白テイマーさんと森の中の洞穴
舗装のされていない荒れた土の上を進む。
枝や根、茂みがあるせいで足元は悪く、覚束ない足取りでただひたすらに。
木陰に覆われ、辺りは涼しくも仄暗い。それが、冒険らしく感じ、なんともやる気を奮い立たせてくれた。
所々から顔を見せる太陽は、私に時間を教えてくれる。
私は再びあの森の中へと一人と一匹で来ていたのだった。
チュートリアルをクリアするために、ひたすら毎日挑み続けた舗装された道ではなく、狼を拾った時に通ったであろう林檎道。
何故曖昧な表現しかできないのかというと、私自身が道を覚えておらず、どうやってあそこまで辿り着いたかなんて知り得ないからだった。
自分でも情けないとおもうけれど、私のこの方向音痴は天性のものらしく、直しようはないらしい。
こうしてそれらしき道を歩いてはいるけれど、実際この道であっているかなんてわからないため、あの洞穴に着くことができるかなんてのは私にはわからない。ただ、なんとなく着いたらいいなぁと思いながら足を進めていた。
「ここ、どこなんだろう……」
けれど、進めど進めど見られるものは鬱蒼とした木々や、まれに落ちている林檎(全部回収済み)。
代り映えしない景色は元気も、やる気も削いでいく。憂鬱な足取りで前へ前へと進んでいくが、ほんとうに前に行っているのかさえわからない。
「なんでこの森、こんなに広いの……」
少なくとも、街を出てすぐの草原の大きさと比べると、かなりの大きさを誇る森なんじゃないかと思う。確か、道を順々にすすんで行くと次の街に進めるらしいからその関係なのかもしれないけれど、それにしても大きくすぎる。
もうずっと歩いているというのに、一向に進んでいる気がしない。
お腹が減るわけでも、喉が渇くわけでもないけれどそういったことをして気分を紛らわせないと気が滅入って仕方がなく、そんな欲求を満たすため、私はいつも通りにただ林檎を齧ったり、春兎さんからもらったリンゴジュースを飲んだりしながら、ひたすらに歩き続けた。
どれくらい歩いたのかもわからなくなってきたころ、ずっと変わることのなかった景観に一つ変化が訪れた。
俯きながらに歩いていた私はそれに気づくのが少し遅れて、頭をそれにぶつけてしまう。
「あうっ……」
痛い。というほどでもない痛みに額を抑えながら、ぶつかったものを見てみると、それはそれは大きな岩が、私の前に鎮座していた。
これがなんなのか確認するため、辺りを少し確認すると私は一つの憶測に辿り着く。
「……これ、山?」
私が当たったのは岩肌で、大きく上を見上げても頂上の見えないこれは、ここら辺からそそり立った崖か、山なんじゃないかと、そう思ったのだ。
そして、何よりも私は重要なことに気づく。
「この岩……」
私は多分この岩を見たことがある。
それは、あの洞穴の周りにあったものだった。
見間違いかなとも思ったけれど、多分間違っていない。確信もないけれど、私はそう感じた。
そして、もし本当にそうならば――。
「ここを、伝っていけば……」
方角なんてわからないけれど、どちらかに歩いていけば、あの洞穴。"結晶洞穴"に行くことができるかもしれない。
それなら――。
選択肢なんて、あるようでないようなものだった。わざわざ時間を割いてここまで来たんだ。今更、ここで引き返すなんてあり得ない。
私はそのまま岩壁に手を置いて、歩き始めた。
破壊できるのかもしれないけれど、触ってみると随分と固く、多分本じゃ無理だと考える。破壊できないものは仕方がなく諦めて目標のため進むのだった。
〇
日も沈んで、薄暗い森がさらに真っ暗になり、視界が頼りにならなくなった頃。
私はようやく念願の洞穴の前に立つことができた。
HPが減っているわけでもないけれど、既に身体は疲弊しきっていて、もう私の足は歩きたくないと悲鳴を上げてしまっている。
前回よりも時間がかかったこともあって、多分かなり遠回りをしてここまで辿り着いたのだろう。次からは、絶対最短で行けそうな道で行ってやる。
そう心に決めながら、私はゆっくりとその洞穴へと足を踏み入れる。
「さむい……」
中に入った途端、夜になっていることもあってか、前回にもまして冷たい風が服の隙間から私の肌を刺激する。
本当にこんなところをわざわざリアルにしなくてもいいのに……。
寒いのを何とか堪えて口から白い息を吐きながら私は中へと進入っていく。
久しぶりに来たとはいえ、元はここに住んでいたであろう狼が少し元気になったように感じながら進んでいると、前回お世話になったダイヤモンドの塊にまた出くわした。
相変わらず、綺麗な光沢でその輝きを見せつけるそれは、不思議なことに前回と変わりがないように見える。
「あれ、採ったのに……増えてる……?」
どう見ても私が前回採取をする前と同じくらいまで量が戻っており、洞穴内は外なんかよりよっぽど明るかった。
これは多分、ゲーム仕様かなにかで元に戻ったのだろう。一回きりの採取だとおもっていたけれど、そんなことはないなら少しラッキーということでもう少しもらっておこう。
相変わらず採掘をする道具なんかはないので、本を取り出して殴る、殴る、殴る。
飽きもせず私はそれを繰り返しながら、また道を進んでいった。
そうして私は目的の場所。
前回狼と出会った結晶が美しく光り輝き、広がる大きな空間へとやってきた。
それと同時に、私の頭に直接一件の通知が届く。
【契約クエスト:目の前にいる者から話を聞け2/3】
それは契約クエストの、結晶洞穴に向かえというものをクリアしたのと同時に送られてきた、次のクエストだった。
その内容は至ってシンプル。話を聞くというだけのものだった。けれど……。
「目の前にいる者……?」
その、目の前にいる者というのがわからなかった。
私の目の前にあるものは、大きな結晶の塊以外には何もないのだから、そう疑問に感じるのも仕方がないと思う。
悩んでいるうちに狼が一際大きな結晶であり、この空間の中心にあるその結晶へと駆け寄る。
「あっ……ちょっと……!?」
慌てて追いかけると、宙から小さいながらも芯のある綺麗な声が聞こえてきた。
〈契約者よ、よくぞおいでくださった〉
その声は狼が見やる先。大きな結晶の中から聞こえてきていた。
少しは書き方が変わってきたんじゃないかなぁと、思いたい作者です。
よければ感想などよろしくおねがいします。
 




