表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

銀髪少女

 



 音が聞こえたのも地面が揺れた気がしたのも一瞬で、正確な方向がわからない。地震にしてはすこし変だ。




「こっちか…?」

 

 なんとなく丘のようになっている方へ足を運ぶ。なにもなかったら帰ればいいし、なにかあったら見てないふりでもして帰ればいい。そろそろ眠くもなってきたし。

 


 ふぁあ~あ…。とあくびをしながら丘を上る。


 てっぺんの木の陰に、人影があった。

 あわててあくびをかみ殺す。よく見るとまだ俺より幼い女の子のようだ。ただ、その姿は日本人とはかけ離れていた。

 


 水色がかった長い銀髪。白いワンピースのような服の上から羽織っているのは、高級なカーペットでよく想像するような、深い赤色をしたローブ。

 

 日本人とは思えなかった。

 その口から出る言葉は英語がお似合いだと思った。

 


 とりあえず、俺はホッと息をついた。


 人影が見えた瞬間、薬物を売っていたりだとか、そういう見てはいけない場面を見てしまったのかと思って焦った。

 



 それにしても、さっきの音と少女はなにか関係があるのだろうか。

 

 再びそのことが気になりはじめ、俺は少女に近づこうとした。散歩してる風をよそおって真横を歩けば不振には思われないだろう。

 


 そう思って、足を一歩踏み出したとき

 



 少女が、腕を前に伸ばした。


 掌を突き出すように、前へ。

 





 なにしてんだ、アイツ?

 


 向こうの国の風習かなんかか?いや、宗教関係かもしれないな。なんにせよ、邪魔すんのは悪いかな?様子見でもするか…。

 



 そして、また少女に意識を向けた。

 

 少女に、視線を向けた。



 少女の掌から、丸い光の塊が数個飛び出したのは、見間違いだろうか。








「…は?」

 


 そして少女の目の前の、なにもないただの空間に、まるでなにかがそこに立っているかのように、光の玉がぶつかって消えた。




「…え、いや…え…」

 


 頭がおかしくなったのだと思った。いやふつうそう思うと思う。てかやっぱこれ夢なんだわ。朝がこんな真っ暗な時点でおかしいもんね!

 

 家に帰ろう。かえってまた寝よう。そしたら今度は本当に起きれる。そう。これは夢なんだ。だからとりあえず早く帰ろう。

 






パキ

 


 木の枝を踏んだ。

 

 大きい音を立てて枝が折れる。





「だれッ!」



「俺ですっ!」

 


 聞こえた鋭い声に、反射的に声をあげて名乗り出る俺。


 ビビりまくって肩と心臓がものすごい勢いで跳ね上がった。





「…人間か」

 

 

 女の子の声としては少し高いその声は、銀髪の彼女のもので。


 なんだ日本語でも別に違和感ないな、なんて場違いなことを考える。





「…今の、みた?」

 


 近づいてくる少女は無表情だった。

 

 近くで見る少女は美しかった。

 


 輝くほどきれいな銀髪碧眼。見た目に反して少し大きめに膨らんだ胸。思わず見とれてしまうほど整った顔立ち。

 

 人形みたいだな。なんてありきたりかもしれないが、そう思った。





「…こたえて」



「……あっ、え、えっと」

 


 無表情で、抑揚のない声。

 戸惑った。

 

 見たと、言っていいのか。そもそも見た、とはなんだ。なにをだ。さっきの光の玉?もしかしてやっぱり見てはいけない場面を見てしまったのではないか。




「…見た、んだ…。……しょうがない」

 

 少女は俺の無言を肯定ととったか、そういった。

 そして俺に向かって掌をかざす。

 


 …まて



 その動きはまさか…ッ!




「ちょっ!?タンマタンマ!なに!?殺す気!?」

 


 なんか光が集まってるんですけど!




「…口封じ」



「殺す気満々じゃねぇかっ!」





「……冗談。人間は殺さない約束」



 何言ってんだこの子。

 

 夢の中だからってすごい女の子作り出したな、俺…。なにこの中二病感あふれる設定の世界は…。見てるこっちが恥ずかしいわ。






「…夢だと思ってるの?」



「え…、そりゃまあ…」




「どうして」



「どうしてって…。朝からこんな真っ暗で、女の子が光の弾みたいなの打ってりゃ、そう思うだろ」

 



 なにもかもが現実離れしすぎている。


 これをすぐにリアルだと思うやつはそうそういないと思うけど。





「…そう。でもこれは現実」



「……はあ」

 


 生返事をすると、ずっと無表情だった女の子が少しムスッとしたのがわかった。俺が信じていないのが気に食わないようだ。


 不機嫌そうな表情も可愛いなぁ。



 これで笑ってくれればもっと…






「ッン!?な、なにひゅんらよ!」

 


 突然、女の子の小さな手が俺の両頬を横に引っ張る。

 加減をしてくれていないせいで普通に痛い。

 


 しばらくして女の子は手を離すと、小首をかしげつつ口を開いた。





「痛い?」


「痛ぇにきまってんだろ!?」



「じゃあ、夢じゃない」

 


 ヒリヒリする頬を抑えて思わずため息をつく。


 なんなんだこの女の子は。電波入りすぎじゃないか?見た目はめちゃくちゃ可愛いのに中身残念すぎるだろ…。






「…ん?でも、これが現実なんだとしたら」



「……したら?」





「君がさっき使ってた光の弾は、なんなの?」





「……………………」








 しまった、とでもいいたそうな表情は、さっきの不機嫌そうなものよりもかわいく見えた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ