白テイマーさんは動物が
明けましておめでとうございます。今年も執筆頑張っていきますのでよろしくお願いします。
今回は、ちょっとお話関係ないです。
閑話程度に考えていただけるとありがたいです。
この世界は綺麗なようで、まっくらだ。
どす黒くて、目の前ですら見えない。もがいても、足掻いても何も得るものなんてない。外の世界は明るいのに、そこから足を踏み外した人に見れるものなんて……そんな世界には、未来も、現在もない。ただそこにあるのは逃避か滅亡か、あるいは――――。
〇
暖かな陽光の射す、緑が辺り一帯に広がる草原。
風が草花を揺らす音が耳をすり抜けていく感覚が心地いい。
今、ここにいるのは、私と一匹の狼だけだった。
平日の午前の十時くらい、ゲーム内の時計はそんな時間を表していた。それはちょうど、ログインしている人が少なく、適しているともいえる時間帯。
なんのためにこんなところまで来ているかというと、それは、今までできなかったことをするため。
それがなんなんのかというと――――。
「はあぁああ……」
この狼をもふり倒すことだった。
両手でもふり、顔をその白く綺麗な毛並みの中央へと埋めて嗅覚と触覚、その全てを使って堪能したり、撫でて撫でて撫でまくったり、全身で掴みこんで逃がさないようにしていた。
何度も抱えたりしていて思ったけれど、やっぱりこの狼、無茶苦茶に毛並みがいい。ふわふわしていて、軽く跳ね返すようなその毛は、触っているだけでも時間を忘れさせてくれる。
狼というだけあって、少し硬いのが普通だとは思うけれど、そんなことはなく、むしろ犬よりも柔らかいのではないだろうか。犬、飼ったことないけど……。
「最高…………」
かなり嫌そうな顔をしながらも、しかし逃げることはない狼をがっしりと掴みながら、私はひたすらにもふってもふってそうして、時間が過ぎていく。
私が、こんなところにいる理由は、簡単。こんな姿を誰にも見られたくないからだ。どうやら、自分のお家を買うと、それ専用のスペースが作れるらしいけれど、私はそんなものを持っていない。だけど、もっとしっかりと撫でまわしたい。そう思った私は、あまり人の居ない草原の端っこまで来ていたのだ。
動物は飼ったことはないけれど、動画などでよく見る程度には好きだった。
もふもふな毛並み、丸い目、小さなその体躯、どこを取っても可愛いばかりで、常に私を魅了する。私はその魅了に抗うことなんてできず、ずっと動物が飼いたいと思っていた。
けれど、そう簡単にはいかない。飼うのは大変なことだし、犬なんだとしたら、外に出ないといけない。そうじゃなくても、お金の面でも、そこまで余裕があるわけがない。
だから、私はひたすらその欲求を我慢し続けていた。そんななか、このゲームではこの狼に触れるのだ、そりゃ、偶にはこうして羽目を外してしまうのも止むない。
「狼……いいよね……狼……」
誰に言うでもなく、そんなことを呟く。
従魔師を選んだのは大正解だった。色んなモンスターがいることは知っていたけど、初っ端から狼が手に入るんだから。
でも、だからこそ……。
「名前……どうしようかな……」
春兎さんから受け取った一つのアイテムを思い出しながら、私はそんなことを考える。
この世界での私のパートナーであり、何なら、初めてのペットでもある。そんな狼の名前を考えるのを悩まないはずがなかった。
子供がいるわけではないから、名前を考えることはそうないため、正直どんな名前にしたらいいのか、なんていうのは、私にはまるで分からなかった。
一応、うちの子と呼ばれるキャラクターを書くことがあって、それで一人だけ名前を付けたことがあったけれど、その程度だ。
まだ、現時点で名前を付けることができるわけではないけれど、今のうちに決めておきたい。何か、良い名前ないかなぁ……。
「……どんな名前なら、喜んでくれる?」
返答が返ってくるはずもない。そんなわかり切ったことを、頭を撫でながら私は尋ねていた。
それでも、この子が喜んでくれる、そんな名前を付けてあげたいとそう思ったから。
「わかんないよね……」
当然だろうと私が苦笑いを溢すと、狼の表情が少し変わったように感じた。
どうやら触られるのは、そんな好きではない様子で、ひたすらに嫌がっていたその表情は、不貞腐れながらも、嬉しそうにしている。
もちろん、そんなはずないし、私に動物の表情がわかるのかと言われても、ノーだ。
そんなことは私自身分かっていたけれど、何故か、私はそんな風に感じたのだ。
自分勝手なことは分かっているし、それが独りよがりなのかもしれないけれど、私は――――。
「そっか……」
それが嬉しく感じた。
結局、私は名前を思い付くことはなく、ただ、広大な緑がで埋め尽くされたその平野で、私は狼と二人、呑気に林檎を齧っていた。
この世界での食事で最も多く、調理スキルを使うことができない私にとって、食べ慣れたそれは、しかし、飽きることはなく、とっても美味しかった。
狼も、この林檎を気に入ってくれたようで、両の足で、がっしりと掴みながら美味しそうにそれを頬張る。なんとも可愛く、私はそれを見てまた癒されていた。
後日、特に何をするでもなく、ひたすらのんびりしてる変な人がいると、少し噂になったことを、私は知らなかった。