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1−5 早くご当地料理食べたいわ!

「ドラゴンメイド殿がこの大陸に来られたようだ」

漆黒の闇が支配する空間に一人の魔王が座し、一人の側近が立つ。ここは奈落の魔王城・アップグルントの魔王の間である。

肘掛けに肘を付き頬杖で不敵な笑みを浮かべてる女性こそアップグルント・ザータン魔王本人である。

男性魔王はその圧倒的過ぎる身体的力と魔力によるものだが、女性魔王はその力には少し劣るが、魔の奈落に落ちそうな魔的な美貌にて支配する。その美貌に贖える者はおらず、力なき種族は簡単に心を魔に落とし発狂死する。それは勇者も変わらない。


「あの方が来られるとは。この大陸が荒れるのか。若しくは三色竜王様たちを…」

側近はザータン魔王と顔立ちがよく似ている男性魔人である。血縁的には従兄弟に当たるため、その内にに秘める力は歴代魔王と並ぶ。

漆黒のフルプレートアーマーを着込み漆黒の鞘に収めた魔剣・ダーインスレイヴを常に佩帯している。


「どうであろうな。()()()()()()()()()方だ。この大陸を破壊するつもりはないであろうよ」

「どうでしょう。気分屋のところがあるお方ですから」

「はは。そうだな。そうだったな。十度の転生を繰り返して少し忘れたかな」

「いえ。陛下ほどあの方を知る者はございません」

「ああ。久しぶりにお会いしたい。また旅をするのも良いかもしれぬな」

「陛下の御心のままに」

「その時はこの国を任せるよ。ルシファー・ザータン」

側近ルシファー・ザータンは、剣を外し跪き恭しく頭を下げ臣下の礼をとる。

アップグルント・ザータン魔王は、漆黒の闇の向こうにある太陽を眺め、三万年前に共に旅をした思い出に浸る。


 ◇◆◇◆


メーアたち一行は、複数台の馬車に乗りリントヴルムが最後に現れたオアーゼ・ハルガに向かっている。

案内役を指名された情報文官、メーアたちとヘルト勇者パーティーの世話をする従者数人、馬車を交代で操縦する御者も乗っているので、街道を歩くと者たちは興味津々で見ていた。

ハルガは、かつてピラ砂漠全土を支配し数千年前の三色竜王たちの戦いで滅んだアルタートゥム・エギュプテン王朝の遺跡が残るオアーゼで、その遺跡から途絶えた数千年前の歴史を調査する考古学者たちが訪れる土地でもある。

ただ単一種族主義の時代で他種族の歴史を調べようとする学者たちを奇異の目で見る習慣がある。いわゆる異世界人扱いである。

歴史的価値を見出そうとしないこの時代の人々にとっても、この時代では失われた技術で作られた遺跡の壮大さは認めているようで、観光地として人気がある。

ザント領主としても、観光による税収入が途絶えるのはかなり痛手で遺跡を護りたい考えである。

それ故か、討伐と決めたあとの行動は領主が管理する国庫から惜しげもなく(領主の裁量で出せる分までだが)、必要な装備と貴重なアイテムを大量に放出した。

ヘルトたち勇者パーティーは国王から貸し与えられた装備と聖剣があり、リヒトは竜人が持つ強化能力の一つ【ドラッヘ・ケルパー】があり秘剣も佩帯しているので、領主からの装備の貸与はなかった。

領主に押し付けられたのはメーアである。臍を出した急所しかカバーしていない超がつく軽装備で剣などの武器を佩帯していない格好を見れば誰でもリントヴルムの撫でるような仕草でも即死をイメージする。

必死の形相で迫られ暑苦しさに負けたメーアが選んだ装備は、超が付かない軽装備でやはり臍出し。メーアにとって装備は、ファッションの一つでしかないので、フルプレートアーマーなど無骨な装備や悪趣味な装飾を施しまくった装備は選択対象外である。

剣は、ザント家の家宝である大剣を借用し、背中に装備する。ただ、その大剣もメーアの高身長の前では小さく、普通の長剣に見える。

馬車内では、大剣を外し椅子に立て掛けている。向かいにはリヒトが座り二人だけ乗車している。


「高が弱き人族に力を貸す必要もないだろう。何故同行を許した」

竜人にとって人族は、腕を回しただけでも死ぬ弱気種族という認識。

勇者から感じる技量は、やはり人族を超えている印象は無かった。それは、パーティーを組んだ故の弊害と言える。

巨大な敵には、相応の人数でパーティーを組み倒すという戦略は、底辺に近い種族で必ず見られる考え方だ。それが当たり前で常識で疑う余地もないため、他の戦略を試そうともしない。

パーティーを組む故の弊害とは、大人数による火力(敵を倒すための物理的な武力を指す)、弱体化魔法や禁呪(人族では扱いが難しいという意味での魔法)などで敵一体を倒しても得られる経験は少なく、種族が成長することはない。


()()()からの指示だったからよ。断れないでしょ?」

「様をつけると余計に胡散臭いぞ。他に理由があるだろう」

「理由の一つであることは本当よ。昔の旅仲間だからね」

「人族にしては見所がある奴だったな。王族でなければ勇者になれたろうに」

「他の理由はその内にね」

「暇つぶし以外に理由があるとは思えんが」

馬車の窓に向かって嘆息するリヒト。

一方、勇者パーティーが乗る馬車では、ヘルトが剣を【神剣・バルムンク】にすべく神句を唱えているが、一度も成功していない。

ヘルトは、ハルガに着くまでに神剣をものにしようと何度も試みていた。

一介女冒険者を自称する人族のメーアが神剣にすることが出来た事が、勇者である自分に出来ないはずはないと、出発する前から無駄にニ十回を超えるチャレンジをして失敗している。


「俺に何が足りないと言うのだ」

「ヘルト。あなたは十分に強いわ。神剣でなくても魔王は倒せるわ」

ヘルトのつぶやきに応えたのは、幼馴染の女魔法使い。

子供の頃からヘルトの傍らにいて助力してきた健気な女である。健気過ぎて火水風の三属性魔法を全て極め複数の属性を融合する事で新たな魔法を生み出したほどで、人族随一の魔法使いである。


「ありがとう。だけど、今までは、このままでは魔王を倒せない気がするのだ」

ヘルトには、先代の勇者は神剣を使えていたと言うメーアの言葉が、心深いところに突き刺しっている。


「確かにのう。あの神剣を見てしまったら神剣でなければ倒せない気がするのう」

白髭を擦りながら好々爺のようすを見せる。賢者は豊富な魔法技術と知識を持っている他、世界情勢や歴史に精通している。所謂生き字引だ。

故に賢者の言葉は、このパーティーで貴重な助言になる。


「とは言えじーさん。神剣を扱うのに何か必要なものがあるのか? 例えばギフトとかよー」

賢者に対して横柄な口調で返したのは、重装備戦士である。パーティーの盾役でベヒーモス戦で彼がいなければ守備で耐えられなかっただろう逸材だ。ただ、脳筋であるので考えることは他人に撒かせている。


「教会の秘蔵書庫の書物は全て読んでおるが、神剣については何もなかったのう」

「ギフトが必要なら、ヘルトだって【邪悪を断罪(ツュッヒティゲン)する者(・ブーゼ)】を持っているわ」

【邪悪を断罪する者】とは、神の正義に反する者に対して全ての基本能力が数十倍に上がるのと相手を萎縮させる威圧によって行動遅延させる効果がある。まさに魔王に対して有効的すぎるギフトと言える。

それを女魔法使いは主張し、神剣でなく聖剣で魔王を討伐出来る根拠としている。


「ギフトで無ければ才能かよ」

「才能。ダーメとの差は才能…か」

窓の外に目を向け遠い砂漠の丘を見て嘆息する。


「ヘルトが遠い目をしてしまったわ。どうしてくれるのよ」

「いや、才能が無いって言ったつもりではないんだが。そ、そうだ。()()って誰が作ったんだろうな」

話題を反らすために振った話題だろうが、重装備戦士はまた余計な話しを振る。


「教会では【神から与えられし聖剣】と言われておる。書物にも例外なく書いてあるぞ」

「故に神が鍛えた聖剣であると誰しも理解しているわ」

「つまりは、神様がこの世界にある聖剣を作られたならば、神様もこの世界に実在するのでは?と思うのさ」

「神は常に天上から私達を見守ってくださっているわ」

「そうじゃな。教会の者も信者もそう唱えているが━━━」

「神が地上に降りていると言いたいのか」

ヘルトは、そう返して前を走る馬車に視線を向ける。その視線を追って誰を指しているのか理解する女魔法使いたち。


「そこまでは思っていねーよ。だいたい先代の勇者が神剣を扱えた事が本当なら人族でも扱えるはずだぜ」

「先代勇者は、魔王に敗れた者として一族では蔑まれている。記録や言い伝えなど残ってない。どんな技量を持っていたのかどんなギフトを持っていたのか分からない」

今思えば、その記録があれば神剣を扱えるヒントを見つけられたのかも知れない。


『ダーメが知っているとは思えないけど、自分よりは何か知っているかも知れない』

次の野営地で降りたときにでも聞いてみようと思うヘルトであった。


 ◇◆◇◆


魔王城の軍会議室では定例の軍議が行われていた。

議題は、フランクライヒ王国への侵攻についてである。軍部では本格的に進行すべきだと意見が大半を締めている。

そもそも小規模戦争に留めておく必要性がない。これは、魔王の指示で決められているので勝手に侵攻するわけにいかない。

なので会議は、【今すぐ侵攻すべきだ】と【魔王様を軽視する発言だ】の意見で紛糾を極めて今にも髪を引っ張り合う殴り合いの喧嘩になりそうな雰囲気である。

この会議には、魔王本人も席についている。肘掛けに肩肘をついて頬杖でニヤニヤしているだけだ。

こういう殴り合いに進展しそうな会議は、いい息抜きだと魔王は考えているので止めたりしない。

ただ、魔王の側近の方は、今にも沸騰しそうな真っ赤な顔で、それこそ鬼の形相で言い合いを続けている魔人たちを凝視している。こっちが先に切れそうな感じだ。


「フム。そうきたか」

魔王の呟きが思った以上に魔人たちの注目を集め、紛糾してた会議に静寂が生まれた。

そんなことに目もくれず、感じ取ったイメージを堪能する。

ザータン魔王は、世界を見通せる能力【世界魔眼ヴェルト・アオゲ】を持っている。この能力でこの大陸の世界情勢を常に見ている。いわば、のぞき見である。


『我の予想より十年早まりそうだ』

魔王は、立ち上がり皆に手を差し出し宣言する。


「傾聴せよ、我が愛しき同胞! 我が居城に勇者が攻め込んだのち、手薄になったフランクライヒ王国への侵攻を開始する。仕度せよ!」

「うおおぉぉっ!」

魔人たちのドスの利いた歓声が沸き起こる。

側近は、この本格的な侵攻に魔王が何の利益を得る考えなのかを知っている。おそらくだが、フランクライヒ王国の国王も同じ考えだろうと思っている。そのための獣王国との同盟だろうから。


 ◇◆◇◆


領都出発から二日が経過しているため、ハルガに入る前に最新の情報を得る必要があった。

一つ手前の小規模オアーゼで、情報を収集し続けていた情報局員と待ちあわせする事になっている。

また、この先は一般人である従者などは危険であるため、メーア一行とヘルト勇者パーティーのみで行くことになっている。馬車や従者などはこのオアーゼで待機、一週間の間までに戻って来ない様ならば、領都に戻る手筈である。

メーア一行とヘルト勇者パーティーは、領主からこのオアーゼの管理を任されている村長の部屋で寝泊まりすることになった。

村長の家は、このオアーゼに住む村人たちの集会所や商人がこのオアーゼで商売する際の手形発行所などがあり、大小さまざまな部屋があって個々に寝泊まりすることが出来る。

その会議室にメーア一行とヘルト勇者パーティーが向かいあって座り、現在のハルガの状況について報告をきいていた。

結論から言えば、二日前から被害状況は変わっていない。


「というより、あれだけ暴れていたリントヴルムはが大人しくなっています。何かに怯えている様な印象を受けました」

現地で情報収集をしていた情報文官の一人から、二日前まで暴れていたリンドヴルムが急に大人しくなり、ハルガの被害が拡大していないと言う報告。

竜は、全種族の頂点に立つ強者。わがまま顔で街を破壊したり家畜など搾取する。他種族の命など蟻の命と変わらないと思っている種族だ。

蟻の方からすればたまったものではない。とはいえ何かできるかと言えば、蟻を上回る能力を持つ蟻が生まれたときに一矢報いるぐらいだ。天災・厄災の権化である。

下竜とはいえリンドヴルムが怯えているのだ。逆説的にただ事ではなくなっている。


「これ以上の厄介事は止めて欲しいぜ」

重装備戦士のように声を出さないが、勇者パーティーと情報文官たちも同じことを思っている。

リヒトは寡黙に座っているだけ。メーアはなぜか苛ついている。


「目撃情報はありますか」

「いえ。全くありません。もしリンドヴルムを超える竜が近くにいるのなら情報が入って来るのですが」

ベルトの問に答える首を振って答える情報文官。

情報文官たちは全国各地に現地で雇った職員も含め、最低でも一人はいる。情報は王都に集まり各地に伝達される。ただ、魔法的な伝達手段は人族では扱えない超上級魔法(超は人種的に扱えないと言う意味)なので、もっぱら早馬で書類を運ぶ方法が取られ情報伝達画遅くなる。


「ハルガ周辺にもいないとなると、何に怯えておるんじゃ」

「賢者でも検討つかないの」

「絶対の頂点に立つ三色竜王様は、今は寝ておられるから対象外じゃな。その眷属である黒竜白竜青竜も近くにいればわかるし」

三色竜王は最強古竜に分類され、黒竜白竜青竜は上級竜になる。

いずれにせよ、リンドヴルムにとっても合えば命を諦めるほどである。

底辺に近い人族は危機に対して鋭敏な感覚を持っていて、姿を人型に変えても畏怖感は変わらないためわかるとされている。


「竜王様以外の色がつかない竜とかかしら」

リンドヴルムやウロボロスなど色がつかない竜の定義としては、竜王たちの戦いで剥がれた鱗から生まれたとされ、鱗一枚分の力しか持っていないと言われている。

それでも十分に脅威だが、人族の危険感知には何故か引っかからない。

ウロボロスは、リンドヴルムより格上になるので怯える理由にはなる。 


「その様な目撃情報もありません」

情報文官が言い切るのだから間違いないのだろう。

ただ、【存在しないとして行動する】のと【存在可能性を考えて行動する】のでは、準備が変わってきてしまう。


「ダーメは、どう思いますか」

ヘルトは、先程から機嫌が悪いメーアの意見も考慮すべきと考えた。この馬車の移動でメーアへの印象が大きく変わった。

馬車を引く馬を休ませる休憩時や朝職前の鍛錬でメーアから指導(というより押しかけて無理矢理にだが)を受けていた。


「他にもいたら逃げれば良いんじゃないかしら」

至極最もな答えが帰ってきた。確かにその通りなのだが、リンドヴルムやウロボロスが見逃してくれれば、の話しだが。

とはいえ、怯んでいる場合でもないとも言える。大人しいとはいえ、リンドヴルム六体はまだハルガの街にいるのだから。


「わかりました。それで行きましょう」

「ヘルト!? 何を言って━━━」

「ハルガには、住民がまだいるんだ。早く助けに行かなければならない」

「それはわかるけど」

「これはパーティーリーダとしての決定だ。ダーメもそれでいいかな」

「構わないわ」

即答に苦笑するヘルト。それにメーアが苛立っている理由に思い至って会議を終えようとしていたのだ。


『早くご当地料理食べたいわ!』

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