白テイマーさんと春兎
日に日にブクマが増えていって大変うれしいです。全てモチベにつなげて頑張っていきます。
不定期で申し訳ないですが、タグの通りですのでご了承いただけるとありがたいです。
かたっくるしいの嫌いなんでここらへんにしときます。こんなとこより本編行っちゃってください。
周りの人のことなんてまるで気にしない。私の目の前で大きく名乗りを上げる春兎という男性は、そうとでも言いたいのだろうか。
にこやかな笑みを浮かべ、縮こまっている私に対してそう言うのだから――――。
「えっと、君はしらゆきさん……でいいんだよね。よろしく」
私が戸惑っているうちに、表示されている名前を見て彼はそう言って私に手を差し出してくれた。
一瞬なにかと思ってびくっと身体を震わせながらも、それが握手であると気づいて、私は恐る恐るその手へと自分の手を伸ばす。
「よ、よろしく……」
失礼かもしれないけど、目を合わせることすらできず、私は足元を見ながら握手をした。
それでも彼は私のことを少しは理解してくれたのか、何か言うことはなかった。
「しらゆきさんは、初心者……だよね? もしよかったら、俺がわかること教えようか? あ、安心して下心は少ししかないからさ」
へらっとした顔で頭を掻く。
正直者なんだなぁということはよくわかったけど、流石にどうなの……。
だけれども、実際何もわからず途方に暮れている身であるのは間違いなかった。なにせチュートリアルで躓いているのだから……。
少し悩んで、また今から他の人に頼んだりしたら私自身がどうなるかわからないという結論に至って私は嘆息する。
「それじゃあ……その、お願い……します……」
少し顔が温かくなるのを感じながらも、小さな声で呟く。
彼は「よっしゃきた。任せて」と元気よく右腕を掲げ、ガッツポーズを取る。
何でそんな喜ぶのだろう……?
「それじゃあ、ここで話すのもなんだし、俺の店来てよ。あっいやほんと変な意味じゃないから。その少し疎ましいものを見る目はやめよう……」
そんな目をした覚えはないけど……まぁ折角の厚意だし、甘えるとしましょう。
「ありがとう……」
私はそのまま彼についていくことに……。
結局、獣は私の手の中で眠ってしまったので、抱えたままで。
道中、私から特に何か言うことはなく、ひたすらに彼は喋り続ける。自分のこととか、自分のこととか。ってか自分のことばっかり。
要約すると、彼はβ版からのプレイヤーで、だから知識も経験も豊富。ただ、別にランカーというわけでもなく、自由にやっているとのこと。あと、現実では大学生をやっているそうな。必要のない情報ばかり……。
しばらく歩いて、最初の街の端っこの方。人通りも減ってきたところで彼は立ち止まる。
「さぁ、着いたよ。と言っても狭い店だけどね」
そう言って彼が紹介する場所は、こじんまりとした木造のお家。窓ガラスで中が少し見え、中の様子から、本当にお店であると理解することができる。
看板には兎の絵が描いてあり、その下に小さく筆記体でHARUと書いてあった。
「本当にもう、お店を持っているの……?」
あまり詳しくはないけれど、確かこのゲームがリリースされたのは、約一週間ほど前。装備から見ても、なかなかにやりこんでいそうではあったけれど、お店まで持てるとは、もしかしてβ特典とかもあるのかな……?
それとも、もしかしたら、このゲームお店を持つことは簡単だったり?
「あれ、信じてなかった? 酷いなぁ、まぁとりあえず話は中でしようか」
彼はそのまま扉を開け、中へと入っていく。扉が閉まりかけ、慌てて私もそれに続く。
中は、質素な雰囲気を醸し出しながらも、その人の特徴が出るような部屋だった。
左右には大きな棚が並べられ、色んなアイテムが置いてある。正面にはカウンターと奥へと続く扉。そして何よりも目を引くのが奥の扉の横に飾られた大きな大きな杖だった。
大事そうに保管しているのかケースに入っており、直接見ることはできないけれど、その杖が貴重なものであるということはすぐにわかった。
私が中を眺めていると、彼はカウンター奥の椅子へと腰かけ、私の方を振り返る。
「改めて、アイテムショップ『ハル』へようこそしらゆきさん。さ、そこにある椅子にでも座って待ってね今適当に用意だけしちゃうから」
そうして私をすぐそこの木でできた椅子へと誘導すると、彼は空中からカップを取り出し、茶色の液体を注ぐ。
私がそれを感心してみていると、部屋一帯にいい香りが充満する。それは嗅いだことのある匂い。”紅茶”のものだった。
「それって……」
「ん、これはね調理スキルで覚えた紅茶だよ。この世界でも似たようなものが作れてさ、結構有名なレシピだけど、もしかして攻略サイトとか見てない?」
立ち上がり、私にカップを渡す。「ありがとうございます……」とそのカップを受け取り、飲んでみると、少しほろ苦いけれど、しっかりと紅茶の味がした。
「攻略サイト……は見てない…………」
それどころかまともに調べてすらいないけれど……。
「そうか、んじゃ教えることは多そうだ。えっとまず、しらゆきさんの職業って何?」
本当に丁寧に教えてくれるようで、彼は自分で淹れた紅茶を飲んで、私にそう尋ねる。
「えっと……職業は……従魔師? だったかと……」
そう答えた瞬間に、彼は飲んでいたその紅茶を勢いよく噴きだす。
「……!? だっ、大丈夫……!?」
慌てて立ち上がろうとしたけど、膝の上に乗せていた獣がいるせいでそれは叶わない。
あわあわとしていると、咳き込んでいた彼がなんとか深呼吸をし、息を整える。
そして、信じられない。といった顔で私に再度同じことを尋ねる。
「ごめん、もう一回聞いていいかな? 職業って……」
「えっ……従、魔師……」
「あっ……うんわかった。そうか、見てないんだもんね……うん」
なんとも不思議な反応をされてしまう。何か変なことでもしちゃったのだろうか……。
「えっとね。このゲームだと従魔師は使い勝手がすごく悪いとされていてさ。モンスターを連れたいなら召喚士のほうが断然いいんだ。まぁ、簡単に挙げていくとするなら、まず捕まえるのが難しい。それで、捕まえられる数がほとんどいない。捕まえても弱い。プレイヤーと別で経験値を反映するからプレイヤーが育たない。専用のアイテムがかなり必要になるから、お金の消耗が半端じゃないって感じで、一部のそういうのが好きな人以外、特に初心者には難しい職業なんだよね……」
少しため息をつきながら、彼は私にそう説明する。こんなにも欠点があるなんて……。
「そ、そう……で、でもいい点とか……!」
「手数が増えるから、魔法と一緒に使うとソロでもやりやすい。っていうのがいい点かな。でもさっきも言った通り経験値が半分みたいなものだから色々と厳しいんだよね……」
しゅーんと小さくなってしまう。
確かに癖がありそうなの選んだのは私だけど、まさかそんな変なのだったとは……。
「まぁ、でも別にガチ勢になりたいとかでもないなら、大した問題はないと思うから、安心してくれていいよ。そんな深く考えないで……それよりも、えっとモンスターを連れていたということは、もうチュートリアルは終えたんだよね?」
……あっ。
「えっ、なんで今目を逸らすの……終わってないの!?」
「……はい」
チュートリアルのことすっかり忘れてたよ……そういえばクリアしてないじゃん、どうしよう……。
「まじか、まぁ、それはあとでやるといいよ……それでまぁ、一番気になっていたことを聞いてもいい?」
「なに……?」
一番気になっていたこと? 何か聞きたくなるようなことなんて……?
まさかリアルのこととかは流石に……。
「その膝で寝てるモンスターについてなんだけど、さ……。俺はそんなモンスター見たこともないんだけど、一体どこで見つけたの……?」
どうやら私の思い違いだったようで、その疑問は私ではなく、この獣に向けられたものだった。
「どこって……洞穴?」
しかし、私すらもよくわかっていないことを聞かれても困る。
あの洞穴は一体なんだったんだろう。チュートリアルが関係ない場所だというのはよくわかったけど……。
「洞穴……ってチュートリアルは森に行って、素材を手に入れるんじゃないの……?」
うっ……胸が痛い。
「迷ってしまって……気づいたら着いていて」
「迷うような道じゃなかったと思うんだけど……まぁ、いいやとりあえず、そのモンスターは俺でさえ知らないモンスターだ。つまり新種またはユニークモンスターだと考えるのが妥当だと思う」
「……はぁ」
正直専門用語が多くてよくわからない。つまりどういうこと?
この獣がなにかすごいのだろうことだけはわかった。
「まぁ、だからこんなチャンスは他にはないだろう。このモンスター。しらゆきさんの使い魔にしたらどうかな?」
「使い魔……? そんなことが……できるの……?」
「そりゃできるよ。それが従魔師の特徴なんだし。どうする、やってみる?」
そんなことができるならやるしかない。折角ここまで連れてきてあげたんだしね。
私はそう思って頭を縦に振る。彼はそれを見て、じゃあと奥へと入っていく。
すぐに彼が戻ってくると、彼の手には鈴のようなものが握られていた。
「これ、今回はサービスであげるよ。一応はNPCショップで買えるんだけど。まぁお金もほとんどないだろうし……それでまぁ使いかたなんだけど――――」
私がお礼を言うよりも先に、その鈴を手渡し、使いかたの説明を始める。
おかげで、お礼を言う機会を逃してしまう。話を切って、なんて芸当は私には備わっていないので、仕方がなく、そのまま話を聞くことにする。
「持って、テイムっていうだけ。条件として、好感度みたいのがあるんだけど、俺の予想的にその過程は飛ばしちゃっていいと思う。それだけやっちゃえば仮契約の完了になるよ」
「……な、なるほど……えっと、”テイムっ”!」
言われた通りその言葉を唱えると、鈴が光りだし、粒子となって消えた。
何が起こったのかと獣の方を見てみると、獣の首には首輪のようなものが追加されていた。
「おめでとう、それでひとまず仮契約の完了だ」
拍手を送り、彼はそう言ってくれるが、いまいちシステムがわからない。
聞いてみよう……。
「ありがとう……できたのはいいんだけど、いまいちわからなくて……」
「ん、そうだねじゃあ順番に説明していくとしよう」
立ちあがり、お店の中にある商品をいくつか見ては、私に手渡す。
どうやら、ここらへんの物を使うのだという。
説明された内容は、特に難しいことはなかった。まず、捕まえたいモンスターとの距離を近づけるために、基本的には食べ物を与えるのだという。渡されたものの大半はそれに使う食べ物だった。
次に、ある程度まで好感度のようなものが上がったら、先ほど使った鈴を使う。もし、それで好感度が足りていたのならば、こうして首輪など、様々な形となってモンスターに契約の証が付けられる。
そして、そこまで来たならば、あとは通知欄を確認す……る……?
「通知欄ってなに……?」
「えっ嘘。それも知らないの?」
説明の途中にそうして口を挟むと、彼は呆気にとられたようで、口が開いたままだった。
「……? あった気がしなくはないけど……?」
「あ~、うん。じゃあ教えるから。えっと、まずメニューを開いて、下にスクロール。そうすると手紙みたいなマークのところあるでしょ? それが通知欄」
言われた通り、メニューを開き見てみると確かにそれらしきところがあった。
しかし、メニューを開くと進行中クエストとしてチュートリアルと出るのは私に対する嫌がらせか何かなのだろうか。
「あれ、でもさっきは普通に通知来てたような……」
頭の中に浮かんだのは、先ほどのLvの上がった通知だった。
ここに通知欄があるというなら、あれは一体なんだったんだろう?
「ん、多分それは設定によるものかな。いじってないだろうから初期設定だろうし。それだとLvUPくらいしかこないかも」
なるほど。設定によって変わる……。と。
それを聞いて納得した私は、後で変えとこと思いながら、通知欄を開く。開いてみると、中には想像よりもたくさんの通知が来ていた。
「二十件……!?」
「最初だからね。記念とかで色々ともらえるんだよ。俺は待ってるから一個づつ開封してくといいよ」
上から順に新しいのがあるみたいで、とりあえず私は下から順番に開けていくことにする。
早期ログインボーナス特典みたいなので、回復アイテムであるポーションがいくつかだったり、この世界のお金であるジュエルが入っていたりした。
大概はそんな感じで、あとは武器を変えたい時用の初期装備一式など。
関係ありそうなのは、かなり上に上がったあたりからだった。
「レベルアップしました……」
書かれていたのは職業レベルの上昇という項目。
特にモンスターを倒したとかでもないのに、上がっていて、不思議でならない。
また、それにあたって獲得できるスキルが一つ増えました。とも書いてあった。なるほど、レベルアップで増えるのか……。これは後で考えないと。
次に目に入ったのは、フレンド申請が届いています。
というものだった。確認してみると、そこには”春兎からフレンド申請が届いています”と記入されている。それを見て私は、彼の方へと目を向ける。
「……春兎さん?」
「え、なんで睨むの!? あ、もしかしてバレた……?」
むすっとした顔で、彼を呼ぶと、彼はそう反応し悪気もなく謝る。
本当にこの人は……。
渋々ながらも、受諾を押すと、フレンドが追加されましたと出てきたので、即消して、次の通知を見にいく。
ようやく、最後の通知となったのは、仮契約の完了というもの。
開いてみると、大きな窓が開かれ、少し吃驚するが、一つずつ読んでいく。
内容は簡単に言うと、この獣について、そして新規クエストについてだった。
「……契約クエスト?」
「あっ、あった? それそれ、それを達成すると正式に契約ができるんだよ」
私はクエストをひとまず置いておくとして、この獣についての記載へと目を向ける。
白狼 *黒狼の亜種
≪ノーネームド≫
Lⅴ1 HP30/30 MP20/20
・炎の吐息
・氷の吐息
・疾風
「……ホワイトウルフ」
狼だったんだ……。
大きさ的にも普通に犬だと思っていたから、まるで深く考えていなかった。
この亜種っていうのは、よくわからないけど、レアなのかな?
炎の吐息や疾風は多分技なのだろう。
……ってあれ? これってステータスだよね。モンスターにステータスがあるってことは……。
「もしかして私にもステータスある……?」