白テイマーさんとお祭り
また投稿感覚空きましたね。ちょっと多忙で遅れそうです。
また、時間が空いたら戻していけたらと思います。
騒々しい街並み。活気にあふれ、喧騒の止まない大通り。様々な色で彩られた店々が立ち並ぶ広場。普段の、人だけは多い、街景色からは想像もできないほどに栄えたその光景は、ログインしたばかりの私の思考を停止させるには十分だと言えた。
「……え?」
今日も、いつも通りにレベル上げでもするために私はこうしてゲームへとログインをした。
目に留まるような目新しい情報もなく、適当にログインを済ませ、目を開けてみると、このような光景が待っていた。
呆気に取られるのも、仕方がないと思う。
しばらくその場で立ち尽くし、辺りを眺めていると、余所見をしながら歩いてきた人が、私の肩に後ろからぶつかる。
別段、強く当たったりしているということもなく、その場で少しよろけてしまうだけだったけれど、私はそちらに振り向くと、身体を固めてしまう。
「お、すまねぇわざとじゃねぇんだ」
「す、すみませ……ひゃぅ……」
目の前にいたのは、如何にもって感じの騎士だった。
逆立った髪、細目で睨んでいるようにしか見えない目、とても大きく、見上げないと顔が見えないくらいの体格、その身体を覆いつくす真っ黒な鎧、そして、背中に背負っている大剣。
恐らく、私の姿がほとんど見えていなかったのだろうその人を見て、私は震えてしまう。
人見知りだとか、喋るのが苦手だとか、そういうことではなく、単純にその人が怖かった。
私が固まっていることに、気づくことすらなく、その人は去っていく。
……普段だったらぶつかるほど人混みができたりはしないというのに、一体何があるのだろう。
疑問に思っても、人に聞くこともできないので、仕方がなく、私は、店を回ってみることにしてみる。
「迷子になりそう……」
かなり見慣れた街だというのに、人がいるだけでここまで変わるとは思いもしなかった。
狼が踏まれるのも嫌なので、両手でしっかりと抱えたまま、近くにあった屋台を覗き込む。
上に書かれてあったのは『特製屋台飯』という文字。
そして、一個500ジュエルとのこと。
まるでお祭りか何かみたいだなと思い、何があるのかを見てみると、ご飯ものの料理が並べられてあった。お肉がメインなようで、香ばしい香りが辺り一帯を埋め尽くす。
食欲をそそるその匂いのせいで、私は少し前の方に出すぎてしまう。
「ん、嬢ちゃんいらっしゃい。一個500ジュエル好きなの持って行っていいよ」
「え、あ、あの……」
どうやら、お客さんだと勘違いをされたらしく、戸惑いながら、私は自分のプロフィールを確認する。
そこにかかれていたのは、悲しくも綺麗な数字。0ジュエルというものだった。
「すみません……!!」
これでは何も買えない。というか邪魔なだけだと気づいた私はすぐさま頭を下げその場を立ち去る。
お金を持っていない自分を恨みながら、とぼとぼと歩いていると、広場の入口に旗が上がりながら、勘案が立っているのを発見する。
書いてあるのはこういった内容だった。
『フリーダム祭~MSW初、プレイヤー主体の祭典』
内容は、各々が作れるものを持ち寄って、屋台は貸すからお祭り騒ぎしようぜ。というものだった。
このゲームには様々な趣味スキルと呼ばれるスキルが存在している。私が持って要る中だと、調理スキルがそれにあたる。他にも、裁縫、鍛冶、家事、描画、執筆、大工、醸造等、多種多様なスキルがあるが、今回の騒ぎはそういったものを活かして行うものだった。
どうやら、事前に色んな人経由で話は合ったみたいだけれど、知らない人は知らず、こうして私のようにこの場で知った人もいるみたい。
開催しているのは結構大きなギルドで「天一」というところだという。
少なくとも、現時点で無銭である私に参加資格はなく、よくて雰囲気を楽しむ程度だろう。
「……レベル上げでもしよう」
しかし、そんなものはこちらからご免だった。なぜわざわざ、日陰者の私が日向に住む者のお祭り騒ぎに参加しないといけないのか……。
美味しそうなものはちょっと惜しいけれど、どうせそれを楽しむことだってできないのだから、いる意味なんてないだろう。
そう考えた私は、賑やかな街並みに背を向けて、狼を抱えたまま歩き出す。
「ゲームでも、こんなのあるのかぁ……」
ため息一つ。
少し、現実に戻されるような感覚を味わい、心が痛む。
そりゃ、私だって楽しめるものなら楽しみたいと思ったりはする。けれど、私はそれができない。できないから”私”なのだ。
「いこっか……」
腕の中にすっぽりと納まる狼を見ながらにそう言って、私は足を踏み出す。
そうした瞬間に起こったのは衝撃。鈍く何かにあたったと気づいた瞬間には、私は後ろに倒れ、しりもちをついてしまっていた。
「あぅ……。ず、ずみばせん……」
鼻を打ったせいでか、フラフラとしてしまう。
「おっと、大丈夫……? ごめんね。メニュー弄ってて気づけなかったよ」
私に差し出された手は細く、瑞々しい。ゲームとは思えないほどに繊細な肌は、それだけで目に留まる。
顔をさらに上方へあげて、そこに見えるのは、綺麗な女性だった。