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白テイマーさんへお願い5

実は先週の日曜日時点で小説投稿初めて1年だったりします。見てくださっている皆様には感謝しかありません。ありがとうございます。

今後とも、暇つぶしがてら見てくださるとありがたいです。


 人の身体のようで、その細部の形はまるで違う。今まで想像したことはあったかもしれない。だけれども、見たことは一度もない。そんな姿を描いたこともあるはずがない。

 だけれども、目の前に確かにあるそれを、何度も何度も、書き連ねてきた私の手は。何度も何度も見比べ続けてきた私の目は、悩むことなく、そのペンを自然と描き進めていくに達していた。


 驚くほどに、ペンを持つ腕は軽く、すらすらとすすんで行く。

 そうしていつのまにか時間は過ぎていき、気が付くと目の前の彼女は随分と眠たげに目を擦っていた。


「……ご、ごめんね! 集中すると周りが見えなくなっちゃって……」


 既に何時間か経過してしまっているのか、はたまた、まだ数分しか経っていないのか、まるで分らないほどにただ、絵を描くことに集中してしまっていたせいで、明らかに彼女を暇にさせてしまっていたことに気づき、私は一度ペンを置き、謝罪する。


「……あれ、描き終わったの? もう格好やめていい?」


「……え、あ、ちょ、ちょっと待ってねっ」


 急かされるようにして言われた言葉に、私はすぐさま下に目線を映し、今現在どこまで描かれているのか。自分が描いたのかを確認した。

 描かれていたのは、既にほとんど描きこまれていた目の前の彼女。ここまで深く集中していたのなんて一体いつ振りなんだろうと思わせるくらい、描いている間の記憶も曖昧にしか残っていない。

 鉛筆一本で書いたなんとも粗削りな絵。だけれども、私はこれを自信をもって傑作だと言えるだろう。


「……うん。描けた……よ……」


「ほんとう? 見せて、見せてっ!!」


 そう言って私が見せようとする前に彼女は私の方へと回り込み、覗き込むように絵を眺める。


「………………」


 そうして、眺めている間、彼女は何も言うことはなく、ただ静寂が流れていく。

 緊張と恐怖のせいだろうか、心臓の鼓動が自分でも早くなっているのがわかる。よくよく見たらおかしな場所とかないだろうか……。

 そもそも、描いてすぐあまり手直しとかもせず見せるとか、私には早かったんじゃないかな……。

 とか、そんな考えが頭の中では起こっているけれど、いずれにしてももう遅いことには変わりなかった。


「…………ど、どう……かな?」


 先に静寂を破ったのは私だった。

 感想を聞きたかったのと、これ以上のこの静けさに耐え切ることができなかったのだ。

 もちろん、何を言われてもいいようにだけ心の準備はしたつもりだ。


「……すごい」


「…………え?」


「すごいよしらゆき!! なにこれ無茶苦茶にうまいじゃん!!」


 彼女はじっと絵を凝視しながら、その場で色々な角度からその絵を眺める。


「えっと、でも……あんま綺麗ではないかも、線とかも粗いし……」


「そんなの関係ないよ! こんなに綺麗なぼくがこの場にいるかのような絵掛けるんだもん。もっと誇らなくちゃ!」


「あう……その、えっと……ありがとう…………」


 彼女の言葉は私が思っていた以上に優しく。逆に何も言葉が出なくなってしまう。

 けれど、その言葉は嬉しくないわけがなく、一言一言を貰うたびに心の臓が温かくなるような感覚を覚える。


「しらゆきっ、この絵貰ってもいい?」


「……えっと、いいけど……もう少し綺麗にしたの描くよ?」


「ううん。この絵でいいの」


 でも、と言いかけたその口を私は閉じる。

 彼女のなんとも嬉しそうな顔を見てしまったら、それ以上何かを言うことなんてできなかった。


「そっか、うん……。ところで契約ってこれでいいの……?」


「大事にしまわないと……。あ、うん。いいよ、よくないわけないよ、ぼくの負けだ。契約はこれで完了だよ」


 ……随分と軽くない?

 それでいいのかと本当に思うけれど、口に出すことはしない。これ以上言ったら何か負けな気がしてくる。


「……そっか。えっと、契約ってもうできてるの?」


「んーと、あと一つだけ。しらゆき、そこでじっとしてて」


 彼女は絵をすっとしまいこむとそのまま私に近づいてくる。


「えっとね、契約に必要なことだからさ、ぼくの指示に従ってくれる?」


「……うん、大丈夫。何すればいい……?」


「じゃあまず、目を瞑って、少しだけ上を向いて」


 なんで目を瞑るんだろうと思うも、言われた通りにする。


「……これでいい?」


「うん完璧、じゃ、失礼するね」


「……ふぇ?」


 そう言って急に口を何か柔らかいもので塞がれる。


「ごちそうさまっ。美味しかったよ、しらゆき」


「…………えっ」


 何が起きたのか、理解できなかった。

 けれど、目を開けて舌なめずりをする彼女を見て、私はようやく理解した。理解してしまった。


「……い、いいっ、今のって!?」


「あれ、もしかして初めてだった? だったらごめんね、その反応含め、ごちそうさまだ」


 赤くなる顔と、パンクする頭を他所に、彼女は不敵に笑う。小悪魔のような笑顔で。


【ダンジョンボス:大精霊ウンディーネ討伐1/1完了しました】

【大精霊ウンディーネ(無名)との契約に成功しました】

【中級ダンジョン初クリアを達成しました。称号「ダンジョン制覇者」を獲得しました】

【大精霊との契約を達成しました。称号「大精霊の御使い」を獲得しました】

【ウンディーネの加護を獲得しました】

これにて水中ダンジョンのお話は終了です。

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