都合の良い男
嵐のように現れたマオの存在に怯え半分興味半分の自分でもよく分からない感情に渦巻かれながら日々を過ごした。しかし教えた(奪われた?)LINEからはしばらく何も連絡はこなかった。その事に安堵とどこかでよからぬ期待をもって肩を落とす俺だったが、一週間が過ぎたあたりの休日の夜、唐突に彼女から連絡が来た。
『飯食わせろー』
メッセージと共にマップが張り付けられていた。彼女の現在地のようだ。
無視する事も出来る。断る事も出来る。だが、俺は彼女に痴漢を働いたという負い目がある。これがある限り、俺は彼女に強く出る事はできない。彼女は俺を一瞬で社会的に抹殺出来る武器を所持している。俺は一切彼女に対してアドバンテージはない。選択しなんてものは俺にはないのだ。俺は彼女の元へ向かった。
マップの場所につくとそこはファミレスだった。入店すると、店員からお一人かと尋ねられ、なんと答えようか一瞬躊躇ったが、「知り合いが先に来ているので」と伝え、店内を見回った。ほどなくして彼女を見つけたが、その光景を見て思わず目をひん剥いた。
サラダ、ハンバーグ、スープ、ポテト、コロッケ、プリン、ケーキなどなど。テーブルは一家三人分かと見まがう程の料理の品々で埋め尽くされている。
「ナニコレ?」
呆然とテーブルの横で立ちつくす俺に構わず、マオはむしゃむしゃと食事にむしゃぶりついていた。どうやら落ち着くまで喋る気がないようだ。俺は諦めて彼女の向かいに座った。
彼女の喰いっぷりはまさしくフードファイターと呼ぶに相応しいものだった。体型は太ってなどおらず、むしろスタイルはいい。程よく肉はついていながらわりに背が高いのでバランスが非常に良い。サラダ一皿とおかず一品あれば十分な見た目にも関わらず、マオはライン作業かの如く皿をあけていく。圧巻の光景に思わず俺は見惚れてしまっていた。
「ぶっは」
ぽんっと腹鼓を打ち、マオは見事に全ての皿を完食した。俺は無意識に自分の立場など忘れて拍手していた。
「あ、来てたんだ。いつからいたの?」
「十五分ぐらい前かな」
「いるなら声掛けてよ、なおじぃ」
「掛けたけど無視されたんだよ」
「飯食ってるときに喋りかけるなんて失礼だかんね」
「何なんだよお前……」
彼女と拍手してしまった自分とに腹が立つ。
「じゃ、後お願いねー」
そしてマオはあの量の食後とは思えないほどきびきびした動きでさっと立ち上がり店から出ていった。俺はまたもや呆然とする。
なんだなんだ?
全く状況を飲み込めない自分だったが、やがて彼女の言葉の意味を理解し、やられたと
思わず言葉が出た。彼女が残した大量の皿を眺めながら、伝票を手にする。
――八千円!?
一人でファミレスで消費する金額ではない。
がっくりと俺は項垂れた。自分の立場を改めて理解した。彼女にとって俺は人間ですらない。ただの財布かおもちゃなのだと。
――まずいぞ。
まだ俺は全然自覚が足りていなかった。
――こんな事が、ずっと続くのか?




