白テイマーさんとあの男
この間とうとう10万PV越えました。ありがとうございます。
スローテンポなこの作品ですが、変わらず続けていきますので気長にお待ちください。
広場を抜けた先にある大通り。
普段も店やら人やらでそこそこに賑わうそこは、普通とは思えないほどの密度で人が溢れかえっていた。
たくさんの人々がいるせいで、私の身長ではその中心に何があるかなどはまるでわからず、ただ、何かで賑わっているという事実だけが見て取れた。
「あそこは……?」
少し背伸びをしてどうにか見ることができないかと頑張ってみても、こうも大柄な人たちで埋まっていると見える気がしない。
私よりも身長の高いかえでさんですら、背伸びをしても厳しそうだった。
「うーんなんかやってるね。なんだろ……?」
かえでさんは、ぴょんぴょんと飛び跳ね、集団の中の様子を探ろうとする。
私は既に諦め、報告を待つのみだった。
「なんか、PVPをしているみたい。それを見世物にしてる感じ」
どうやら、中の様子が見れたようで、そのように言う。
私からは見ることもできず、特になんとも思わなかったけれど、そんなものを見て楽しんでいる人がこんなにもいるのにはびっくりした。
「面白いのかな……」
あまりにも熱狂しているせいで、少し気になってしまう。
私にももう少し身長があれば見れたのだろうか。
少し、寂しく感じていると、一瞬にしてそこは歓喜の渦に飲まれる。急なことに驚いて、そちらを見ると、どうやら勝負がついたようだった。
人の群れをかき分けるようにして出てきたのは、全身鎧を着こんだあの人だった。
「お、終わっちゃった。あんまり見れなかったか」
「そう……」
「うん、まぁあたしたちには関係ないね、他のところ回ろうか」
そもそも、見れてすらいないけれど、それはかえでさんも大差ないことだろう。
そのまま私はかえでさんに手を引かれる。
……なんか、私子ども扱いをされてる?
お祭りといっても、出されているお店もそんな多いわけではないらしく、少し歩くと、すぐになにもない空間へと出てしまった。
先程までいた場所からは考えられないほどに、人影が少なく、風が直接身体で感じられる。
「ありゃ、思ったよりも少ないんだ……どうする、一度戻る?」
そんな質問をされるけれど、私にはどうしたらいいのかわからず、目を逸らすかのように辺りを見渡した。
辺りにいる人の数は極端に減り、閑散とした空気が漂っていた。
「……用あるって……言ってた」
ふと、かえでさんが先ほど言っていたことを思いだした。確か、何か私に用があると、そう言っていたはず。
「ん、もうお祭りはいいの? まぁ、そんな得意ではなさそうだしね……」
こくりと頷き返すと「仕方がないか」と承諾してくれる。
その用事というのが何かはわからないけれど、できるのならさっさとやってしまいたい。
「一つだけ、聞きたいんだけどさ、しらゆきちゃん。お祭り楽しかった?」
歩みだそうとした私を引き留め、そんなことを尋ねられる。
その言葉に何の意味があるのかもわからなかったけれど、その表情は随分と真剣に感じられた。
少し気圧されてしまったけれど、私は目を合わせる。
「……うん。楽し……かった」
たったそれだけの言葉なのに、それを言った途端、なんだか恥ずかしくなってくる。頬を紅潮させながら目を逸らすと、かえでさんは何故か、笑っていた。
「そっか、ならばよし」
何がいいのか。
尋ねようと思ったけれど、かえでさんはくるりと振り返ってそのまま歩き出してしまう。
まだ熱い頬を撫でながら、私はかえでさんの後を追っていった。
「用って、なんなの……?」
どこに行くかも言わず、ただ歩み始めたかえでさんを必死に追いかけながら、私は尋ねる。
未だに、何も言われていなく、流石に気になっていた。
「ん、言ってなかったっけ?」
「……言ってない」
わざとなんじゃないだろうか。
「そか、着いてからのお楽しみ。って感じでもないしね。簡単だけど、プレゼントがあるのさ」
「プレゼント……?」
「そう、|あいつ(春兎)からのプレゼント。前に話があったと思うけどさ、しらゆきちゃん着せ替え人形計画」
「……あぁ」
思い出したくなかった。
その言葉を聞いて、私は反射的に溜息を溢していた。
「そんな嫌そうな顔をするかぁ……まぁ本当に、単なる善意でもあるから」
「善意……?」
確かにまぁ、良い人ではありますけど、あの話からは邪な気持ち以外感じられない気がする。
それを承諾した私もどうなんだろうとは思うけれど。
「そ、今回だってそれでわざわざ私に声かけてきたんだからね」
話の意図が感じられない。一体何を言っているのか、よくわからない。
いろいろな疑問が頭の中をぐるぐると回り続ける。
「……えっと?」
「うん、まぁ簡単に説明するとだ。しらゆきちゃんの分の装備を、整えてあげてくれってさ。お金も貰った」
「え……!?」
嘘……。いくらなんでもそんなことまで、流石にそんなことされて、私まだ、何も返せてないのに。
「あ、あの……そんな、受け取れない……」
「そう言うだろうと思ったよ。だけど、しらゆきちゃんもう頷いちゃったんだろう? なら、あいつは多分、変える気はないだろうねぇ、変に頑固だから」
「どうしても……?」
「どうしてもだろうね」
……今度会ったら、お礼と……もう少し、優しくしてあげなくちゃいけなくなってしまった。
だけれど、それでも本当にあの人は……。
好きじゃない。