白テイマーさんの長いチュートリアル
なんかランキングやらポイントやら、色々と上がりまくってて感謝です。
静寂。
熊を目の前にして、真っ先に訪れたのは恐怖ではなく、虚無だった。
私も熊も互いに互いを認識しきれず、その場で硬直する。
深呼吸をして、息を整え、もう一度真っすぐ前を見てみる。――――うん、熊だ。
「なっ――――!?」
そう認識できてしまった私にようやくやってきたのは、抉るような恐慌と、生存本能。
逃げなきゃと、思考が揺らいで、動き、声が出そうになったのを、残った理性が引き留める。
……声を出したらだめだ。たしか熊の対処法は……。
死んだふり? いやあれは間違った情報だ。
全力で逃げる? 迷ってるのにどこに逃げるのさ。
「……もっと、ちゃんと、学んでおけば……よかったかな……」
小さな声でそう呟いてじりじりと近づいてくる熊と対峙する。
冷や汗が止まらない。ゲーム内で死んだらどうなるかをまさかこんな早くから知ることになるなんて……私、ついてないなぁ。
一歩また一歩と、熊はこちらへと歩み寄ってくる。
私も足を引きづるようにして後ずさるけれど、すぐ後ろは大きな樹だった。
樹に背中が付くと、少しひんやりとした感触が背中に伝う。
「あの、話を――――」
大きな手が私に振り下ろされ、私の言葉はかき消された。
最後に聞こえたのは、狼の威嚇する鳴き声だった。
〇
再び目を覚ましたのは、街の中だった。夜の街は、昼とはまったく違う印象を与える。人の数は少し増え、街灯や住宅の中からは、暖かな光が零れる。
デスポーンする人は珍しくないからか、大して私に気を止める人はおらず、一瞬こちらを見ると、すぐさま何もなかったかのように歩きだす。
「……はぁ」
一緒に戻ってきた狼を身体全体で包み込むようにしてしゃがみこみ、私はそんなため息を吐いてしまっていた。
それも仕方ないと思う。行けると思ったはずのチュートリアルも相変わらずクリアできないし、どう考えても初心者が戦うようなレベルのモンスターじゃないのに遭遇するし……。チュートリアル前にこんなことになったのは私くらいなんじゃないかな……。
「ゲームって、難しいなぁ……」
普通にやっていたらそうは思わないであろうが、今の私にはそうとしか思えなかった。
そういえば、死んだときのペナルティって何かあるのかな?
そう思い、メニューを確認してみる。
結果、減っていたのはこの世界でのお金。ジュエルがなんと半分になっていた。
最初から持っていた分しかなかったからラッキーだとも考えられるけど、逆にいうと、数少ないお金が減ってしまってもいる。
今度からは注意しないといけなさそう。
「どうしよう……」
チュートリアルは一向にクリアできないし、次何やればいいのかもわからない。
それでも、ナギさんはああいってくれたんだ。なら、私は少しでも頑張らないと――――。
そうして、私のチュートリアル周回が始まった。
夜の行動は危険だと判断して、昼になるまでは、草原で狼以外のモンスターを狩ることにした。
草原のモンスターは三種類。黒狼、スライム、毒蛇。どれも私(白狼)でも倒せるほどに弱く、そして出現率が高い。そう思って、たくさん引き連れてきて残りHPが一桁になった時は焦ったけど何とかなった。
昼になったら、チュートリアルをクリアするために森へと向かう。迷ったり、途中で出てくる糸蜘蛛にやられそうになったりで、合計五回くらい挑戦し続けて――――。
〇
周回を始めてから約三日間。
普通の人なら、一時間程度で終わるチュートリアルを無事、クリアして見せた。
内容自体は単純明快で、色んな場所を巡って物を採取したり、地形を崩して道を作ったり、特定のモンスターを倒したり、崖を渡るために、物を作ったりだった。
調べてみたところ、この地形そのものを変えるという発想をVRMMOに組み込んだのは、このMSWが初めてで、それゆえにここまでの人気を得ているんだとかなんとか。
難しいのかなと思ったけど、本で殴ってみたら地面も木も壊せたし、手に入った木材をワンクリックで橋にできた。ゲームってすごい。
チュートリアルの攻略は、調べてみたけど乗っていなかった。多分、誰もここで躓くことはなかったんだと思う。
レベルも5まで上がった。
調べてみたところ5もあれば、次の街まで行けるのだとか。迷っている間、レベル上げをし続けていたから、こんなことになってしまっていた。
ポイントの割り振りとかは、特に気にせず、放置してきた。
今度、何かいいのがないかナギさんにでも聞いてみよう。
チュートリアルをそこまで頑張ってクリアしてきた私は、疲れと、達成感に満ちたまま、街へと戻っていた。
【チュートリアル:薬草の採取をクリアしました】
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進捗とか見れるけどそんな意味ないよ、ただ作者が話相手欲しいだけだよ。