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1−4 旅費に困った一介の冒険者よ

12日17:30頃 誤字修正しました。

13日18:40頃 砂丘を砂漠に訂正。規模的にもオアシス(オアーゼ)の存在的にも間違っていたので訂正します。ピラの名称はそのままで。

緊急クエストの国王判断が下りギルド長のもとに書簡がとどいたのち、リヒトがこの国・フランクライヒ王国のオンフルールに到着したのはそれから一日が過ぎたころだった。


再び冒険者街にあるギルドのギルド室に集まる。

メーアが入室すると姿を覆い隠すフード付きの外套を着た怪しげな雰囲気を醸し出す者が長椅子に座っていた。

ギルド長と女ギルド職員は、少し緊張気味な感じである。

緊張しているのは、外套を被った者がリヒトと言う名の竜人だからである。

ギルド長は、これで二回目の対面であるが、この世界の常識的価値観から考えると、慣れるということはない。

緊急クエストの大型リントヴルム討伐にあたって国王は、リヒトの入国を許可する代わりに、もう一つパーティを加えることで許可した。

それが、リヒトの反対側の長椅子に座っている勇者パーティー四名である。

勇者・ヘルトは、金髪碧眼の青年でいかにも若い女性が熱を上げるような精悍さである。

身長は、メーアより低いが一般男性の平均から大きく上回っている。

他の三人は、ヘルトと幼馴染の女魔法使い、盾役の重装備戦士、そして白髪白髭老人の賢者である。

リヒトに対して一方的な敵意を向けている。

メーアがギルド長に勇者パーティーまでいる理由を聞くと。


「鍛えてやってくれ、との事だ」

ため息をついて勇者パーティーの方を見やる。リヒトに向けている敵意の半分は、これが理由である。

勇者は、魔王を倒し得る人族最強の実力を持っている。それが国王にメーアに指導してもらえと言われて反発、国王や女冒険者であるメーアに言うわけには行かないので、竜人であるリヒトに向けているのだ。


「リントヴルムの討伐は、俺たちで十分だ。他の種族の手を借りるほどではない」

「なるほど。悪いけど、この緊急クエストは私が受けたクエストだから、あなた達に行動方針を決める権利はないわ」

「ダーメ。貴方こそこんな危険なクエストを辞めたほうがいい。無駄に命を捨てる必要はないよ」

ヘルトもメーアがSクラス冒険者のアプゾルヴィールングであることは、ギルド長からも聞いているが、背の高さや美貌には驚いたものの、体の細さや筋肉の付き具合から見ても勇者のような超越した力を持っている様には見えなかった。

勇者と言ってもこの程度かと嘆息する。見に来て損したとも思ったメーア。


ヘルトにも思う所がある。

数百年に一人しか誕生しない勇者。先代は百二十年前で元冒険者ではなかった。一介の農民だった男が勇者になった。当然、実践経験などなく、王国に士官することで剣技を習ったものの、魔王との戦いでは命を落とした。

【俺はそんなヘマはしない】

ヘルトは、その先代の末裔だった。家の待望もあり実践経験を積むために冒険者になった。幼馴染の魔法使いをパーティーに加え、重装備戦士、賢者と仲間を増やして、Sクラス冒険者にまで登り詰めた。

そして、緊急クエストの【大量発生したベヒーモスの討伐】をクリアして、卒業者となった。

人気が出て王宮から出られない日々が続き実践から遠ざかっているものの、実践経験は豊富で確かな実力を持っていると自負している。

それだけに、実力が不確かな突然現れたSクラス冒険者の卒業者を快く思っていない。

しかも、女性。男尊女卑の趣味はないが女性冒険者は不利であり、今までにSクラス冒険者が誕生したことはない。

正直なところ、胡散臭いと思っている。

ギルドが宣伝用に祭り上げた女性冒険者で、今回の緊急クエストを受けさせ勇者パーティーに討伐させてハクをつけさせるつもりなのだろうと。

そして、そのサポートのために雇った(と勝手に思っている)竜人、自分たちでは役不足かと憤っている。


「リヒト。窮屈な思いさせてごめんなさいね。ギルド長を恨んでね」

「問題ない。余人の戯言に惑わされ足をすくわれるワレではない」

ギルド長は、俺に振るな!って仕草をしている。とはいえ、お互い言葉にトゲがある状態では、自分が仲裁に入るべきだろうと思い直す。


「ヘルト殿。メーア殿の実力は私が保証する。君たちの先輩から学ぶところは多いと思うぞ」

「先輩? この若い女性が?」

「若く見えても実際は━━━」

「何を言おうとしているのかなー。ギルドちょ〜ぉ〜」

荒ぶる竜の形相を幻視する全員。冷や汗をかいて硬直する。


「ま、まー。ギルド長がそういうのならば」

最初に正常にもどったのはヘルト。さすが勇者というところだろか。

兎にも角にも、緊急クエストに参加するパーティーが揃い、早速出発することにした。


 ■◆□◇


港町オンフルールの西に大陸最大のピラ砂漠があり、いくつかの国が分割支配している。

フランクライヒ王国側は、ザント伯爵領の一部となっており、いくつかのオアーゼが交易の町になって商人たちで賑わっている。

リントヴルムが現れ、そのオアーゼに被害が出始めたのは、もう二週間(十四日)になる。

ザント伯爵は、直ぐに国王に上奏。その日の内に緊急クエスト発行となったが、大型リントヴルム一匹を討伐するのに数十名以上のSクラス冒険者が必要とされているため、受ける冒険者がいなかった。

現時点で被害が拡大している可能性が有るので、最新の情報を持っているザント伯爵との面会することになった。


領主・ザント伯爵との面会は、執務室で行われた。

豪華な長テーブルの上座には、ザント伯爵が座りその隣に情報文官、伯爵から見て右手にメーアとリヒトが座り、左手にヘルトたち勇者パーティーが座っている。

リヒトはフード付きのマントを着ている。伯爵に対して非礼ではあるが、その素性を事前に知らされていたので問題とされていない。


「━━━以上が、二日前までの状況でございます。現在では被害がさらに拡大している可能性がございます」

情報文官からの説明では、領内にある五つあるオアーゼの内、三つがリントヴルムよって破壊され、被害が甚大、大量の移民が領都に向かっているとのこと。

これにより、商業としてのオアーゼが機能しなくなったため、交易による税収入が数年先まで減少確実と試算されている。

しかし、それよりも問題視されたのは━━━。


「リントヴルムが六匹に増えただと!」

机を叩いて怒声を上げるヘルト。

リントヴルムは、下級ドラッヘに分類される竜だ。魔王を倒し得る勇者ならば討伐できる可能性がある、一匹までならば。

大型リントヴルムは、最初に発見された一匹のみで、他は中型が二匹、小型が三匹。大型が増えていなかったことは、不幸中の幸いととても言えない。

これを受けるのは、死に行くようなものだ。


「だが放置するわけには行かぬ。早晩この領土が廃墟となり多くの領民が命を落とすことになるだろう」

ザント伯爵は、ほぼ確実に来るだろう未来に歯ぎしりする。続けて。


「最低でも魔王国に押し付けたいが」

「無理だろう」

勇者パーティーメンバーもザント伯爵も、ヘルトの言葉に同意するように沈黙する。


「リヒトは、どのくらい行けそうよ」

「小型三匹ぐらい余裕だ」

「残りは、私ね。でも小型一匹は、勇者たちのために残しておいてよ」

「了解だ」

沈黙を破ったのは、メーアとリヒトの会話だった。その驚きの内容に再び沈黙が支配する。


「ダーメ。なんの話をしているんですか」

「国王に鍛えてくれと頼まれてるからね。小型ではなく中型がいい?」

「そこではない! どうしてリントヴルムを倒す前提で話をしているのかと聞いているのだ!」

「倒さないと旅費稼げないてしょ?」

「そうではなく。複数体のリントヴルムを倒せると思っているのですか」

竜の次に能力が高い竜人族のリヒトなら、言葉通り倒せるだろう。しかし、人族のSクラスの冒険者一人では小型でさえ確実に落命する。

もし、戦うならば最上級の装備や回復薬などのアイテム、パーティーの増員など準備が必要だ。

それでも一体をどうにかできる程度まで、複数体を相手に出来るわけがない。


「私だって複数体を同時に戦おうとは思ってないわ」

暇つぶしにちょうどいいし、と小声で続いたがリヒト以外には聞こえていない。

嘆息するリヒト。


「この者は、遥かにお前より強い。それに経験量も天と地の差ほどある」

ヘルトは冒険者として数々のクエストをこなし経験量は豊富だ。ただし、それはこの国での話し。

この国では、魔物や魔獣の出現率は小さい。群れの個数も少ない。数十年を掛けて冒険者が駆逐した結果でもあるが、元々少ない地域だった。

他の小国では、魔物によって滅んだ歴史を持つ国もある。

ある意味恵まれた地域で能力を開花させた者と他国を歩き渡って力を付けた者と差があるのは必然だろう。

リヒトは、その事を()()()()()()()()()つもりだったが、言葉が足りないようだ。


「お前に俺の何がわかると言うのだ」

ヘルトは、敵意むき出しで迫り殺意をも乗せた。

竜人に言われて感に触ったのだ。


「相手の技量を見抜けぬようでは早死するぞ」

ヘルト程度の殺意では、微塵も動揺したりしない。

【相手の技量を見抜く】

それは、経験を積み培われるものや持っている才能・ギフトなどで得られるもの。

自分の技量を測ることは勿論のことパーティーメンバーの技量を正確に把握できなければ、全滅しかねない。

【相手が圧倒的に強者だから止める】程度では話しにならないのだ。自分たちとどのくらい差があるのか、その差を埋める手立てがあるのかないのかを見極めた上で止めるという判断をしなければ意味がない。


「確かに種族特性で圧倒的な強者のお前なら、自分たち人族より上だろう。だが俺は勇者だ。お前さえも滅ぼし得る者だぞ」

「それはないな」

「何だと!」

声を荒げるヘルトに対し冷静沈着なな態度のリヒト。

ヘルトのパーティーメンバーは意に介さずを通し、メーアはただ笑っているだけ。

そこに割って入ったのは、ザント伯爵であった。


「もう良い。我が領地だけでなく国の存亡にも関わることなのだぞ。言い争って良い時ではない」

「失礼しました」

ヘルトたち勇者パーティーは、ザント伯爵の威厳に身を震わせ謝辞した

リヒトは、全く意に介さず沈黙で返す。


「だが、勇者殿の言い分も最もなことと言える。リントヴルムを倒せると言う確かな裏付けがあるのかね」

ザント伯爵は、冒険者ではないため相手の技量を見極める必要はないが、領主として国王より頂いた領地と領民を守る責務がある。

その責務に必要なものは、領主が持つ軍事力・領軍の練度を保つこと領民の暮らしを豊かにするための政策などである。

技量を見極めると言う不確かなことではなく、すべて客観的にかつ情報として把握する必要がある。

それ故のメーアに対する質問である。


「国王から私の情報は届いていると思うけど」

情報文官から【様をつけろ】【領主様に敬語を使え】【非礼なやつめ】と言いたそうな強烈な視線を送られるが意に介さない。

この程度、威嚇にすらならない。そして、正すつもりもない。慇懃無礼と言われても治すつもりもない。それが【メーア・クオリティ】。

ザント伯爵は、情報文官に控えるように合図する。それに萎縮し頭を垂れる。


「来てはおる。だが、俄に信じがたい」

国王からの手紙に書かれた内容に今一度目を通すが、目を疑うことばかり記述されている。

冒険者としての熟した緊急クエストの数々、本国だけでなく他国での眉唾ものの実績の数々、それらを成した期間、短期間ではなく気が遠くなるほどの長期間。

それら緊急クエストの一つ一つが、一国が亡ぶほどの危機に関するクエストばかりだ。

締めくくりに『他言無用。漏らせば国家反逆罪とす』とまで書かれている。

確かにこれを漏らせば、世間が騒ぎになる。ザント伯爵も知らない緊急クエストが多数ある。国民に知らされてないクエストが多い、いや多すぎる。


『ただの女冒険者が勇者以上だと言うのか』

あり得ない話しだと考えるのは当然だが、それは国王陛下に対して侮辱を行うに等しい。


「信じる信じないは勝手だけど、複数体のリントヴルムを放置しておく方が危険だと思うわ」

「焼け石に水では意味がない。それに人族の切り札である勇者を死なすわけにいかない」

ヘルトたち勇者パーティーは、ザント伯爵の言葉に異議を唱えたりしない。そうなる可能性が大きいと思っている。


「そう。勇者も同じ考えなのね。なるほど鍛えてくれとはそういうこと」

この勇者は弱いのだ。

持っている力量は、歴代でも上位のレベルなのだろう。しかし、その力量以上のことはせず上位者に果敢に挑む、無謀さを持っていない。

【勇者は、魔王を倒し得る存在】

あくまで、倒し得る存在なのだ。そこには、果敢に挑み無謀を行ってこそ倒せると言う意味が含まれている。

それが無いのであれば、魔王打倒などあり得ない。


「仕方ない。私がそこの勇者以上であることを証明すれば良いわね」

「どのように証明するつもりだ。勇者と決闘をするのかね」

「ダーメ。あなたを傷つけたくない」

「無駄な時間だ」

「勇者なら教会から貸し与えられている聖剣・バルムンクを佩剣してるでしょう。貸してくれるかしら」

バルムンクは、黄金の柄に大きなアウイナイトの宝玉を嵌めた幅の広い長剣で、勇者が持つと聖なる黄金の光をまとい、神に敵対する悪を切りすて滅ぼすことができる。

魔王は神に敵対する存在であるとされているため、教会は勇者に貸し与えている。

実際、ヘルトは聖剣バルムンクを聖なる黄金の光で纏わせることができる。いや、纏わせることが出来たからこそ勇者であると証明できる。


「自分も勇者だと証明するのですか? それはあり得ないでしょう。勇者は神から与えられたギフトを持つ者でおり、ギフトを持つからこそこの剣を使用できるのですから」

ヘルトは、長机の反対側で座っているメーアのところに歩み寄ってから黄金の鞘のまま渡す。


「人族の伝承だとバルムンクは、黄金の聖なる光を纏い神に敵対する悪を滅ぼすとされているけど、他の種族では別の伝承が伝わっていることを知っているかしら」

バルムンクを受け取ったメーアは、鞘からバルムンクを引き抜き剣の輝きを見る。


「知りませんね。知ってどうなると言うんですか」

「先代の勇者は、知っていたわよ。そしてちゃんと使いこなしていた」

「は? 何を言って━━━」

刀身に沿うように鞘を並べて()()()()()()


【全ての愚かなる者を討果す()()となれ】

黄金の聖なる光ではなく、さらに神々しい白金の光に鞘と刀身が包まれて融合する。刀身は二倍の幅と長さの神剣へと変わる。

その圧倒的な神々しさに畏敬の念を懐き平伏したくなる衝動に駆られる。

現に勇者のヘルトとリヒト、バルムンクを持っているメーア以外は、席を外して床に平伏していた。


「これが【神剣・バルムンク】。魔王の魂をも滅せる剣よ」

「何という神々しさ。神が御降臨されたかの様だ」

ヘルトは、その神々しさにある美しさをその剣にみた。そしてその剣を持つメーアの美しさにも見惚れてしまう。


「ダーメ。あなたは何者なのですか」

「旅費に困った一介の冒険者よ」

メーアの笑顔は、傾城も生温いほどの美しさを兼ね備えているように見えた。それは決して、神剣・バルムンクの光に照らされたものではないと確信する。


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