白テイマーさんとVRMMO
一話目上げた時点でブクマや評価など、たくさんありがとうございます。
ゆったりと上げていけたらと思いますのでよろしくおねがいします。
追記:さっそくミスというか、見やすさによりスキル表示を変えさせていただきました。申し訳ない。
ここは、魔法と技術が交錯する世界。
自然に溢れ、生き物に富み、技術により発展する。
己の力を鼓舞する。優雅に一人旅をする。趣味を極める。家を持ち、のんびりとした生活を送る。人々と交流をする。その全てが詰まった世界。
――――――――あなたはこの世界で何をしますか?
〇
再び目を開けると目の前に広がる光景は、小さな街のようなものだった。
レンガや木で造られた建物、石で作られた街道、ランタンで作られた街灯など、とても現実とはかけ離れた、いや少なくとも日本の街並みとは異なると言わざるを得ない光景があった。
既に街中は人であふれており、頭の上に名前の書かれた人とそうでない人達がいた。
名前の書かれたプレイヤーであろう人達は皆、既によさげな装備を着けていたりと、始まってからそう経っていなかった気がするけど、どうやら私はだいぶ遅れているみたい。
少し周りを見渡すだけでも色んな人がいて、見ていて飽きない。
様々な武器を持つ人達、様々な服装をした人達、コスプレみたいな変な恰好をした人、モンスターを引き連れている人。
スタート地点から動くことすらなく、それだけの人が入れ違い立ち替わりに闊歩しているのが見られる。それだけでも、普段家から出ることがない私からすると、ものすごい光景だった。
「…………おぉ」
本当にゲームの世界に入ったんだ……。と感心していると、近くに建物の窓ガラスがあり自分の姿が目に入る。
そこにいたのは、私なのに私じゃない人だった。
長く綺麗な透き通る白髪を揺らせ、普段の私の特徴ともいえる目の下の隈もなく、顔も若干可愛くなっているように感じる。
日本人離れした宝石のように輝く瑠璃色の瞳も髪の色と相まってとても綺麗に見える。
身長約一五〇センチという少し小さめ程度のその姿は女性としてはまぁまぁな方ではないだろうか。
思っていたより綺麗なメイキングになっていて、嬉しくなりガラスの方を見つめながら、様々なポーズを取ってしばらく遊んでしまう。
「でも……」
ただ、それに対してなんとも服装が残念だった。
茶色の飾りっ気のない初期装備。いわゆる皮の装備というやつだろう。
中途半端にごつく、中途半端にしっかりしている。せっかく可愛い姿が作れたというのに(当社比)これでは残念すぎる。
特に、先ほど見かけた色んな服をしている人たちを見た後だからかもしれないけど、これはひどいと言わざるを得ない。
なんとしても、いち早く装備を整えよう。
「…………とは言ってもやり方知らないな」
困ったことになんにもやり方がわからない。超簡単な操作説明くらいは読んだけど、ゲーム世界の方の説明なんてまるで知らないのだ。
「ひとまず、メニューを開いてっと……」
指を前に出し、上から下へとスライドすると空中に操作用のメニュー画面が現れる。
もしかしたら操作説明くらいあるかな? という淡い期待からの操作だったのだが、そこには想像していなかった文字が浮かぶ。
「チュートリアルを行いますか…………?」
その下にはイエスとノーの二択があった。
おお、なんだあるんじゃんチュートリアル、これで路頭に迷わなくて済む。やった。
迷わず、イエスを押すと、クエスト受注という画面が現れる。
内容は薬草の採取というものだった。
「クエスト、やりながらのチュートリアルなんだ……」
チュートリアルというくらいもあって、内容はかなり簡単そうだった。
順番にこなしていけばいいだけみたい。
勝手もよくわからない現状だし、これはもう受けるしかないよね。
「えいっ……」
【チュートリアル:薬草の採取 受注】
左手でイエスコマンドを押すと、画面が変わり、クエスト受注と表示される。
さらに数回押していくと、簡単な説明が書かれていた。
どうやら、薬草の採取は街から出てすぐの森で出来るけど、その途中に崖があるらしい。
ひとまず、それ以上の説明はなく、崖まで向かおうとの指示だった。
「簡易的な地図まで用意してあるとは……」
初心者向けの一番最初のクエストだけあって、かなり親切につくられているようだった。
これで迷う人は相当やばい人だろう。
〇
「…………迷った」
ここまで見事なフラグ回収があるかと、そう言わざるを得ないくらいに完璧な回収だった。
別にわざとやったとかそんなんじゃない。
ただ、森の中は、一本道だったのだが、脇道の方に拾えそうな林檎を発見したのだ。
食べ物があることに驚きながら、拾っていると、さらに林檎を見つけた。
それのループが発生し、今ではアイテム欄に林檎が十五個も集まってしまった。
その結果、森の奥深く、空を覆うほどに深い木々に囲まれた場所にたどり着いてしまった。目の前にはなんか山と洞穴が見えている。
ここは一体どこ………。
「ここ………入ったら街と繋がったりしないかなぁ………」
目の前の洞穴は、いかにもって感じでその存在を主張する。
好奇心で入りたい気持ちと、どうなるかわからなくての恐怖に揺られながら、その場でうーんうーんと頭を悩ませる。
「でも、どうせ帰れないしなぁ………」
道に迷って帰る手段なんかとうに失っている私に怖いものはなかった。
最悪デスポーンができるだろう。その場でリスキルとか、そんなことはないだろう。
そんな考えの元、少ない攻撃手段である本を構え、私は洞穴の中へと進んでいく。
洞穴の中に足を踏み入れると、急に寒気がやってきた。
ぶるっと肩を震わせ、周りを確認するけど、特に異常はない。
演出的な何かなのだろうけど、びっくりするからやめてほしい。
洞穴内はほとんど一本道で、私の足音が反響する以外に物音もしなかった。
「………誰か……いない?」
なんとなく、心許なくなった私は洞穴の奥へそんな声を上げてみる。
けれど、予想通り返答はなかった。
「誰もいない……」
もしかしたら、誰にも知られてない隠し場所だったりするのかな。とか、そんなことを考えながら、暗闇の中を進んでいく。
夜目が効くわけでも、何か魔法があるわけでもない私には、うっすらと水色に光る鉱石を頼る以外なかった。
「鉱石さんありがと……」
その鉱石が何かもわからないけど、とりあえず感謝だけはしておいた。
意味なんてないけど、感謝するのは大事だよ。うん。
しばらく進んでいると、様々な色の鉱石が増えてきていた。
おかげで視界内がカラフルに彩られている。
「わぁ……きれい……」
そのうえ、モンスターもいない。
イルミネーションで飾られた道を歩いているようで、なんだかわくわくした。
試しに、鉱石が採れないかなと思い、本で叩いてみると、なにやら欠片が落ちた。
「えっと……ダイヤモンドの欠片?」
よくわからないけど、ダイヤモンドが何かくらいは知っている。
どれほどレアなのか、とかなぜ本で採れたのか、とか気になることはたくさんあったけど、ひとまず採れそうな分は片っ端から採っていくことにした。
結構な数を採っていったころ、レベルアップしましたとの表示が現れた。
「およ……?」
なんのことだろう……?
と、とりあえずその画面を押してみるとあったのは採取:2というものだった。
「これは……たしか選んだスキル……いつの間にか使われてたんだ」
まぁ、下がったわけじゃないし、よくわからないけどいいかな……。
そう考えた私はただひたすらに目につく鉱石を光が失われない程度に本で殴っていった。
ふと、大きな場所へと出た。
洞穴の最深部のような場所で、先ほどの鉱石よりも透明に近いそれはとても巨大でその空間を飲み込んでいた。
輝きも明らかに強く、広い空間をそのものだけで全貌がわかるほどに照らしている。
私は、今までにみたこともないような光景に感嘆の声を上げるしかできなかった。
「……おぉ」
見上げるように顔を上げ、それを見る。
なんとも透き通っていて、氷を思わせるそれは、しかし触れてみても冷たくはない。
むしろ若干あったかいとまで感じるほどだ。
頬を擦り付け、綺麗なそれと対面していると、何かの音が耳に届く。
「鳴き、声……」
獣の小さな鳴き声と呼ぶにふさわしいそれは、この広い密室の奥から確かに聞こえてきていた。
モンスターだったら嫌だな。と思いつつも聞いてしまったものは気になってしまう。
そうして方向さえよくわからないから、手当たり次第に歩き回って探索を始めた。
結構経ったころ、再び聞こえてきた鳴き声を逃すことなく私はそちらの方へと走った。
「白い犬……?」
そこにいたのは、小さな一匹の獣だった。