白テイマーさんと一つの物語
遅くなりました。今回のお話でやっと目的がわかったかと思います。
感想、レビューなどとても励みになります。ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
広い幻想的な空間。
ここからでは全貌をみることすらできないような、そんな場所で私の耳に届くその声は、この洞穴中に反響する。
どこから聞こえているかは理解できるし、その物を見ることはできるのに、何が話しているのか私にはわからなかった。
「え……」
声の元を探すために、きょろきょろと辺りを見渡してみるものの、やはりその大きな結晶以外にそれらしい物は見当たらなかった。
てことは……。
「やっぱり……?」
そういって再度、大きな結晶を見上げる。
天井まで届きそうなほどの高さに、広々としたこの空間を埋め尽くすほどの横幅。それほどの大きさを持つというのに、失われることのない光沢と反対側が透けて見えるほどの透明感。
触ることすら躊躇われるほどそれは美しく思えた。
そうして眺めていると、再度、同じ声がこの空間に広がる。
〈どこを見ておる。ここじゃここ〉
そう指示する声もやはり聞こえてくるのは、結晶からだった。
よくよく見てみても、生き物のようなものは居なく、どういうことなのか見当もつかない。
「あの、一体どこに……」
〈見えておろうにそんなことを聞くとは。ほれ、目の前にあるじゃろ〉
問いかけてすぐに返事は返ってきた。
今度こそと耳を澄ましてみると、間違いなくそれは結晶からだった。
「無機物って喋るの……?」
そんなわけないけれど、このゲームではそうなのかもしれない。そんな考えの元、私はそんなことを訪ねていた。
〈なわけ……なくはないのか……。だが、我は違うぞ?〉
「無機物……じゃない? ゲームだとそこまで違うの……?」
最近のゲームってすごいんだなぁ。とか、そんなことを考えていると返ってきたのは否だった。
〈いや、我は元々魔物。モンスターと呼ばれるものだったのだよ〉
〈仕方がないな、少し話をしよう〉
それは、彼のものの死んでしまう前のお話。
――――――――
昔、一つの森には二匹の強者がいました。一匹は西の森を統べる巨大な白狼。もう一匹は東の森を統べる巨大な熊。どちらも強大な力を持ち、常に森を賭けて争いは途絶えませんでした。
この争いはとても長い長い間続き、いずれ森に他の魔物は住みつかなくなっていました。そんな中、森を侵略しようとした果敢な者たちが現れました。それは人間でした。人間たちは、白狼や熊に勝てるような力など持っていません。しかし、しばらくして勝利を収めたのは人間たちでした。
結果、白狼たちは狭い洞穴へ。熊は崖の下の小さな森へと追いやられてしまいました。
無事勝利をおさめ、森を統治するようになった人々は開拓を進め、木々をなぎ倒し草原とし、橋を架けて二つの森を繋ぎました。
しかし、二対の獣は諦めてなどいませんでした。獣たちは長い期間ただ耐え忍んでいました。全ては森を手に入れるために。
その目から闘志は消えておらず。その姿は、以前よりも格段に成長していました。
ただひたすらに、憎しみの感情をその心に灯して。
獣たちは考えました。何よりも先に倒さなければいけない相手のことを。その相手がどれほど強大で、凶悪で、そして優しいことを……獣は知っていました。
そうして、より強大な人間が現れるよりも前に。それを予知した二匹は、本当の闘いを。己の全てをかけて、身が果てるまで争い続けました。
三日三晩争いは果てることなく、人々は鳴りやまぬ雄叫びに恐怖しました。
いずれ、朝日が昇ったころ。そこに立っている者はいませんでした。
狼はその身体を引きずって住処へと帰っていました。もはや動けるからだではなかったはずですが、その身体はまだ意志を残していました。
熊は、ただ、倒れたまま微笑んでいました。
そこに残っているのは、大きな光り輝くクリスタルと、大きく聳え立つ巨大な樹。そして、小さな白狼と小熊でした。
――――――――
それはまるで物語を絵本にして読むように。
結晶……いえ、白狼はまるで私の反応を見るかのように、静かになる。
優しいと、そう感じる声で語り紡がれたそのお話は、私は想像していたものをはるかに凌駕していた。ゲームなのに、少しでもそう考えてしまった私を私は殴りたくなった。
しばらく訪れたのは静寂だった。
私は、ただ目を瞑って考えていることしかできなかった。
そして考えて、私は口を開いた。
「……それで、私にどうしてほしいの?」
私にとって、このお話は単なる昔ばなしだとは思えなかった。ただならぬ意志を、その声からは感じ取ることができた。
――――だからこそ、この白狼は望みがある。
〈……流石だな契約者よ。この話を聞いて、そこまでの目ができるとは〉
その声は少し驚いていた。
〈お願いがある。この争いを終わらせてほしい、そうすることでやっとそいつは解放されよう〉
そいつ。というのはこの狼のことなのだろう。
ああ、なるほど……本当にこれを考えた人は性格が悪いなぁ……。
「……うん。わかった」
答えた瞬間に、狼の周りに光が集まると、その光は狼に隠されて消えていった。
それがなんなんかはわからなかったけれど、悪いものには思えなかった。
しばらくすると、通知音が鳴る。内容は理解できた。
【契約クエスト:旧敵である熊を倒して、この争いを終わらせろ3/3】