逆説「敵」言い回し
たまたま出くわしたキャットファイト。一人を送る流れに。
◇逆説敵言い回し◇
恨和表
人前では口に出すのも憚られる変態殺人事件が起こった際。
「犯人のパーソナリティはその生まれ育った環境に影響を受けていると思われます」。
・・とのなんたら専門家だかプロファイリングがどうしただかの解説が。
けれどならば。
「生まれ育ちに影響されない人間がいる」のだろうか。世界的権威のご高説やら犯罪心理学かんたらなんぞ引き合いに出さなくても、太陽が東から上る位ありふれ現象じゃないのか。
・・・否、ありきたりじゃないと気がついたのはある女性と出会ったから。
先天要素の他、完全後天影響が人間にはある。犬だって躾重要。鷹匠は年季必要。
駅員と揉めた。同じ池袋に行くのに、得しようとか、キセルの意識はないのに。
金が足りないというのだ。「値上げしたのか?」「小竹向原経由と直接来るのとでは違う料金になるんだよ。もうかなり前からの話」。
泥棒扱いされるのも面白くないが。わずか数十円で時間を取られるのもつまらないので即白旗。「即」とはしながら客観時間と主体経過は違う。
「この駅員は自分を電車歴なしと思ってるのか。あるいは外国人。懲役終えて出てきたばかりの犯罪者視線?ならば訂正しないと。けど『前科はない。日本人。東京人』と言い訳並べるのも変だし。『運賃間違えたのは普段、高級車で移動してるからだ』じゃ嘘になる。
・・・といった葛藤の末、白旗、なので。時間を図れば一秒に満たないが、文字にすれば、脳に走った電気エネルギーとしては結構嵩んだ。
前段からしばらく。駅からちょいと離れた所で。つかみ合いの大喧嘩。
殴るは蹴るは、はだけるは。止めに入ったけれど、引き離しはしたけれど。女同士の派手なやり合い、初めて見た。
あくまで赤の他人だし、どこまで入り込んでいいものか。一旦、収めたんだから。それ以上は。が。家に戻ってからも気になった。
そのまま収まってたら問題ないが、警察沙汰やら、病院送り、刃物沙汰なんかになってたら。あるいは駅にはチーマーやら不良がたむろってたので、奴らに見つかればどんな展開になるやら。もっともチンピラに売り飛ばされた先が今の店で、既に心配亊は発生済みの挙句、今日に至ったのかも。
トラブルやら事件なんて山ほどあるんだから、いちいち首突っ込んでらんないだろう。
可愛そうな子供やら、水がない地域やら世にはいくつもあって、全不幸を個人が背負えるはずもなく。
「戦争はいけない」なんぞいちいち言われなくたってわかってるよ。殺し合いが良いと言ってないだろう。でもなくならないんだし、隣接異民族、他宗教なら摩擦が起きないわけがない。だから個人同士だって揉めるのは当然。職業に貴賤なしなら殺し屋も職歴だし。既に村人が殺されてるならやる前にやらないとこっちが全滅。良いの悪いの道徳やらこね回す頭も吹っ飛ぶ。
いやいやいや。世界中の不幸、背負い込みと狭い限定生活空間の波風は別。
最低限、見て見ぬふりは人間としてどうなのか・・・・。
等々、感情、判断の振り子は収まらない。シャワー浴び、一段落、車で再度「現場」に行ってみると。
血だらけ、人だかり、パトカー。大混乱。
の予感もあったが。
「あっ、さっきの兄さん」。
車窓越しだというのに、止めに入ったこっちを覚えていたようだ。
記憶あり。血痕、黒山、緊急車両はなし。
二人、酌み交わしてる。全く予想しなかった風景。
もっとも予感、予想が当たりまくりなら競馬競輪、株、先物取引、勝ちまくりのはず。
「和解したのよ。心配かけて悪かったわね」。
一人は地元だというが、片方は寝城まで遠く、既に電車はない。自然、送っていく流れに。喧嘩は芝居で、関心を引き、タクシー代を浮かしたり、金取ったり、売春・・・なのかとも思ったが。助手席の彼女、ツカサと名乗ったのは源氏名か本名かしらないけれど策略や詐欺ではないらしい。ホステス同士、客を取っただの、誰かにつかさが悪口を吹き込んでただの、どこの店にもありがちなんたらからつかみ合いになったのだという。
「高かったピアスがなくなっちゃった」というし、ガチモメだったらしい。商売道具の顔にも痣があるし、「お前なんか辞めちまえ」「客が取れないお前が出てけ」のやり合いも本気度高かった。
◆×〇△◆
「人間は先天的要素のみにあらず、後天的環境あり」と思わせたのは彼女、つかさの言い回しから。
「私さ、男なんて金でしかない、なんて思ってないよ」。
「何度か自殺未遂してるんだけど。生きてたっていいことなんかない、なんて考えたことない」。
「結婚なんて売春の酷いやつじゃん、とは心にも」。
かつてこんな人工的というか恣意的逆説言い回しは聞いたことなかったが。
徐々に話の内容が変わっていったのは体目当ての客とこの自分とは違う人種、と気ずいたからだろう。実際、自分はその手の店に行かない。一体なんで見知らぬ女と話すと面白いのか、スケベ根性なら直、その手の欲望解決場に行けば済む話だろう、というのが定見というか。よって「送ってやったんだから、代わりになんたら、連絡先教えろ」という気もない。
本音で本気で心配だったのはむしろ自分の安全。どっちかが、あるいは共倒れで亡くなり、なんたら殺人事件に発展、目撃者の話から容疑者として浮上したのが自分、だったり「防犯カメラに映ってた不審人物」になる可能性もあった。冤罪なんていくらでもあるし、
捕まえた人間が真犯人じゃないのは警察やら検察自体が一番知ってるのに「無罪の証拠」は絶対出さず、税金使って納税者に濡れ衣を着せる種の事件はバレただけで山ほどある。
痴漢冤罪を車両で真っ先にかけられそうなタイプの自分は、だから電車には滅多に乗らない。知り合いに実際、捕まった奴がいるのだ。奴は本当に触ったらしいけれど。
よってツカサがいた現場に再び行ってみたわけで。
◇つかさ取り◇
最初はたわいもない「ツカサ的言い回し」、男女関係的話題だったのがだんだん変質していった。
「原発推進派なんてのはさ、どうしているのか不思議だけど。放射能だらけにして日本を全滅させようって連中なんでしょう。目先の利益しか追わない、負えない。自分が死んだ後の祭りは知ったことじゃない。金が目当てじゃないなら外国のスパイなんじゃないの、なんて疑ったことないよ」。
「宗教なんかに騙される奴の気がしれない。完全に狂ってる。財産巻き上げられるは、タダ働きさせられるは。単なる奴隷じゃない。どうしてひどい目にあって、いもしない神様なんか拝んでるのか、あんなの信じてる人たち、信じられない。ってな感想は一度も持ったことないし。純粋に素晴らしい人たちだよ。神仏に縋れる皆さんは」。
ツカサとはこれっきりというか、元よりたまたまキャットファイト目撃がきっかけで知り合い、後も前も関係なし。車だからといってどっかに連れ込もうとか、関係を続けてうんたら、はない。
なので「新道の所を右に行ったコンビニで降ろして」と言われてもあっさりしたもの。
後ろ髪をひかれようにも、頭は既に寂しい。
けれど、やはり最後まで彼女流反語というか、逆説「敵」言い回しはかなり後々まで引っかかった。
「新道ってもさ。十年も経ってんのよ。後から別の道もできてんのに。使った途端に古くなるのよね。新ってさ。それ自体が矛盾語。ネオナチなんてのも、どれだけやってんだか。ネオマーガリン、発売50周年とかさ。ニューミュージック、爺さん世代だよ。『新しい笑い目指してる』なんて芸人、本当、お笑いだわ」。
気ずかなかった。彼女にいわれるまで。新党、新右翼、新番組。新発売か。
彼女と同道したのは二時間程度だったろうけれど。
中でも新次元を開かれた言いぐさは。
「酒なんか飲んでると女は五年、男は十年でアル中になるのよね。だから稼いだら体壊す前にやめるしかないのよ。この仕事は。恰好つけてるつもりで『俺は酒豪だ』なんてね。威張ってるつもりが完全なキ〇ガイ宣言。分裂病、神経症、境界例とおんなじ。アルコール依存症はレッキとした精神病名なんだから。しかもよ。神経衰弱やら統合失調症だったら同情されたり、鬱ならどこの職場にも町内にもいるから、理解してくれる人もいるし、差別なんかしたら関係圧力団体から糾弾される。バカにしたり、笑ったりでもしようものなら人権問題。だけど。他の病気と違って、同じ精神病でもアル中だけは別。飲まない以外治す手はないんだから。しかも偏見でもない。事実、昼から飲みまくり。仕事もしないで暴れるわ、刃物振りまわすは、周囲に迷惑かけまくり。一体、毎年、何万人、何十万人が犠牲になってるか。社会復帰できるのは一割。九割は廃人のまま死亡。
麻薬だったら非合法だから捕まえてもらえるけど、刑務所に入ってる間に家族は逃げられるからまだしも。酒は合法だから交番の前で飲んでも捕まらない。家族も関係者も逃げられない。
昔なら親子の縁は勘当で切れたけど、今は死ぬまでどんな腐れ縁でも外せないんだから。
いわば覚醒剤が封建制が認めてた勘当で、酒は民主主義式合法麻薬。まるで民主主義が全人類目指すべき理想郷、みたいに言ってるの多いけどさ。吉原だって天下御免だったし、今なら同じことやっても捕まっちゃう。男も女も今も昔もいるのに。欲望が消えたたわけじゃないのに。可笑しいと思わない?おかしいわよね。完全に狂ってるよ。アル中と今の世の中は。ギリシャ時代に出来た民主主義が今の日本に合うわけないじゃない。江戸時代真ん中、安定期万歳よ。ねー、あなた独身でしょ?じゃなきゃこんな夜中にこんなズべ公、相手にしないもん。江戸時代だったら年貢取られても嫁さんは取れてたのよ。素晴らしき平和民主主義時代は税金巻き上げられるだけ。一切、返しなし。奥さんも子供もいないなんて、ドン百姓より悲惨だわ。どう百姓一揆でもやってみる?」。
完全にイっちゃった上での長口上。理が通り過ぎている上に難しい話になってきた。
同僚ホステス痴話喧嘩から始まって、世間に攻撃対象が移り。
「アル中なんて、アル中なんてさ、叩かれるしかない、救いようがない、いくらバカにされても後ろ指刺されても逃れようがない、誰も弁護してくれない、悪い意味での精神病、偏見じゃなくて事実として害悪一色。非難されまくりサンドバッグ。普通は厳しい状況にいれば、伝染病でも難病でも手を差し伸べてくれる人がいる、人権概念で行政やらも手助けしてくれるのに。見殺し。差別も偏見も逆転されちゃう病気ってわけ。シャブ中より立場も事実も下なんだから。女はね、女は五年も飲んでればおしまいよ。おしまいなのよ。肝臓なんかやられちゃえば。もうもどれない・・・もどらない」。
・・・さてはて彼女はいくつなんだろう。見た目20代。話内容、江戸時代。
主観時間と年表軸、ズレまくり。
「障碍者差別はいけない、人間的にやればそいつの人格が疑われる」というのが常識だが。酒はキ〇ガイ水なのか。
なんのこれ式に考えれば、あれもこれも。単純同情、偽善、転覆、転換されていく。
「日本じゃ手術が受けられないから。募金してくれ」。うっかりはまったけど。その後連絡も事故報告もなかった。死ね死ね詐欺。
終戦直後は長生き、満腹が夢。
いざ実現してみれば。暴飲暴食成人病。老々介護地獄。早死に願望蔓延・・・・。
主観的常識と時間的非常識、入れ替わりまくり。現実とは正邪を凌ぐ、聖者の行進。
「思ってない。心にもない」を最後につけても前半の提起が本音としか聞こえない。
珍しい、初めてのパターン、とも思ったが、デジャブ―っぽくもあり。
あー、そうだ。「~なだけ」を最後に付ける人と似たようなものか。
「あんなのはただ奇をてらっただけ」「人気はあるっていっても可愛いだけ」「客は入らない。強いだけ」。
どんなにすばらしく、余人が及ばない業績、実績でもやっかみたい、叩きたい奴は負け惜しみ丸出しで最後につける「だけ」。
◇年表対年裏◇
「心にないだけ」では出せない解もあり。
「東京湾岸なんてさ。昔から地震で全滅してるのに。どうしてそのまま終わりにならないでとうとう世界一人口が集まっちゃったのかしら。沼地だったのにね。今じゃ、海溝、震源そのものだから科学的にも一番弱いのが分かってるのに。行政も止めないし、法律もできないし、高層建てまくり。世界中、大体、酷い土地って原住民やら差別されてる人達が押し込められがちだしさ。どうして日本は、東京湾だけは土地が一番高い所が一番弱いのかしら。代々東京に住んでる原人土人は地震が来るのわかってるから住まないし。人口と文明がこんなに集中しちゃった例はないから。風船とおんなじで破裂直前なのはわかるけど。大抵、道徳の時間やら社会やら『平和が一番、戦争がダメ』やら言うし、『発展、安全が一番、誰でも心掛けてる』ってのが常識じゃない。でも現実は、東京湾はそうじゃない。ねーどう思う?」。
長講を一方的に聞かされてた上、黙ってるわけにもいかない。
「鼠を見ろ。集団で海に入るだろう。鯨はどうだ。浜辺に打ち上げられるだろう。人間も所詮動物、海に沈みたがるものなんだ。孤独死したいなら樹海かアパート。家族もろとも一緒に死にたいなら東京湾。高級マンションなら体裁もいいし。世間体を考えてもまさか自滅とは思われないからな」。
このような言葉がスラスラでたのは・・・かくいうこの自分も自滅民に違いなかったからだろう。
ボランティアをやってたら。施設長の悪行がバレた。ロリコンだったのだ。副所長の連れ合いは使い込みを重ねた末、家を建てていた。
盗人にも三分の利というが。単なる平職員は四年生大学を出て資格を取っても給料は高校生のアルバイト程度。長年働いてると、ウイルスでは映らないが、精神病は転移する。
給料が安い上、心の病に犯され、利用者はその職員に犯され。親は知ってても他に行かせる場所なく、泣き寝入り長年。
施設運営は常時厳しく、あらゆる手を使って、悪行、裏金作りまくりの施設長。
我慢の限界、爆発。逆走。自分の家を建てるまでになり、ついに発覚。追放。逮捕。
が、当事者達は行き所がなくなる。
それでは困る。
お鉢が回ってきたのは他ならぬこの身。
さて。回していくには。
どんな悪さを重ねるべきか。誰をどうふに騙すべきか。
行政予算、職員給料のちょろまかしじゃタカが知れてる。慈善事業としてタダもらいの車を中古業者に回して上前は寝てるようじゃ、前任者と変わらない。
そうだ。ボランティア仲間がいた。
高齢の、子供なし。
養子に入るか。
生前贈与か。
捕まったら。前任者の二の舞。否、ロリコン程、何人もの当事者イタズラ、強姦よりは軽く済むんじゃないのか。
刑期が短ければ、娑婆でかく恥は長い。
人間は直面する現実に不満を見つける動物。
矛盾は常に常識を凌ぐぎ、邪は正を破る。年表より年裏。
・・・なんて人類史的定則は。これっぽっちも考えてないよ。
「逆説敵言い回し」 了
テキストで投稿試みましたが失敗。
二作目にしてまだ実験的短編でした。