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白テイマーさんは浮かれてる


 身体を翻して右足を重心としたままその場でくるっと一回転。

 鏡を前にした私は、綺麗な装備に身を包んだままの自分の姿に見惚れていた。


「……かわいい」


 新品の装備は私のサイズにぴったりでとても動きやすい。

 そのうえ要望通り、しっかりとフードを被ると随分と大きめに作られているのか顔を隠すことができていた。

 裾や丈だけわざと大きめに作っただけのようで、大きさはあっているというなんとも不思議な感じなのだが、悪くはない。

 かえでさん曰く萌え袖の方が可愛いのだという。絵を描く者としてその気持ちはわかるけど、それを自分で着るなんて思いもよらなかった。

 私の好きな色で統一されていることもあって、私だけの装備という感じがして身体が震えるようだ。


「やっぱりあたしの目に狂いはなかったみたいだ。うん。可愛い」


 鏡の前でそうして眺めながら呆けていると、後ろではかえでんが腕を組んだまま誰に言うかもわからないようなことを呟いていた。


「しらゆきちゃん。スクショいい?」


 私が見ているのに気付いたのか、かえでさんはまったく悪びれもなく、そう言いながら既にスクリーンショットを連打していた。


「せめて聞いてから……」


 呆れながら、無意味であろう苦言を言ってみるけれども、彼女は既にそんなことは気にしていなかった。

 もらった本人より作った人が喜ぶって、どうなんだろう……?

 そんなことを思い浮かべても、彼女の興奮しきった顔を見ていると考えるだけ無駄な気がしてくる。なんて楽しそうな顔をするんだろう、この人は。


 私は再度自分の姿を鏡で見てみる。

 色白な肌、光が溶け込み輝かせる細い髪、碧眼と呼ばれる宝石のような色をした目、これだけでも現実ではありえないような美少女が完成していると自分でも思うというのに、大きさぴったりの白を基調とした服で飾っているのだ。

 私だったら惚れてる。

 実際、今も鏡の中に存在している美少女を元に創作意欲が湧き出して止まらない。なんだこの可愛い生き物は。

 しかも自分が可愛いと思うポーズを取ったらその通りに動くとか最高すぎる。自分なのだから当然だけど。


「これが、本当に私……」


 そんなわかりきったことさえも、認められないと思う。

 現実とは比べ物にならないのだから仕方もないと思う。酷い隈はないし、枝毛もなく手入れもしっかりしているようにしか見えず、メイクしているかのような顔だちに加え、肌荒れさえない。むしろ瑞々しいとさえ感じる。そして何より、普段の私はジャージかパーカーしか着ない。だって楽なんだもの。

 そうして鏡とにらめっこを繰り返していると、連射音が止み、声を掛けられる。


「うん。どうやら気に入ってくれたようでよかったよ」


「あっ……はい。ありがとうございます……」


 その声に私は振り向いて、返事をする。


「この恩は必ず返すので……」


 このゲームの初心者である私になにができるのか。そう自問をするけれど、言わないと気が済まなかった。


「むしろ、こんな可愛い子を着せ替え出来るんだから、こちらとしては大歓迎なんだけどね」


「それでも……必ず……」


 フードを深く被り、顔をすっぽりと覆って私はそのまま家を出た。

 あれ以上居ては私の精神が色々な感情で溢れて持たなくなってしまいそうだったから。かえでさんはそのままお別れの挨拶を言ったまま追いかけてくることはなかった。

 足元には私に追いつくようにと狼がすり寄ってきていた。

 フードを被っているということは猫耳が見えているということなんだけど、顔が見えているのと、猫耳が見えているのだとどちらの方がマシなのだろう。


「私だとわからないから……セーフ……?」


 アウトだと思う。

 現実だったら即変人扱い待ったなしだ。けれど、これはゲーム。少し変な趣味の人がいるというくらいで済ませられるんじゃないかな?

 私の趣味じゃないのに、私がそんな風に見られるのは納得がいかないけれど……。


「……ねぇ、どう思う?」


 狼を両手で抱えて、フードを引っ張るようにして尋ねる。

 当然答えなど返ってくることはない。「くぅーん?」と首を傾げられただけだったけれど、私はそれでよかった。


「わかんないよね……」


 まぁでも。


「可愛いからいっか……」


 私はいつもより少し軽やかな足並みで木々の間を通り過ぎるように歩く。

 今日の風はいつもより暖かく、そして心に沁みるようで心地良いと感じた。

今回少し短いです。申し訳ないです。

あと、わかるとは思いますが、私の趣味がかなり出ております。ご了承下さい。

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