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白テイマーさんと川辺の家


 街を抜け、草原を抜け、出てきたのは小さな河川のほとり。

 大自然に囲まれるその場所には、大きく目を引く異質な物が建てられていた。


「……家?」


 レンガで作られた二階建ての建物。入り口は階段になっており、扉の位置は地面よりも少し高い。

 赤レンガの屋根は辺りに影を作っている。どう考えても自然のものでないそれは、景観を崩すように思えたけれど、思ったよりはしっくりとくる。

 けれど、これは一体……?

 そんな疑問を投げかけるように私は横にいるかえでさんの方を見る。

 かえでさんの方もどうやら気づいた様子で、一歩前に出ると、口を開いて説明をし始める。


「いらっしゃい。ここがあたしの仕事場兼家だよ」


 にっこりと笑ったまま、彼女は私の手を引いて、そのまま扉を開けて中へと入っていく。

 中に入ってまず見えてきたのは、大きな機械。

 一階はずいぶんと天井が高いらしく、天井までかなりある部屋の大部分を埋め尽くすほどに大きなその機械はどうやら、手織り機のようだった。

 実物を見たことはなかったけれど、テレビか何かで見たことがあるものに似ていたのだ。


「すごい……」


 ただでさえ家の場所や大きさで驚かされていたというのに、中に入ってみたらさらにこんなものまであるのだ。私の言語能力は著しく低下して、そんなことを呟いてしまっていた。


「そうでしょ、私自慢の家なんだから」


 かなり小さな声で呟いただけだったはずだけれど、どうやらかえでさんには聞こえていたようで、自慢げに答える。

 そうして、部屋の中を眺めていると、かえでさんは近くにあった椅子を私に差し出してくる。


「まぁ、座ってよ。今から、しらゆきちゃんに色々と聞いていくからさ」


「は、はぁ……」


 一体何をきくというのか。

 わからなかったけれど、言われた通りに大人しく座ることにする。じっと見つめられるせいで、なんだか居心地が悪く、目を逸らしていると、何かわかったようにかえでさんは「うん」とだけ言って質問を始める。


「それじゃ、聞いていこう。まず、好きな色は?」


「え、白……かな?」


 本当になんの質問……?

 とりあえず、名前にもあるし普通に好きだから言ったけれど……。


「ふむ、二番目に好きな色ってある?」


「……黒?」


 意図がまるでわからない。けれど、まぁ何か必要なのだろう。

 そう思うことにして、私は考えることを放置した。


「了解、それじゃあこれは確認なんだけど、確か職業はテイマーだよね?」


「……はい」


「前に出て戦ったりはする?」


 前に出る……? 今は魔法あまり使えないし、そういうこともあるのかな?


「たまに……?」


「ふむふむ」


 聞いたことを、どこからか取り出したメモ帳にメモしていく。

 わからない。全くわからないよ。


「どうしよう……うーむ、足を隠すべきか、ニーソも良い。確かに良いが、本当にいいのか? だって、こんなにもハリツヤのある太腿だよ? 素足にせずにして何がデザイナーか、でもなぁ……少し締め付けられてキュッとしまったのもなぁ……」


 小さな声で、早々と何か呪文のような言葉を紡いでいく。

 あまり聞こえないけれど、何か不穏なことを言っている気がする……。


「あ、あの……」


 流石に少し不安に感じて、そう声をかけてみるけれど、かえでさんは自分の世界に入り込んでしまっているのか、反応を示さない。


「あの……!」


 邪魔しちゃ悪いかなとも思ったけれど、一応聞いておきたかったから、少し声を張って再度声をかけると、ようやくかえでさんはこちらを振り向く。


「あ、ごめんね、なにかなしらゆきちゃん?」


「今って、何を聞いているの……?」


 私は少し、ため息交じりにそう尋ねる。

 すると返ってきたのはきょとんとした顔だった。


「あれ、言ってなかった? しらゆきちゃんの衣装の構想だけど」


 聞いてないよ。

 確かに着せ替え云々の話は合ったけれど、まさか作るとは……本当にいいのかな……。


「まぁ、そんなわけだけど、しらゆきちゃんから何か要望はある? ある程度は叶えるよ」


 そんな私の不安もそっちのけで、かえでさんは楽観的なまま聞いてくる。


「そんな、作ってもらうのに、要望なんて……」


「気にしなくていいから、どうせお金はもう貰ってるしね」


 なんでこんなにも本人がいないところで話が進んでいるのか、とか色々と言いたいことはあったけれど、何とか押し込んで、仕方がなく私は答える。


「えっと、顔、少なくとも目だけでもいいので……隠してもらえると……」


 こんなことを頼む人なんて他にいないんだろうなぁと、心底思う。

 けれど、私からすると死活問題でもあった。

 常に人の視線を感じる。そんな気がしている中でだと、どうしてもゲームでもやりづらさというものは残るのだ。

 そうなってくると、どうしても楽しむことにも限界が訪れる。私が克服すればいいだけなのだろうけれど、それができたら私は家にはいない。


「ん、可愛い顔を隠すのは忍びないけど、望まれちゃ仕方がない、そうするよ」


 理由などは聞かずともわかるのだろう。

 私のことをしばらく見つめた後に、くるりとその身を翻してかえでさんは、そのまま手織り機に手を掛ける。


「それじゃ、構想はできた。後は、そこで待っていてね」


 そうして、かえでさんが手織り機を動かし始めると、部屋の中にはカタカタという音が響き始める。

 製作しているときに起こる演出のようなものを辺りに散らしながら、順調にその手は進み続けた。


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