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白テイマーさんへお願い4


「……えっと、見せた方が早い……かな。ペンって作れたりする?」


 あれ、そもそもゲームの世界だとペンってあるのかな……。

 でも、本もあるし多分何とかなる……はず。


「……ペン? ペンってあの?」


「……う、うん。無理ならどうにか他の方法を探すんだけど……」


「よくわからないけど用意すればいいんだね? 多分何とかなるよ。ぼくに任せて」


 疑問を残したまま、彼女は魔法を唱え始める。


「クリエイトディグ。ディフォーメーション、えーっと多分こう?」


 そのどれも聞いたことないものだったけれど、基本的に英語が主軸なのは変わらないみたいで、大体の内容は理解できた。

 手の内に土くれのようなものを作り出し、粘土のように捏ねて形を作り替えていく。そこまで精密に作っているようには見えないけれど、想像を元にでもしているのか、不思議とその形は作り上げられていった。


「最後っバーン!!!」


 大体の形を作り終えた彼女が元気よくそう言い放つと、彼女の手の中の粘土から、いきなり大きな火炎が巻き起こり、辺りの水を一瞬蒸発させる。こちらまで火の粉が飛ぶようなことはなかったけれど、瞬間的に水の温度が上がったように感じた。


「……うん、多分できたよ。これでどう?」


 そうして私に見せてくる粘土だったものは、確かに私の知る鉛筆として形を変えていた。私の知る限りでは鉛筆は木製だったし、芯は黒鉛だった気がするけれども、これはゲームだし、細かいところに突っ込むのは多分御法度なんだろう。


「ばっちり……だと思う。すごいね……」


 よーく見てみても、何ら違和感のない鉛筆である。何がすごいって、既に削られた状態で生成されているということだろう。これも、彼女がこの姿をイメージしたことでなった形なのだろうけど、それでも一体どういう技術なのか、私には全くわからない。


「そっかぁ、よかった。それで、しらゆきはこれで何をしてくれるの?」


「……えっと、これと、私の持ってる本で絵でも描こうかなぁと。それくらいしかできること思いつかなくて……」


 ゲームでもあちらと同じように書けるのかとか、そもそもそこまでの技術があるわけでもないのにとか、不安要素は沢山あるけれど、それでも、今まで私が唯一頑張ってきた唯一つの誇れることだと。

 ……そう、私は思っている。


「……絵!? 絵ってあの……!? しらゆきお絵かきできるの?」


「……う、うん。人並みくらいには……できると思う」


「すごい! 是非見せてよ……! あ、何書くとか決まってる?」


 どうやら、彼女は私が思っていた以上に、興味を持ってくれたようで、ぐいぐいと迫って聞いてくる。


「……そ、そんな期待しないでね。一応、背景とかもかけるけど、専門は人だから……あなたを描く……とか?」


 私が提案した瞬間、彼女の目は一層きらきらと光り、期待しないでという私の言葉なんて聞こえていないのだろうくらいに、ウキウキとした様子が、身体にも、顔にも表れてしまっているほどだった。

 あう……重圧がぁ……。


「ほんとっ!? ぼくを描いてくれるの!? やったぁっこんなこと初めてだよ、とっても楽しみだ……!あ、ぼくはどうしてればいい? ポーズ取る? どんなポーズがいいかな!?」


 よくわからないポーズをその場でいくつか取る彼女の期待の眼差しと、楽しみであるという言葉に、少し胃が締め付けられるようだった。

 SNSなどで評価を貰うことは数あれど、こうして目の前にいる人、まぁNPCだけれど、ともかく顔を合わせて絵についていってもらうなんて、ナギさん以外にされたことなかった。だからだろうか、さっきから心臓の鼓動を自ら感じることができるくらいに、緊張してしまっているのだろう。


「……えっと、ポーズは……まぁ、好きなようにしていい……よ」


 あからさまに緊張してしまっている私は少し過呼吸になってしまっていた。それが理解出来ていても、どうすればいいのか、その思考が纏まらない。

 いや、そんなことは今はいい……。

 絵を……満足してもらえる絵を描かなきゃ……そうじゃなきゃ……。あれ、そうじゃなきゃなんだっけ?


「……しらゆき?」


「……ぁぅ」


 あれ、身体が震えてきた。声も、出ない……どうしたんだろ。


「……しらゆき?! 大丈夫!?」


「……あ、……」


 そっか、私怖いんだ。大丈夫だろうって思ってても、その内側では、ずっと怯えてるんだ。あの時みたいに。また、失うのは嫌なんだ。

 あぁ、もう。本当に、私は駄目だなぁ……。


「……しらゆき、大丈夫。大丈夫だよ」


「……あ、れ」


 気づいたら、私は涙を流していた。そして、彼女は、目の前の精霊は私のことを抱きしめ、そんな言葉をひたすらに繰り返していた。

 彼女からしたら何が起きたのかすら、まるでわかっていないはずだ。それどころか、普通だったら戸惑っておかしくない場面で、彼女は迷わずに私を抱きしめていた。何故か、彼女までも涙を流しながら。


「大丈夫。大丈夫だからね」


 彼女の身体は水で作られている。そのはずなのになぜだかその腕の中に包まれていると、温かさを感じた。普段だったら、人に触れられるのが好きじゃないのに、何故か、今は突き放すこともできない。

 そう、感じてしまう。


「……ありがとう。急に泣き出したりしてごめん」


「ぼくこそ、多分何かしちゃったんだよね、ごめんね」


 気づけば、震えも、涙も、止まっていた。


「……ううん……勝手に悩んで、勝手に不安になっちゃった。ただそれだけ、あなたは何も悪くない。ありがとう。もう大丈夫……任せて、可愛く描くから……」


「……そっか、よかった。じゃあ、お願いするよ、とっておきの一枚、ぼくに見せてね」

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