白テイマーさんの装備
機械の音が鳴りやむと、再びきらきらとした演出が巻き起こり、消える。
それまで鳴り響いていた音が止んだことで部屋の中には静寂とした空気が流れた。
退屈な時間を狼と戯れていた私は狼を降ろし、そこで今まで作業していた彼女へと近づく。
彼女は私のことに気づいていないのか、自身の手元を見たまま目を輝かせていた。少し、震えている気もする。
どうやら、彼女は集中すると何も見えなくなるみたいだった。一応、ゲームの仕様上はスキル発動中も声は届くはずなのだが、私が話しかけても一度も反応をすることはなかった。
とは言っても十分程度で終わりはしたので、退屈ではあったけれど、長い刻とは感じなかった。
「……かえでさん、終わったの?」
しかし、このまま固まられていても困るので、私はかえでさんの服の裾を掴んで彼女を呼びかける。
そうすることでようやく、彼女は反応を示してくれた。
「……えっ、あっ。ごめんね!? あたしすぐ周りが見えなくなっちゃって……」
「いえ、それは全然……」
逆に捉えれば、私のための装備にそれほどまで集中してくれているのだ。お礼こそすれど、文句を言う筋合いはないだろう。
それよりも……。
「完成したの……?」
私は、作ってくれていたそのものが楽しみで仕方がなかった。
普段あまりおしゃれとかはしないし、ゲームでも性能を求めたりはしない。楽しめればそれでいいという気持ちが勝るからだ。
だけれど、今回は別だった。私のために、春兎さんとかえでさんがわざわざ作ってくれるという装備なのだ。性能なんて二の次でひたすらに嬉しいという気持ちと、わくわくで心が埋まっていた。
「うん。最高傑作であると自負しているよ。見た目的にはもう少し挑戦させて欲しかったけれど、まぁ仕方ない」
「……み、見せて?」
完成したと、そう彼女は言うけれど、自身の後ろに装備を隠しているため、私から見ることができない。そのため、私は見せてくれと懇願をしたのだが、すると、彼女の顔つきが変わる。
「ちょっと、もう一度今の言って貰っていい? できるならもう少し恥ずかしそうに……!!」
「……嫌」
やはり、かえでさんは少しおかしい。類は友を呼ぶとはまさにこのことなのだろう。
春兎さんの知り合いでまともな人という人物はきっと世界中どこを探してもいない。勿論、私を含めて。
「そっかぁ……残念」
「それより、早く……」
渋々といった感じで、かえでさんは少し唇を尖らせたままに頷くと、後ろに隠していたそれを私の前に提示する。
私の眼前に現れたのはふわふわとした生地で作られた白パーカー。私の身長に合わせたわけではなく、少し大きく丈や裾が作られているように感じる。
大きめなポケットや、フードにも目を取られそうになるけれど、黒い模様が入っているのも注目すべきところだろう。
普段おしゃれをしない私でも、なんだかすごそうだというのは感じることができた。
……ただ。
「……なにこれ」
なぜかそのパーカーのフード部分には猫耳が小さく付けられていた。それだけではなく、腰の部分に尻尾みたいなのも生えている。
そうしてかえでさんを方を睨みつけると、彼女は目を合わせようとはせず、横を向く。
身体を動かしてそっちへと振り向くと今度は別方向へ。これでは埒が明かない。
「……かえでさん?」
「ひゃいっ……!」
「……これは?」
「……何でしょうね?」
頑なに目線を合わせようとせず、なんなら今にも逃げ出しそうだった。
何故、そんな風になってまでこれを作ったの……。
「説明を……」
「……いや、あのわざとじゃないの。実は服って完成図を思い浮かべながら作るんだけど、ちょっと邪念が入ったみたいで……」
余計たちが悪い……。
作ってもらった側として文句は言いたくはなかったけれど、これはひどい。可愛いとは思うけれど、自分でつけたいとは思えない。
「……はぁ」
深いため息をついてしまう。
私はこの行き場のない憤りをどこに向ければいいのか。そんなことを考えながら俯いて。
そんな私を元気づけようとしたのか、かえでさんはもう一着を取り出して私に見せびらかすようにする。
「ほら、でもこっちは普通だよ。普通」
かえでさんが持っていたのはズボン。しかもかなり短いショーパン。こちらは黒一色で染められた上のパーカーとは対照となっている。
のだが……。
「普通……?」
私の知ってる普通とは違った。
膝上何センチかはわからないけれど、どう考えても短い。短すぎる。かえでさんの中での普通をちょっと一度確認させてもらいたい。
こちらも確かに可愛いとは思う。思うけれど、やはりかえでさんの趣味全開な気がしてならない。
「短い……」
私がそのショーパンも手に取ってそう呟くと、彼女は「そう?」と疑問を浮かべるばかり。やはり基準が狂ってしまっているみたいだった。
これ、穿かなきゃいけない……?
「あと、これはずっと悩んだんだけど、はいこれ」
私が悶々と頭の中で考えているところにさらに追加で腕の中に物が乗っけられる。
どうやらそれは、靴下と靴。靴下はストッキングと呼ばれる真っ黒なももまでの長さのあるもので、靴は白を軸としたブーツだった。こちらも少し大きめのサイズに見えるけれど、外側が大きく作られているだけのようで、足自体のサイズはほぼ一致していた。
「ようやく、普通のものが……」
とはいっても、私はこんなものを履いたことはなかったりする。伊達に引きこもりをやっていないのだ。靴なんてサンダルか運動用シューズくらいだし、靴下だって、学校の校則に合ったものしか履いたことがない。
この世界では靴擦れなんてものはないと思うけれど、単純に慣れていないものなので、大変そう。
「パーカー以外まともでしょ?」
「いや、そんなことは……」
改めて、渡された装備を見る。
確かにどれも可愛いし、着る人によっては似合うのかもしれない。けれど、幼すぎる気がするし、何より恥ずかしい。
幼児体型な私なら確かに似合いそうだけれど……。
「まぁまぁ、とりあえず性能も見ていってよ」
そうして、彼女は各装備のステータス画面を開く。
「
・猫耳白パーカー
防御力上昇小
魔法耐性小
攻撃力上昇小
・黒獣のズボン
防御力上昇小
素早さ上昇小
・黒白のブーツ
素早さ上昇中
」
記載されていたのは以上の項目。どうやらストッキングとブーツは二つで一セットらしく、項目は一つしかなかった。
かえでさん曰く、この世界にステータスはないけれど、こうして装備で少し上昇させたりすることはできるらしい。
細かい数値は決まっているらしいが、プレイヤー側に公開はされていないみたいで、それを確認するために色んな人が攻撃を受けたりして確認をおこなっているとのこと。
問題は……。
「強い……」
見ただけではそこまではわからないけれど、少なくとも、私が今着ている初期装備と比べたら圧倒的に強いであろうことくらい、私でも理解ができた。
なんで、こんなにもふざけた見た目なのに強いんだろう。
あまりゲームらしくもない装備だし……。それはまぁありがたいけれども。
「あの、これリテイクとかって……」
せめてパーカーだけなんとかならないかと、淡い期待を胸に私はそのパーカーをかえでさんへと返却しようとする。
「え、無理だよ」
したけれど、そんな期待は一瞬のうちに砕かれてしまった。
うん、わかってたけども。
「これ、着ないといけない……?」
「きっと似合うよ……!」
違う、そんなことが言って欲しかったんじゃないの……。
目を輝かせ、親指を立てているかえでさんを前に私はただ、頭を抱えていた。
現在色々と難航しております故、投稿がかなり遅くなっております。申し訳ありません。