白テイマーさんのレベル上げ
先週は投稿することができず、申し訳ないです。
初心者御用達の草原を抜けた先。
そこには大きな海が見渡せる浜辺が存在していた。
青々とした空に、海。嫌になるほどの日差しまでも、しっかりと再現された綺麗な海だった。
ちらほらと遊びにでも来たのか水着を着たプレイヤーも見かけるけれど、私は別に泳ぎに来たわけでも、遊びに来たわけでもない。
今回の私の目的は、経験値稼ぎである。
色々とあったせいでまともにレベル上げができなかったため、私のレベルはここ最近まるで上がっていない。すごい人だともう上級職とやらまで上り詰めて、そのレベルさえ結構高いらしい。噂だから実際どうなのかはわからないけれど。
なので、少し焦り始めた私は、こうして草原よりは敵が強く効率が良いと言われている浜辺までやってきたのだった。
「リア充しかいない……」
正直、海は子供のころに行ったきりで、最近はまるで行っていなかったので、ゲームとはいえ久しぶりの海で若干楽しみだった。そのはずなのに、私の視界に入ってくるのは、仲睦まじい男女がキャッキャウフフしてる光景ばかり。心底嫌になってくる。
これは爆発しろと言いたくなる気持ちもわかる。
「……いいや、行こう」
何故ゲームの中にまでリア充は湧くのか。大人しく現実にいてよ。
心の中で吐き捨て、私はそんな連中を無視して、そのまま海の中へと足を踏み入れる。
「……冷たい」
ひんやりとした水が装備を外し、素足になった私の足を濡らす。
実は、ここでは装備の規定が存在している。足は、サンダルか素足、後は釣り人用の長靴。服は水着かシャツ、後は上着として羽織るもの。下も水着かそれ相応のもののみ。初期装備のままなら入れるらしいけれど、そんな感じである。
私の装備は服は両方とも問題なかったけど、靴だけ履くことができなかったので、仕方がなく今は素足のままで来ていた。
この浜辺。実は敵が沸くことがない。というのも、結構観光スポットとしても有名でゲームだというのに綺麗な陽が見れるという。では、私はここでどうやってレベルを上げようとしているのか。その答えは、私が向かう先。海の中だった。
「呼吸できるのかな……」
不安になりながらも、私は海の中へと身体を沈める。怖くて目を瞑ったまま潜ると、そこは少し冷たいが問題なく息を吸うことができた。
恐る恐る目を開けると、広がっていたのは、青々とした世界。魚のような生物や、海藻など、色んなものが見て取れる。
「本当にあったんだ……」
実は、ここは海底ダンジョンが存在している海だった。私の中のイメージだと難易度高そうだと思ったけれど、調べてみると、どうやら初心者向けのダンジョンなのだという。
従魔を連れていくこともできるようで、ぴったりだと思いやってきたのだ。
「狼が……かわいい……」
なんとかなることは知っていたけれど、どうやってついてくるのか、わからなかった私は、少しの期待を胸に狼の様子を見てみると、犬掻きをしていた。器用にそのまま私に合わせて動くものだから、なんとか愛らし気だ。
どうやら、水中ということで動きづらく移動速度にマイナスが掛かっている以外は他と変わらないようで、声も普通に出せているし、現状そこまでの問題もなさそうだった。
「草原と森以外の初探索……がんばろう……」
本を持ったまま少し拳を握って私は一つ深呼吸をする。私の力でどこまで太刀打ちできるのかを見極めるためにも、頑張らなきゃ。
ダンジョンが存在しているのは海の底、つまりはまぁ、深海で。その途中にも一応、海洋生物がモンスターとして出てくるのだという。
そこらへんをふよふよしている魚はモンスターではないらしく、触れることもできない。特徴としてモンスターは蛸やら烏賊やらみたいな、魚以外の姿をしているらしい。
「狩ったら食べれるのかな……」
それが、その情報を見て最初に思ったことだった。
このゲームでは味覚もあるし、料理をすることもできるのなら、食材になるモンスターも十分にいてもいいはずだし、一度、食べてみたいと思ったのだ。
今回わざわざここにしたのは、半分くらいそれが狙いだった。
人間は食欲には逆らえないのだ。
「……暗くなってきた」
しばらく水の中を下へと泳ぎ進めていると、辺りはだんだんと暗くなってきていた。
深海は真っ暗だというし、明かりの一つでも持ってくればよかったと後悔をしながら、とりあえず進めていると、目の前に大きな石の壁が見えてきた。
「……あった。海底遺跡!!」
私はどうも接敵をしにくいのか、なかなかモンスターと鉢合わせることもなく、目的の海底遺跡まで到着した。
海底遺跡というだけあって、大きな白色の石で作られたそこは、苔やら海藻やらで緑色をしていたり、ところどころ崩れたり、ひびが入ったりなど、なんとも雰囲気を醸し出していた。
知らない間にかなり深いところまできたようで、上を見上げても海面が見えることはなく、帰りが億劫になりながらも、私がそのまま遺跡へと進もうとした時だった。
「……え、ふあああっっ!!!???」
完璧に油断をしていた。
突然、足を掴まれ、すごい力で抵抗する暇もなく引っ張られて砂へと叩きつけられる。
「へぶっ……」
強く顔からダイレクトアタックをかましたせいで、ひりひりとする顔を抑えながら体を起こすと、こちらを見ていたのは、白い身体をして、たくさんの足を生やした生き物。私が望んでいたけれど、こんな形で会うのは望んでいなかったモンスター。烏賊だった。




