白テイマーさんへお願い2
「……えっと、いきなりお話飛び過ぎじゃない?」
「ん、そう? じゃあ順を追って説明していこうか」
困惑する私を他所に、目の前の彼女は至極冷静に、且つ淡々と続ける。
「……いや、あの」
「えっと、まずさっき説明した通り、ぼくはこの世界のシステム上、ここから出ることはできないんだよね」
しかも、どうやら話を聞いてはくれないようだった。私がもっとはきはきと喋らないからなのかもしれないけれど……。
「うん……」
どうせ聞いてくれないんだろうし、諦めてとりあえず話を聞く。
「でまぁ、実はぼくここのユニークボス扱いで、色々と面倒くさいんだよね。なのでぼくはその責務から逃げ出すために、ここから出たい」
「そこまでは……まぁ」
「だからぼくを倒して?」
「……なんでそこでいきなりお話が飛ぶの!?」
そこまではちゃんと説明してたよね……なんで一番聞きたい場所をわざわざ端折るのさ……。
「いやー良いツッコミだねしらゆき」
「……嬉しくない」
弄ばれていたのだとわかると途端に疲れる。少し彼女の性格が分かった気がしないでもなかった。
「まぁ、でも本当に大した理由じゃないんだよ。とっても簡単。ぼくがここから出るためにはユニークボスの称号を消さなきゃいけない。それを消す方法は君たちに倒されること。ただそれだけなんだよね」
「称号って……あの?」
確か各プレイヤーに与えられるもので、最初は皆統一で初心者。その後このゲームを進めていくごとに様々な称号を獲得することができ、それによって使える技能やステータスが変わるというもの。
現時点ではユニークモンスターの討伐をした場合に○○スレイヤーという称号。そして同じモンスターを討伐し続けると○○キラーという称号を得ることができるとのこと。一応他にもジョブのレベルを一定まで上げると手に入ったりとかもあるらしいけれど、情報を開示しているプレイヤーが少なく、確定しているものは少ないらしい。
「そう、多分しらゆきが考えている称号でいいと思うよ。その称号っていうの、実は君たちだけじゃなくてぼくらも持っていてね、それだけで強さに反映されるようなものもあるんだよ」
「……そうなんだ。その称号のユニークボス? っていうのをどうにかしないといけないと……」
「うん。これ本当は言っちゃダメなことだからさ、ぼくが言ったってことは内緒にしてね」
「情報の漏洩そんなのでいいの……」
お宅のゲームNPCが内密情報喋っちゃってますよ……。
ていうか私がここに来れてる時点でそもそもおかしかったんだっけ……?
「まぁまぁ、細かいことは気にしないで。そんなことより、そんなわけだからしらゆきには僕を倒してほしいんだけど、大丈夫?」
「……私は別にいいんだけど、それやっちゃっていいのかな」
アカウント停止とか喰らいたくはないんだけど……。
「うーんと、まぁやれることをやってるだけだし、問題ないはずだよ。強いて問題を上げるなら今のしらゆきじゃぼくを倒せないことかなぁ」
「……え、やられてくれるとかそういうのじゃないの?」
レベルが足りないと言っていたし、多分レベル制限のあるボス何だろうと思っていたから、どうあがいても私じゃ勝てないよね。だからてっきり無抵抗でやられてくれるとか想像をしていたんだけれど……。
「残念ながら、勝負となるとそうもいかないんだよね。ぼくだってただで負けるわけにはいかなくてさ」
「……ちなみに、どのくらいのレベルがあれば勝てるの?」
「正当法で倒したいならまぁ、上位ジョブで50レベルくらいあれば勝てるんじゃないかな?」
「……無理」
始めたばかりののんびりプレイヤーじゃどうあがいても無理だよそれ。ちゃんと会おうとしたら一年くらいかかりそうだよ、どのくらい高いのかまだわからないけど……。
「まぁまぁ、あくまでも正当法で戦う場合だから。他の、方法だっていくつかあるんだよ」
「……罠をたくさん仕掛けるとか、そういう?」
残念だけど、私今そんなの持ってないんだよね。それとも一方的に叩く方法でもあるの……?
「いや、そうじゃなくて。そもそも戦わなくてすむ方法があるんだよね」
「……そうなの?」
「そう。これはしらゆきだからできることなんだ」
「私だからって……なにかあったっけ」
「うん。だってしらゆきは従魔師だろう? ならとっておきのこと、できるだろう?」
「……あぁ、なるほど」
多分、彼女が言いたいのはそういうことなのだろう。でも、一応ユニークボスらしいし、そんなことできるのかな?
「あぁ、もしかして契約の鈴もってなかったりする? 安心してよ、ボスとの契約はそんなの関係ないから」
「……え、あ、うん。持ってはいない……けど」
なんでもありというか、なんというか。さっきから完璧にペースを持っていかれちゃっている気がする。
「ボスとの契約方法は、一度でいいからボスとの勝負に勝ったうえで、ボスに気に入られたときに契約できるんだ。とは言っても普通のモンスターとは違って、ぼくそのものを使役することはできないんだけど。その代わりに力が使えるんだよね」
「……それじゃあどちらにしろ倒さないといけないんじゃ」
私としても戦力が増えるみたいだし、強いみたいだから頼もしいけれど、倒せないものは倒せないのだ。
「それが、この場合そうじゃないんだよね」
やっぱり無理じゃないかと思っていたところに掛けられる言葉はしかし、それを否定するものだった。
「ぼくとの勝負に勝てばいい。これ、実は何も戦闘じゃなくていいんだよね。例えば相撲とか、かけっことか、なんでもそれぞれ色んなことが好きな変わった奴が知り合いにたくさんいてね。そう言ったことでも、いいらしいよ」
「そんな適当でいいの……」
やっぱりこのゲームを作った人は、随分と変わってるよ……。