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白テイマーさんと取引

投稿間隔が少し空いてしまい申し訳ありません。

誤字報告や感想などとても励みになります。ありがとうございます。

今朝、レビューも頂けました。本当に感謝です。

また、投稿間隔を戻していけたらなと思いますのでよろしくお願いします。


 机の上に残ったのは、空のカップ。

 出されたものをゆっくりと時間をかけて味わい、心ゆくまで満喫した私は感嘆の息をついていた。


「とてもおいしかった……ありがとう……」


「そこまで幸せそうな顔をされると、作った者としては嬉しいね。こちらこそありがとう」


 幸せそうな顔と言われ、私は一瞬でどんな顔をしていたのか想像して顔を朱に染める。

 少し痛いと感じるくらいに緩んだ頬を引っ張ると、なんとか平静を装おうとする。


「き、気のせいでは……?」


「ほんとうにしらゆきさん、面白いよね」


 しかし意味はなかったようで、目の前の優雅に椅子に座っていた春兎さんはぷるぷると震えながら笑っていた。

 うぅ……。


「そんなこと、は……ないかと……それより、その、要件は……」


「はいはい、わかってるよ今持ってくるから待ってて」


 春兎さんはアイテムとして持ってるわけではなく、何度も奥に物を取りに行っていた。

 つまり、もしかしたらこの店にも収納できる倉庫のようなものが付いているのかもしれない。あくまで予想だけど……。

 もしそうなんだとしたら、私もお店、欲しいなぁ。

 しばらく、椅子の上でちょこんと座って待っていると、奥から物を持ってやってくる。


「お待たせ、これが言ってた品だよ」


 そうして渡されたのは……えっこれなに。

 なにやら細長い布? にしては少ししっかりした材質だし……。木製ってわけでもなさそう。でも、別に硬くはないし……。


「これ、なに……?」


「見ただけじゃ分からないよね。確かさ、しらゆきさん鑑定スキルあったよね」


「えっ、まぁ……」


 あるけど、あれ使ってないから育ってないよ……?

 何に使えばいいのかわからなかったし……。


「じゃあ、試しに使ってみるといいよ。それ難易度は高くないからさ」


「はぁ……」


 正直、できる気はしなかったけれど、とりあえず言われた通りにしてみる。

 たしか鑑定の使いかたは使いたいものに焦点を合わせて――。


「……鑑定」


 私がそう告げると、一瞬、その物に光が集まったかと思うと霧散しそしてメニューが表示されていた。

 見てみると、そこには『名札』と書かれていた。


「成功、でいいのかな……?」


「エフェクト的にも成功だよ。やったね一発成功とは運がいい」


 あれ、さっき簡単だって言ってなかったっけ……。と思ったものの、言わないで、私はそこに記載されているものを読んでいく。


「従魔師、召喚士、専用のアイテム……。仲間にした、モンスター……に、名前を、付けることが……できる?」


「そっいいでしょ。この間行った迷宮ダンジョンボスのレアドロだったんだ」


 名前を付けることができる。それは、つまり今まで狼と呼んでいたこの子に、私だけの名前を付けて可愛がることができるということ。

 つまり……。


「こ、これ……いくらで、譲って……くれる?」


 私からしたら、喉から手が出るほどに欲しい代物だった。

 もちろん勝手に名前を付ければそれでいいんだけど、ゲーム的にも認められるっていうのはそこそこ大事だと思う。

 ただ、問題は……。


「ん、本来の価格で言うとどうだろう。数万ジュエルくらい行くんじゃないかな」


 私にお金がないということだった。

 ……なんてこった。私は途方に暮れるしかないのか。


「……数……万」


 今の私の所持金を何倍したら足りる? そりゃ足りるはずないよね……。知ってたけど。


「まぁ、まぁそんな凹まないで、元からそんなお金持ってないだろうことはわかってたから。勿論、安くするよ」


「……本当?」


「本当だから、そんな顔を近づけないで、惚れちゃうよ?」


 私はすぐさま顔をひっこめる。


「ん、まぁ条件付きだけど、どう?」


「……やる」


「聞かなくていいの?」


 気が付いたらそう答えていた。


「大丈夫……だと思うけど?」


「本当に?」


「やっぱり、内容だけ教えて……」


 相手が相手だし不安になってきた。春兎さんが優しいのは十分にわかっているけど、なぜだかそう思う。


「うん、じゃあ簡単に説明しちゃおう。俺の着せ替え人形になって?」


「帰る……」


 扉まで一直線に歩いて出ようとすると、慌てた様子で春兎さんが前に立ちふさがる。


「もうちょっと寛いでいかない?」


「……退いてください」


「あの、急な敬語は刺さるので、やめていただきたい」


「何を仰っているのか、わかりませんね……? 早く、そこを……退いてください……」


「本当に辛いから……。ごめん許して。弁明の余地を……」


 変態死すべし慈悲はない。男というのは何にでも群がるのは知ってたけど、まさか私にその矛先が向くとは。

 まぁ、アバターの私が可愛いのは私も思った。実際かなり美化されてたし……。


「多分勘違いをしている、だから、弁明だけお願いだから聞いて!! その目を止めてっっ!!」


 必死になってそう言って立ちふさがりながらも、懇願を続ける。


「……で、弁明とは?」


 仕方がないので話だけは聞くことにする。これ以上変なことを言うようなら、関係を切ればいいだけなのだから。


「決して、断じてやましい気持ちはないから……。可愛い衣装を着せたいだけなんです。可愛い子には可愛い衣装をさせたいんです」


「……それは、やましい気持ちでは?」


 思ったことをそのまま口にする。いや、だってそうでしょう?


「そう言われると反論の余地はない……。でも本当に過激なのとか、そういうのではないから!!」


「それで、私が着るとでも……?」


「押したらいけないかなぁって……」


 舌を出しても可愛くはない。どこぞのキャラクターを彷彿とさせるだけだ。


「……はぁ。着るかどうかは……その服を、見てから決める。という条件でどう……?」


「すみません。いやほんと、無理なのは知ってたんだけど。でも、そんな装備でいるのが耐えられなくて……って、いいの!!??」


「……持ってくるものによっては……運営行きだと、思ってね……?」


 軽く脅しをかけるように言ったのだが、春兎さんの返答は即答でYESだった。悪い人じゃないのはわかるけど、かなりの変な人であるのは間違いない。

 ついでに暑い熱弁で可愛いものは正義という話を長々とされた。とても共感はできるけど、それはまた別のお話。

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