腹持ち良し、冷めても美味しく、お弁当にも最適なおにぎり。彼らの愛情がいっぱい詰まったお弁当は、今日も売れに売れている。
(2022/3/31記載)
約一年前に書いた作品が、まさかのジャンル別日間一位に……。こんなことってあるんですね……。
((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル
恐らく現在連載中の
『聞いて下さいっ!タイムリープした先で二人の美女が胃袋を掴まれたと迫ってくるのですが、どうしたらいいですか!?』
でもジャンル別日間一位を取れましたので、そこから作品欄にとんでいただけたのかなと思っております。
(露骨な宣伝お許しを(笑)まだ見ていない方は、見てみてね♪)
皆様、応援ありがとうございます!