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白テイマーさんと綺麗な人

一週間ぶりです。ようやくそろそろ余裕ができたので、少しは投稿ペースも戻るかもしれません。



 私に手を差し出す女性は、茶髪で短めに髪を整えている。

 服装はコートに長ズボンで、どちらかというとかっこいいという印象を与える。

 顔立ちも随分と整っており、全体的に随分と綺麗な人だった。


「怪我してない? まぁゲームだし大丈夫だろうけど……って、ん?」


 私がその手を取ろうと手を伸ばしたところで、目の前にいる女性はそう言って、私のことを凝視し始める。まるで目が悪い人が何かを探しているかのように。


「え……っと、その……私の顔になにか……?」


 私がそう言うと、咄嗟に赤くなって、手を大きく振る。


「ああ、ごめんね。なんか君、知り合いが言ってた子にそっくりだったから」


「知り合い……?」


 地面に転がったまま、私は上を見上げて尋ねる。

 この人は何を言っているんだろう。


「うん。結構有名なPLなんだけどね? 紺色の装備してる……」


「ああ、はい……」


 なるほど、あの人の知り合いだったのか。

 勝手にそう納得する。


「あ、その顔。やっぱ知ってた? うんうん大変だったね。あいつデリカシーないし、こんな子に手を出すとか通報したほうがいいかしら」


 私の身体を起こすとそのまま、豊満とも慎ましやかとも言えない丁度いいくらいの柔らかさのあるその胸で抱きかかえられる。

 起き上がってすぐのことで私には逃げ場はなく、そのままその腕の中にすっぽりと収まって声を上げるしか私にはできなかった。


「んえっ……!? あ、あの……!?」


「あーうん。これは確かに可愛い。愛でたくなるなぁ、あいつが言ってたことが分かるのなんかいらつくけど……」


「は、放して……」


「んーもうちょっと……えっと君は確かしらゆきちゃんだったっけ、よろしくね」


 そのまま、放してくれるということはなく、柔らかく、ゲーム内だというのにいい匂いのするその身体に挟まれながら話を続ける。


「よ、よろしく……?」


「うんうん可愛い可愛い。あたしは『かえで』一応、春兎の知り合い。で、このゲームだと裁縫職人やってます」


 私の頭をわしゃわしゃと弄くり回しながら、自己紹介をする。

 とりあえず放して……!?


「あ、あの……まだ……?」


「まだ。なんならずっとこのままがいい。思った以上に抱き心地がよくて……」


 私は抱き枕じゃないんだけど!?

 そう思っても、そんなことを言うなんてことは私にはできず、頑張って抵抗を試みるくらいなものだった。


「ふぅー可愛い成分が補充できたのであたしは元気いっぱいです」


 そう言って、ようやく私のことを放してくれる。

 私は元気を吸われた気分だった。かえでさんはなんか肌がつやつやしていた。


「そう……じゃあ、私はこれで……」


「おっとストップだ。逃がさないよしらゆきちゃん」


 やっと解放されたということで、疲労困憊な私はそのまま歩き出そうとするけれど、目の前に立ち塞がれそれを止められる。


「まだ何か……?」


 正直、さっきまでのやりとりだけでもう十分にうんざりしていた私は、少し嫌そうな顔をしてしまっていたと思う。


「うん、実はまぁ色々頼まれてるわけでして、暇があるなら付き合ってほしいかな。ついでに暇なら一緒にお祭りでもどう?」


「私は、今からレベル上げが……」


「つまり、暇ってわけだね。よしじゃあいこっか」


 何故かノーと答えたはずが、かえでさんの中ではイエスになったいたらしく、私の手を掴んでさっきまで私がいた場所。つまり広場まで私を誘拐していく。

 どうやら、話を聞いてくれることはないらしい。

 ……ほんとうに、あの人の周りには変な人しかいないのか。


「いやー実はさ、今日あいつ用事あるとかで出来ないらしくてさ、仕方がないから一人で祭り回ろうかと思ってたんだけどさ、流石になんか悲しくなってくるし、しらゆきちゃんいてよかったよ……」


「……私、お金ないので……」


 ていうか、人と祭り回るなんて、そんなことやったこともないんだけど……。

 昔から、友達なんてなかったし……。


「あ、そういえばそんな進んでないんだっけ? んじゃ仕方ないね、あんま私もお金ないけど、今回は出してあげるよ。一緒にお祭り回ってくれる代ってことで」


「いえ……そんな、私からは何も、してないし……」


「気にしないで、ここで逃がしたら脱兎のごとく逃げだしそうだから、それをさせたくないだけだから」


 ……私、どんな風に思われてるの?


「そんなことは、どちらにしろ悪いので……」


「最悪春兎の奴から請求するから安心して、さ一緒に楽しもせっかくのお祭りなんだからさ」


 そうして手を引くかえでさんの手を拒むことなんて、私にはできなかった。

 あったかく、そして力強いその拳は、がっしりと逃がさないためなのかもしれないけれど、私のことを掴んで離さない。

 人混みで溢れる中はぐれないようにしっかりと手を掴みながら、順番に一つ一つ、屋台を回っていく。

 さっきは食べることができなかった美味しそうなご飯も、お祭りらしいリンゴ飴も、色んなものを食べて飲んで。


「あの、本当にいいの……?」


「うーん? 流石に罪悪感とか感じちゃう?」


「はい……まぁ……」


「それじゃあ、こう考えておくといいよこれから”何が起こっても知らないよ”って」


 その微笑みには、悪魔よりもよっぽど凶悪で残忍で、得体のしれない何かが潜んでいると、そう私は確信した。

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