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白テイマーさんと通話

少し投稿が送れました。難産でした。


「……そっか、そんなことが」


「はい……」

 半分だけ顔を出す虚ろに光る月が空に昇る頃。

 私たちは、最近よくこうして通話を繋いでは一緒に作業をしたり、ただ雑談をしたり、近況報告とかをしていた。

 互いに顔を合わせているわけではなく、パソコンを経由してヘッドフォンから聞こえる声を使っての通話。

 最初は、こんな通話ですら声を出すことができなかった私も、今では人並みに話すことができる。

 それも全部。今こうして話している相手のおかげだった。 


「あぁいいなぁ~私も早くやりたいです……」


「お仕事、大変そう、ですから……」


「うぅ~大変だけど、あんまり話さないしらゆきさんが話してくれるほど楽しいとか、そんなの我慢できるわけないですよ!!」


 ……そっか、私聞かれて答えるんじゃなくて、自分から話すなんてほとんどしたことなんてなかったんだ。

 今は、私が最近ゲーム内で起こってることを簡単に話していた。自分では普段通りの団欒のつもりだったけれど、ここまで心が動かされたのは久しぶりだったから……。


「……あっ、すみません。そんなつもりは……」


「いやーむしろ、送ったゲームをそこまで楽しんでもらってるもん。こちらとしては嬉しい限りですとも。まぁ……そのわたしができてないんですけど……」


「……早く一緒、できると、いいですね……? そういえば、今原稿ってどのくらい……?」


 話しながらも、ずっとタイピング音は聞こえていた。書けていないということもなさそうだし、何よりナギさんは筆が早いと自分で言っていた。

 もう結構経っているし、思ったよりも進んでいるかもしれない。


「んーと、後改稿ですー。ただ、おkが来るかどうかもわかんないし、次回のプロットとかもあるから……」


「……聞いたの私ですけど、それがどのくらい進んでるのか、わかんない……」


 残念ながら、私はそんな経験ないので……。

 聞けばわかるのかな……?


「あはは、まぁ作業自体は順調です。しらゆきさんの方はどうなんですか?」


「……えっと、まぁ、順調です……。最近は息抜きに落書き、上げてますけど……」


 そう考えると、私、息抜きばっかりしてるなぁ……。

 人より少し多い自由な時間を正当に使ってるだけなんで……うん。


「あっ、そういや落書きと言えば、こないだ上げてたじゃないですか!! 見ましたよあれ、超かわいかったです!!」


「ありがとうございます……。そう言っていただけて嬉しい、です……」


 私の本業はイラストレーター。といっても、知名度なんてたかが知れてるし、画力だって自分ではまだまだ満足がいっていない。

 色んな人の絵を見ては挫けそうになったりもする。そのたびに、こういった言葉を思い出す。何気ない好意を向けられた言葉だけど、それが、私にとっては全てでもあった。

 思えば、私がまだまだ絵が下手だった時に初めて声を掛けられたのも……。


「……そういや、言われてたのも、もうすぐ完成します」


「本当ですか!!??」


 私がそう言うと、ナギさんは瞬時に反応する。……無茶苦茶に食いつくのが早かった。

 言われていたことというのは、ナギさんが頼んでいた絵であった。


「はい……。満足いただけたら、いいんですけど……」


「超楽しみです!! 早く見たい……」


 しかも、かなり特殊な依頼だった。

 リテイクなし、完成するまで見せないでください!! とのこと。それほどまでに、ナギさんは私の絵のことを好いてくれていた。

 ナギさんにだったら、無償でも書くというのに「相場がわからないので……」と会った時に現金で渡されたときは本当に吃驚した。

 まぁ、ほとんど返金したけど……。


「今、ちょうど、それ描いてます……。見せられないのがもやもやする……」


「ちょっとそれが気になって原稿どころじゃないんですけど……」


「いや、原稿はやってください……」


 ナギさんだと、本当に原稿の手が止まったまま嘆いていたりしそう。


「頑張りまする……」


 カタカタという心地の良いタイピング音。あまり私はタイピングは得意ではない。けれど、こうして耳に伝わってくる音は、その人が頑張っているのが伝わってくるし、聞いていて心が安らぐ。

 最初の頃は少し雑音にも思えたけど、今では、これを聞いていた方が集中できるというのだから面白い。


「そういや、こないだ言っていた発禁小説。あれ最初の部分書けたんですよ」


「……え?」


「思ったより難しくて、なんでも書けそうだったので、どういったの書こうかっていうので、悩んでてですね?」


「あの……その話はなかったことになったんじゃ……」


「いやぁ、なんか筆が乗っちゃって……」


「……今すぐにやめてくださいっ!! 私で、遊んでっそんな楽しいですか……!!??」


「うんっ」


 一瞬の迷いもない即答だった。


「もういい、ナギさん嫌い……」


「ああ!? 待って、しらゆきさん待って、冗談だから!! ごめんなさい!! 本当に悪気……はあったけど!?」


 最早、自分が何を言っているのかも理解していないほど、混乱しているのか、次々と口早に言葉を繋いでいくけれど、慌てすぎて、何を伝えたいのかわからない。


「……私、ちょっとコンビニでも行ってきます……」


「えっ、お願いします!! 本当にお話を!! お聞きくださいませしらゆき様ああああ!!」


 私は、その声を聴かずに通話画面のマイクボタンをワンクリックすると、席を立った。

ナギさんとは存外仲がいいです。

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