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一人連載会議

サイコキネシスから始まる恋物語~超能力で意中のあの子を落とすには~

作者: 白井直生

 超能力×ラブコメ!

 いろいろとやりたい放題ですが、最後までお付き合いいただければ嬉しいです。

 目覚まし時計が鳴る。

 じりじりじりじり、喧しく吠えるそれに意識を揺さぶられ、僕はぼんやり目を覚ます。

 バシバシとその辺を叩き、5回目でようやく当たりが出て時計のベルが止まる。


「ふあ……」


 僕はあくびをして、薄く開いただけの目をもう一回閉じた。


「じりじりじりじり」


 しかし、時計がまた僕の眠りを妨げる。

 もう一度時計を叩くが、それでもベルが鳴りやまない。

 というか――


「なんか、音が聞こえる方向がおかしくない……?」


 仕方なしに、僕は目を開けて音の方を見る。

 そこには――


「じりじりじりじり」


 歯を剥いてベルの音を出している、女の子が居た。


「いや、どうやってんのそれ!?」

「いや、ツッコむとこ他にもあるでしょ!?」



***************



「さて。オープニングとCMを挟んだところで」

「アニメ化を見据えたメタ発言やめろ」


 安心してほしい。この話がアニメ化することなどまず間違いなくあり得ない。


「やっぱりLiSAさんの曲はテンション上がるよねー」

「引っ張らないでよ! そして作者の趣味全開だよ! 怒られるよ!」


 初っ端から飛び道具を連発する彼女に、僕も全力でツッコまざるを得ない。


「もう、冗談通じないんだから。そんなんだから童貞なのよ」

「なっ……」


 なんてこと言うんだ。こんな、若くてかわいい女の子が童貞とか――


 とそこまで考えて、改めて目の前にいる女の子の様子をしげしげと眺める。

 短い金髪、きわどい衣装は真っ白で、頭に天使のわっかがついている。


「ちょっと、いやらしい目で見るのやめてくれる? これだから童貞は」

「見てないよ! っていうか、女の子が童貞とか連呼しないで!」

「はいはいチェリーボーイチェリーボーイ」

「意味変わってないよ!?」


 もう、やりたい放題だ。R15タグ入れなくて大丈夫かこれ。


 からかわれてツッコみそびれたが――なんだこの状況。

 僕の部屋に、女の子が居る。それも、可愛い――じゃなくて。

 どう見ても天使。いや、比喩じゃなく。


「えーっと……あなたは?」

「ようやくまともな質問ね。恋の天使、キューピッドですっ☆」

「いや、『ですっ☆』とか言われても……」


 少なくとも人外。いろんな意味で。っていうか、☆とか使われると声優さんが困るだろう。いや、アニメ化はしないけど。


「実は、キューピッドの卒業試験のために下界に降りてきたの」

「あ、勝手に説明始まった!」


 自称キューピッドはもう僕じゃない誰かに向けて語り始めていた。

 どこ向いてるんだ、カメラか、そうなのか?


「キューピッドの仕事は、人間に恋をさせて、子孫を繁栄させること。要は「わー!」させることね」


 油断も隙もあったもんじゃない。それは確実にR15ワードだ。言わせてたまるものか。


「基本的には天上界からちょっと確率とかをいじるくらいなんだけど……」

「サラッととんでもないことを聞いた気がする……」


 僕のツッコミを空気のように無視して説明を続けるキューピッド。なんというか、慣れを感じる。


「たまーに、それくらいじゃどう足掻いても結婚もお付き合いも全くできないダメ男がいるのよね。そう、それはキミ」

「だからサラッととんでもないこと言うのやめて!」


 なんてことだ。約束された敗北の男、僕。


「そういう訳で、キミみたいな人を誰かとくっつけてあげるっていうのが卒業試験の内容なのです!」

「あ、ありがとうございます!」


 理由はどうでもいい。とにかく、僕の恋を成就させてくれるらしい。

 ちなみにキューピッドの言う通り、僕はダメ男。女子とまともに話したことすらない。


「でも、どうやって?」


 そんな僕を、彼女はどうやってモテ男にしてくれるというのか。

 いや、そんなことは言っていないか。


 すると彼女はフフンと笑って告げた。


「キミを今日一日、超能力者にします」

「そんな無茶苦茶しないとダメなレベルですか、僕!?」


 彼女は、やっぱりサラッととんでもないことを言った。



*************



 その日の登校時、通学路。


 道端に落ちている小石に、意識を集中する。

 その小石が宙に浮き、猛スピードで飛んでいく様子をイメージする。

 そのイメージはすぐに現実に反映され――


「きゃあああ!」

「うわっ、なんだ!?」


 遠くにあった電柱に突き刺さり、派手な音を立てて砕け散った。


「やば……」


 大惨事だ。

 幸い怪我人は居ないようだが、あれが直接当たったら軽く死ねる。


「制限無さすぎでしょこの力……サイコキネシス、か」


 念じるだけで、物体を自由に動かす能力。

 恋を成就させるためと言いつつ、下手をすれば世界を滅ぼせそうな気がする。

 どう考えてもオーバースペックな力に、僕は慄く。


「バレたら一瞬で実験室送り……絶対バレないようにしないと」

「よーハジメ! 何今の?」


 オワタ。


「いやぁ、なんのこと?(裏声)」

「え? 今のやったのハジメだろ?」

「まさかのお見通し!?」


 そう言えば、ハジメは僕の名前だ。恋野こいのはじめ、それが僕の名前。

 そしてあっさりと僕の力を見破ってきたコイツは、幼馴染の大友おおとも達也たつや


「っていうか、こう、もっと驚きとかさあ! 無いの!? 明らかに超常現象!」

「超常現象を恐れるな、っていうのがウチのオヤジの口癖でさあ」

「にしても受け入れ早すぎでしょ……」


 前々から常識の通じないヤツだとは思っていたが、これほどとは。


「で、で? 何をどうやってんの? もう一回見してよ!」

「ぐいぐい来るなあ……ほら」


 彼のことはもう諦めて、そこらへんに転がっている石ころを軽く持ち上げる。


「いわゆる『サイコキネシス』ってヤツ。今日一日俺の好きにしていいらしい」

「今日一日? らしい?」


 適当に説明をすると達也は軽く首を傾げ、


「つまり、神様的な何かから、『今日一日だけその能力を授けるから、それを使って何かを成し遂げろ』的なことを言われた、みたいな?」

「飲み込み早いな! 助かるよ!」


 あまりにも的確な予想を立てる達也に、僕は捨て鉢にそう答えた。

 なんというかもう、彼のほうこそエスパーじゃなかろうか。


「かくかくしかじか……」

「ふーん。今日一日サイコキネシスが使えるから、それを使って好きな女の子をゲットしろと。キューピッドって居たんだな」

「今ので通じたの!? 上のセリフ、字面通りのことしか言ってないんだけど!?」


 やっぱりエスパーだ。


「で! ハジメが落としたいのって……やっぱりあの子?」

「そりゃあ……まあ……」


 仲のいい幼馴染、当然僕の思い人くらいは知っている。


「いやー、実際難しいと思うよ? 超能力があっても五分にもならないんじゃない?」

「う……それは分かってるけどさ……」


 ニヤニヤしながら喋る彼の言う通り、ハードルは相当高い。

 何しろ――


「お、噂をすれば――」


 達也の声で目を向けると、そこには。


 女子、女子、女子の集団。

 その姦しさの中心に居て、しかし誰よりも静かに、お淑やかに歩くその少女こそ――


「相変わらずすげーガードの数。流石『白雪姫』だな」


 ――そう、彼女こそ。


 学校一の、いやもう日本一、世界も狙えるのではと呼び声の高い美少女。

 お手本のような黒髪ロング、ぱっちりとした目に長いまつげ。雪のように白い肌には傷一つなく、花が咲いたような顔で笑う。


 通称、白雪姫。

 本名の真白ましろ雪乃ゆきのから取って、誰かセンスのいいヤツが付けたあだ名である。


「待ちな」


 突然、その集団に声がかかった。


「真白雪乃! お前に話がある!」


 そう声を響かせたのは、一人の男子生徒だ。

 ただし、僕らと別の学校の。


「あ、あれは――! 隣の学校一のイケメンと名高い3年生、いけ輝顔てるかお先輩!」

「わーすごい説明口調」


 わざわざそんなことを言わずとも、僕が地の文で説明できるのだけど。

 親切な達也のお蔭で説明する手間は省けたから良しとしよう。

 というか、その情報どこで仕入れてくるんだろう。


「なんでしょうか?」


 きゃあっと女子の壁が割れ、中から雪乃その人が姿を現す。


「ほう。噂以上に美しいな。お前――俺の女にならないか?」


 その言葉に、周囲がざわめく。


「あー」

「来るか……?」


 達也、そして僕は固唾を飲んで見守る。


 当然の如く、雪乃がこのように告白される事は掃いて捨てるほどある。

 もっとも、こんなに上からの告白は滅多に見れないが――それでも、隣の学校一のイケメンの告白だ。


 さて、一体どういう結果が出るか。


「あの……」

「なんだ?」


 雪乃が口を開くと、輝顔は期待を持ってその声に答える。

 そして――


「なんで、そんなに偉そうなんでしょうか……?」

「……は?」


 彼女の予想外の言葉に、彼は目を瞬く。

 だが、見ていた周囲の反応は『ああ、やっぱり』という感じだ。


「あの……こんなこと、言いたくはないんですが……」

「な、なんだ……?」


 戸惑う輝顔を他所に、周囲はもう期待の眼差しを雪乃に向けている。

 かくいう僕らも、そのうちの2人である。というか、さっきのセリフはいわゆる――


「確かに貴方は顔立ちは整っていますが……それ以外はまるで最悪ですよね」

「……は?」


 ――処刑開始宣言・・・・・・である。


「高圧的な態度、人の都合を気にしない言動。一応告白なら、ムードの一つも作る術を覚えてくださいね。それに、制服の着方がだらしない。それが格好いいと思ってるんですか? というか、『顔が良ければ全て許される』と思ってるその人間性が信じられません。小学校で人の気持ちを考える所から学び直してきた方がいいんじゃないでしょうか。後、喋り方がこの上なく気持ち悪いですね。現実世界にそんな喋り方をする人が居るなんて夢にも思いませんでした。言語能力に著しい障害を抱えている可能性があるので、一度脳外科か精神科を受診することを強くお勧めします。それとも、小児科の方がいいでしょうか? 中身が小学生から進歩していないように見えますので、丁度良いかもしれません。あとたぶん息が臭そう」


 上のセリフを一息で言い切ると、雪乃はお辞儀を一つ。


「そういう訳で、あなたとお付き合いはできません。考えただけで怖気が走りますね!」


 しっかりと断りの返事を入れつつ、顔を上げてにっこり笑顔で止めの一言。

 あまりの出来事に、輝顔は口をパクパクさせて何も言えない様子である。


「あれ、まだ何か? できれば私の半径30m以内に近付かないでいただきたいのですが。もう限りなく不愉快です」

「う、う、うわああああーー!」


 今まで受けたことがないであろう扱いに、輝顔は泣きながら走り去った。

 周囲からは、盛大な拍手が雪乃に送られる。


「出たー! 白雪姫の『毒りんご』!」


 達也が楽しそうにそうはしゃぐ。


 彼女が『白雪姫』と呼ばれるもう一つの理由。それが先ほど見せた毒舌、通称『毒りんご』。

 毒りんごは元々魔女が使うものだけど、この世界の白雪姫は毒りんごを食べた結果毒を吐けるようになったとかなんとか。


 まあ要するに、彼女にアプローチをかけた人間は、輝顔と同じように理路整然と自分の駄目なところを列挙され、心をへし折られて撃沈するということ。



 白雪姫の如き美貌に加え、文武両道才色兼備、立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花。それに、女子や下心を持たない男子に対してはちゃんと優しい。


 だが、一度下心を出せば――完膚なきまでに否定され、その毒で心を殺されてしまう。


 真白雪乃とは、そんな人物。

 ――そして、僕の思い人その人である。


「お前も身の程知らずだよなー。俺らみたいな底辺根暗男子がお近付きになれるわけないじゃん。毒でドロドロに溶かされて拾う骨すら残らないでしょ」

「うるせ、やってみなきゃわかんないだろ」


 そんな言葉を垂れつつ、内心自分でもあり得ないことだと思っている。

 だが――今の僕には、キューピッドが、そしてサイコキネシスが付いているのだ。


「サイコキネシスが使えるのは、今日一日。上手く使わないと……」

「サイコキネシスねえ。鉄板で言えば、危ない状況を作って華麗に助ける、とか?」


 何故か空から降ってくる植木鉢に代表される、いわゆる自作自演、マッチポンプ形式だ。


「命の危機に颯爽と現れる王子様――いわゆる、吊り橋効果も期待できる」

「そうそう」


 危険や恐怖から来るドキドキを、恋と勘違いさせるこれまた鉄板の手法。

 それで本当に恋に落ちてしまうというのは噂にはよく聞くが――


「それは絶対にやらない」

「なんで!?」


 僕としては、その選択肢は最初から除外していた。


「確かに吊り橋効果は鉄板だ。心理学的見地から言っても効果はあると思う。でも――こんな噂を聞いたことはないか?」

「う、噂……?」


 ゴゴゴゴ、なんて効果音が出ていそうな真剣な表情で、僕たちは会話を続ける。


「そう――吊り橋効果で付き合ったカップルは、すぐに別れる傾向にあると……!」

「……! 言われてみれば、聞いたことが……!」


 吊り橋効果は、突き詰めれば『ただの勘違い』なのだ。

 勘違いが終わってしまえば、そこに残るのは疑問だけ。『何故こんな人をいいと思ったんだろう』、と。


「いやでも、きっかけとして、でしょ。そんな贅沢言ってる場合か?」

「でも……嫌だ! 付き合うなら、結婚を前提に……」

「愛が重いな!」


 なんだか、キューピッドがまたも『これだから童貞は!』とか言っている気がしなくもないが、それはそれ。

 とにかく、吊り橋効果には頼らないと僕は決めているのだ。


「まあいいや。で、じゃあどうすんだよ」

「それは……考え中……」


 実際、何も浮かんでいないというのが正直なところだ。

 吊り橋効果にならず、しかし僕を彼女に意識させる。それも自然に。


 そんな方法がすぐ浮かんでくるようなら、おそらくキューピッドの厄介にはなっていないだろう。


「ま、頑張れよ。一応友達として応援してるからさ」

「サンキュ……ついでにいいアイデア出してくれると助かるけど」

「それは知らない」


 薄情な友達だ。



************



 そんなこんなで登校し、1限目。国語の授業である。

 今にも死にそうなおじいちゃん先生が、ぼそぼそとしゃべり続ける退屈な授業だ。

 退屈な授業だが、何かを考えるにはもってこい。この時間は、作戦を立てるのに費やそう。


 ――とはいえ、どうしたものか。


 まず、状況を整理しよう。

 僕の名前は恋野一、好きな人は真白雪乃。彼女は学園一の美少女。かわいい。


 彼女は基本的には優しいのだが、告白すると百発百中で断られ、しかも静かで激しい毒舌により心をへし折られる。

 つまり、告白は一発勝負。心を折られた僕は、きっと二度と立ち直れないだろうし。


 そして今僕は、超能力が使える。物体を念じるだけで自由に動かせる、サイコキネシスだ。

 朝、そして登校時に試した限り、この力にはほぼ制限が無い。

 目に見えている物体なら、たとえどんな重くても動かせるし、ものすごいスピードで動かすことも可能だ。


 ちなみに、一度に一つの物しか動かせないなどの制限も無い。見えてさえいれば、同時に複数の物を動かすことも可能。


 ――これらを踏まえたうえで、彼女に僕を自然に意識させる方法を考える。


 っていうか、そもそも自然に意識するってどういうことだ。どういう状況で、女の子は男の子を意識する?


 思わずスマホをこっそり取り出し、『女の子 意識させる』でググる。


 トップには『社会人向け』とか書かれてるのでスルー。

 2番目に出てきたのは『女友達を彼女にするには?』だったのでこれもスルー。まず友達ですらない。

 3番目にようやくそれらしいのが出てきた。


 なになに。『あなたはいつもいいひと止まりで終わってしまうのではないでしょうか』。

 うんダメ、次。


 その後もしばらくいろいろと見ていた。

 結論として――


 ――まず、友達になるところからでは!?


 と、その道のりの長さを理解しただけだった。



 いや、それでへこたれてはいられない。ならば友達になるまでのこと。

 そんな訳で、教えてグーグル先生。『友達 作り方』で検索。


 えーっと。『とにかく声をかけろ』『類は友を呼ぶ』『笑顔で』。


 ――無理だ。


 そもそも、彼女に話しかける勇気すら無い。というか、彼女は普段女子集団に囲まれていて、それは僕からすればもう鉄壁のガード。

 話しかけることができなければ、仮に同じような趣味を持っていたとしても意味がない。

 向こうから声を掛けてくれることはあり得ないので、こちらから声を掛けなければそれが発覚することも無い。


 ――つまり。


 話しかけるきっかけを、超能力で作り出す!

 これしかない!


 と、そこまで考えた段階で1限目が終了した。



**************



 続いて2限目。数学の授業である。

 目の死んだおっさん先生が、ぼそぼそとしゃべり続ける退屈な授業で以下略。


 1限の作戦タイムは、思いの外難航し延長戦に突入。

 とは言え方針も決まったことだし、この授業は具体的なプランを練る時間に充てる。


 ――さて。話しかけるきっかけだ。


 もちろん、彼女と言葉を交わしたことは今まで一度も無い。

 いや、正確には一度だけあるけど。


 ただそれは彼女が奇跡的に話しかけてくれただけで、それは高校一年生の一生忘れられない思い出だ。

 あ、ちなみに今は一年生の8月で、話しかけられたのは4月。


 そしてそれからは、彼女から話しかけられることも、当然僕から話しかけることもなく、今に至る。


 ――ん?

 何故、そんなに関わりのない子を好きになったのかって?

 顔が良ければ何でもいいのか?


 いや、そんなことはもちろんない。僕が彼女を好きになったのには、深い理由がある。

 そう、それは4月。忘れもしない、たった一回だけの、僕と彼女の思い出。



***************



「回想に入るかと思った? 残念、たつやくんでした!」

「ちょっと!? いきなりぶった切った上にネタを挟んでくるのやめてくんない!?」


 もう、本当にやりたい放題である。

 っていうかだから、心を当たり前のように読まないでほしい。


「だってハジメの片思いの理由なんて、ちょっと優しく話しかけられてコロッと惚れただけじゃん。そんなありきたりな物は飛ばすに限るでしょ」

「掻い摘んで言ったらその通りかもしれないけど摘まみすぎだよ! もうちょっとガッツリ掴んでよ!」


 恋愛ものにおいて、主人公の気持ちに共感できるかどうかは重要な部分だ。

 ヒロインを好きなる理由はその最たるもので、『このヒロインかわいい!』と思わせるための超重要な要素である。

 それをこんな蔑ろに、雑に扱っていいはずがない。


「え、何言ってんの? これラブコメだし、そこは割とどうでもいいよ」

「だからメタ発言やめろ」


 最初に始めたのは僕なんだけど、それは棚上げにしてとりあえず彼は止めておく必要がある。


 そんなことはどうでもいい。

 ちなみに今は2限後の休み時間。他の休み時間より少し長いので、大概の生徒はこの時間友達とくっちゃべっている。


 つまり、2限はもう終わってしまった。語られらなかった回想に浸っている間に。


「くそっ……これも全部達也のせいだ……!」

「わーすごい責任転嫁。幼馴染として悲しいぞー」


 とりあえず、予定が崩れた苛立ちを達也にぶつけておく。こういうとき、だいたい達也は軽く受け流すので問題ない。


「意味も無く八つ当たりされる可哀想な幼馴染、俺。そんな俺の頼みを一つ聞いてくれる気はないか、親友よ……!」


 しかし、この日はちょっといつもと違った。いじけた表情を作って、こちらを窺うように視線を送ってくる。


「なんだよ……こちとら作戦を立てるのに忙しいっていうのに……何?」


 お調子者で友達甲斐のないことをほいほい言うが、数少ない友人であることは間違いない。

 渋りながらも、僕は達也の望みを聞くことにした。


「ああ。それはな……」


 深刻な顔で溜めを作る達也に、僕は思わず唾をゴクリと飲み込む。

 果たして、達也は口を開いた。


「パンツを……脱がせてくれないか……?」

「………………は?」


 僕は、戦慄した。

 『誰の』という問を安易に口にしようとして、ハッとしてそれを飲み込む。

 パンツを脱がす。もしそれが自分のパンツを脱がせろという意味なら、僕は今後彼との向き合い方を考えなければならない。


「あ、間違えた!」


 しかし達也は、不意にそう声を上げると咳払いを一つ。


「……スカートを……めくってくれないか?」

「どちらにせよ最低だよ! 溜めまでやり直すな鬱陶しい!」


 取りも直さず最低だった。

 というか、前者が真の願望なんじゃないかと思う。『誰の』は、もちろん『誰か女の子の』だろう。つまり、『ギャルのパンティーおくれ』。

 どこの豚だ、お前。


「いや、でもサイコキネシスよ? 俺ら男子高校生よ? それをやらずして何をやるんだよ……!」

「そんな決意に満ちた表情で言われても……」


 そんなこと、ヘタレの僕にできる訳が無い。バレたらどうなるか、考えただけで身の毛がよだつ。

 少なくとも、変態のレッテルを貼られたまま孤独な学生生活を送ることになるだろう。今もほぼ孤独だけど。


「えー。でもさ、実際お前も見たくないの? 白雪姫様のパ・ン・ツ」


 言われた瞬間頭が勝手に想像力を発揮し、僕は頭のてっぺんまで沸騰する。


「いや、それは……! そ、そんな卑怯な事できる訳ないだろ!」

「童貞」「チキン」「むっつりスケベー」

「一人三役で罵倒するのやめてくれる!?」


 無駄に声色を変えつつ三面六臂、その芸の細かさを他に生かしてくれたらいいのにと心底思う。


 そうして下らない話をしているうちに、休み時間も終わってしまった。



****************



 3限目。英語の授業である。

 行き遅れたおばさん先生が以下略。

 改めて、この時間を具体的なプランを練る時間に充てる。


 ――さて。話しかけるきっかけだ。


 例えば、落し物を拾ってあげる、とか。

 超能力で彼女の持ち物を少し動かし、僕の居る所まで転がす。そして僕はそれを拾い、「落としたよ」と爽やかな笑顔で彼女に渡す。


 ……まあ、爽やかな笑顔ができるかは置いといて。それだけなら、僕にでもできる気がする。

 ただ問題があるとすれば、僕と彼女の席が離れているということ。

 僕の席は教室の窓際、後ろから二番目。ちなみに隣は達也。色気がねえ。

 対して彼女の席は、列で言えば隣だが前から二番目。落し物が転がるにしてはちょっと遠すぎる。


 だが――チャンスはあるのではないか?


 授業中には、『前に出て黒板に答を書く』というイベントが発生することがある。

 お誂え向きにこの授業は、例のおばさん教師が割と頻繁に生徒を指名し、黒板に答を書く男子生徒を舐めるように眺めるという傾向がある。

 その視線にさえ耐え抜けば、それ即ち彼女に近付くチャンスだ。


 戻り際に消しゴムか何かを落とし、偶然通りかかった僕がそれを拾う。完璧な作戦ではないだろうか!



 ――いや、ちょっと待て僕。

 目的と手段を取り違えてないか?


 元々の目的は、彼女とお近付きになること。最終目標は彼女のハートを射止めることだが――それは余りにも遠すぎるので一旦忘れよう。

 ひとまず――最低でも、今日というチャンスで友達にはなっておきたい。友達一歩手前でもギリ可。


 声を掛けるのは、そのための第一歩だ。それは手段であり、目的ではない。


 この作戦を使えば、確かに僕でも自然に声を掛けることはできると思う。

 だが、今は授業中。声を掛けても、そのまま喋ることはできない。


 ――なんてことだ。この作戦にこんな致命的な欠陥があっただなんて!


 じゃあ、どうしたらいい?

 その考えでいくと、授業中に何をしてもダメ、ということになる。しかしだからと言って、休み時間中はもっと論外なのだ。

 何故なら、彼女は休み時間の度に鉄壁のガードに囲まれてしまう。

 あの女子の塊に突貫して行けるなら、キューピッドのお世話に以下略。



 ということは……選択肢は2つ。


 授業中に話せるシチュエーションを作るか、休み時間にガードを引き剥がして2人きりになるか、だ。普段なら考えられない2択だが、今の僕にはサイコキネシスがある。


 前者なら、例の消しゴム作戦のときにちょっとしたトラブルを起こし、授業を中断させればいい。

 しかも――そのトラブルについてコメントでもすれば、ちょっとした会話も成り立つのでは!?


 授業を中断させるようなトラブルとなると、なんだろう。窓ガラスを割ってみる、とか?

 いきなりそんなことが起これば、当然授業は中断になるだろう。『びっくりしたねー』なんて声も掛けられるかもしれない。



 いい、いいぞ! 今日の僕は冴えてる! さらに『怪我してない?』などと心配してあげれば好感度アップまで狙えるぞ!? あれ、何だこれ完璧。


 とそこまで考えて――ふと気付く。ちょっと待て、と。

 ガラスがいきなり割れたら、びっくりする。『怪我してない?』と訊ける場面ということは、怪我をする可能性がある、ということだ。


 ――それは、吊り橋効果になってしまうのではないだろうか。

 それはダメだ。吊り橋効果には頼らないと決めたのだから、そこは絶対に守りたい。


 じゃあ、吊り橋効果を起こさず、なおかつ授業を中断させるトラブルを考えなければならない。

 危険じゃないのに授業が中断するなんて、そんなことあるのだろうか。

 いや、考えるんだ。それが明日の僕の笑顔に繋がっている――



「じゃあ次の問題の答を……恋野くん、黒板に書いてちょうだい」


 しかし神は――いや。クソババアは、考える時間を与えてはくれなかった。

 突然名前を呼ばれたことで思考の海から引っ張り出され、心臓がよく分からない方向へ跳ね上がる。

 背中には冷や汗がダラダラ、フル回転していた脳みそが熱くて耳から湯気が出ている気分。


「恋野くん?」

「――はい」


 もう一度名前を呼ばれ、僕は仕方がなく返事をして立ち上がる。

 ゆっくりと動きながら、頭の中はフル回転で取るべき行動を考え続けている。


 流石に、一度の授業で2度指名されることはまずない。つまり、何か行動を起こすならこれが最初で最後のチャンスだ。

 怪しまれないギリギリの範囲のスローな動き。これが噂に聞く牛歩戦術か! なるほど、やりたくなる気持ちも分かる。


 しかしそんな抵抗も空しく、何も考え付かないまま黒板へと辿り着いてしまう。

 授業の問題に対してはその場で考えて解答を書き始める。間違ってても知るもんか。


 ――くそ、何かないのか!? 授業を中断させつつ、彼女には恐怖を与えず、そして僕の話すきっかけになる、そんな都合のいいトラブルは。

 回れ僕の頭、唸れ僕の魂。今この瞬間、僕に人生最高の閃きをもたらしたまえ――!



 思い付かなかった。



 何もできないまま席に戻った僕は、盛大に机に突っ伏した。



************



 何もできないまま迎えた4限目。しかも都合の悪いことに――体育だ。

 元々好きではないけど、今日に限って言えばもう本当にやめてほしい。


 まず第一に、やるのが水泳である。高校一年生、当然男女は別。暗黙の了解で男女が口を利くのが許されない時間だ。

 第二に、僕は泳ぐのが苦手だ。故に、何か考え事をしながらだと溺れる。


 そして最後の一つ。


「頼む、ハジメ。一生のお願い。頼む……!」


 コイツだ。


「頼むよ……なんとかそこのドアを開けてくれないか! もしくは外に回ってカーテンを開けてくれるでもいい! あ、それか俺を浮かせて上から覗けるように……」

「そのまま天井に突き刺すよ?」


 なんとか女子の着替えを覗こうとする男、達也だ。僕が断る代わりに放った脅し文句に、「いや、そのまま屋根裏を伝ったら上から覗けるんじゃ……!?」とか言ってる救いようのない変態である。

 いっそ、本当に天井に突き刺して放置してやろうか。


「もういい加減にしてよ、こっちはそれどこじゃないんだよ! 全然いいアイデア浮かばないし!」

「いやー、そうは言っても、ハジメ。折角手に入れた超能力だぜ? エロいことに使わずして、男子高校生を名乗れるかってんだよ……!」


 真剣に悩んでいる親友に向かって言うことがそれか――と失望しながらも、その徹底ぶりには呆れるやら感心するやら。


「はあ……世界中がお前みたいなヤツばっかなら、戦争とか起きないんだろうな」


 たぶん戦争は起きない。でも世界も回らないだろう。


「いやー、それほどでも」

「褒めてないから」


 とぼけた返事を寄越す彼を見て、僕も少し肩の力が抜ける。

 焦っても良いことは無い。体育の時間に何も思い付かなくとも、昼休みもあれば5限目もある。

 この後の予定は、体育、昼休みを挟んで5限が理科の実験、6限は社会だ。


 社会なら、さっき考えかけていた作戦をまとめられれば実行できる。それまでに考え付けば問題ないのだ。


「ほら達也、早く行かないと遅刻するよ」


 気持ちを切り替えて、僕はプールに向けて歩き出す。身体を動かせば、何か良いアイデアも浮かぶかもしれないし。


「……やっぱり、ちょっとだけドア、開けていかない?」


 僕は黙って達也の手を操り、セルフでツッコミを入れさせた。



****************



 4限をなんとか溺れずに乗り切り、続く昼休みは達也と相談しながら時間が過ぎた。

 と言っても、達也は僕が話すのに相槌を打つだけだったけど。それでも、人に話すと多少すっきりしてくるものらしい。


 5限、理科。実験室。

 ここで、勝負をかける――!


「じゃあ、各班薬品取りに来てー」


 やる気の無さそうな若い男性教師が、適当に呼び掛ける。各班のうち数人が前に出て、薬品をテーブルへと持ち帰ってきた。

 ちなみにこの班、案の定というか、僕と彼女は別の班だ。

 しかし、テーブルは隣。実験という、ちょっと話しやすい環境。そしてサイコキネシスを使えば。


 僕と彼女が言葉を交わすことが可能になる。


「ん……開かないですね」


 彼女のその言葉を聞いて、僕は密かにニヤリと笑う。


「ん〜〜! ……固い……」


 彼女は、薬品の瓶を開けようと苦戦していた。しかし、その瓶が開くことは絶対にない。

 何故なら、僕がサイコキネシスで蓋を固定しているから!


 この作戦は、お昼休みに思い付いたものだ。ペットボトルの蓋を開けようとしたときに。

 試しに蓋だけ見えない状態でサイコキネシスを使ったら、それでも蓋を開けられたのだ。

 どうやらペットボトルという一つの物としてしっかり認識できていれば、細かいパーツは見えなくても想像で動かせるらしい。


 という訳で。

 作戦の第一段階は順調だ。まず、彼女の班の瓶の蓋を開かなくする。


「えー? ちょっと貸してみてよ」


 隣でそれを見ていた彼女の班の男子が、にやけ面を隠しきれずにそう話しかけている。

 第二段階も順調。いいところを見せようとした男子の鼻っ柱を折る。


「ふんぬぬぬっ……なんだこれ、マジかってえ!」


 ふふん、僕のサイコキネシスに勝てるわけないだろう。

 そしていよいよ第三段階。ここで颯爽と登場する僕。「ちょっと僕もやってみていい?」と話しかけ、軽々と開けて見せるのだ。


「あの……「なんだ、情けないなあ三宅! 俺に貸してみろ!」


 と思ったら、なんか邪魔が入った。

 反対隣りの班から、力自慢の男子生徒が割り込んできたのだ。


 ――くそ。まあいい、僕の勇姿の糧になれ。


 そんなことを思いながら、サイコキネシスで蓋をしっかり固定する。


「ふんんぬるぅあばあああ!」


 うん、うるさい。

 顔を真っ赤にしながら、万力を込める男子生徒。しかし、サイコキネシスは人間の腕力で太刀打ちできるようなものじゃない。


「むぅあだまだあー!」


 本当にうるさい。

 更に力を込める彼に、僕は呆れた視線を送っていた。


 だが――彼の力を舐めていたようだ。


「……ん?」


 ふと違和感を感じて瓶をよく見ると――あれ、ヒビが入ってない?


「だっっっるあああああ!」


 最後の力を振り絞った盛大な掛け声とともに。

 薬品の入った瓶が思いっきり割れて、辺りに薬品が飛び散った。


 開けた本人や、その前にトライしていた男子生徒に薬品が襲いかかる。そして――彼女も、薬品がかかる位置に居る。


 咄嗟に僕は、サイコキネシスを発動した。

 飛び散る薬品の一滴、瓶の一欠けらまで凝視し、その全てをコントロールする。脳が焼け付くかと思うような驚異的な集中力。これが火事場の馬鹿力というやつか。


 そして、コントロールされたそれらは彼女に一切触れることなく、床やら机やらうるさい男子生徒やらにかかった。ちょっと不自然な動きをしたかもしれないが、咄嗟のことだしバレはしないだろう。


「何やってんだ剛田ぁ! おい、ちょっとでも薬品かかった奴は流水で速攻洗い流せ! 指とか取れても知らんぞ!」

「は、はいいい! すいません!」


 低血圧に見ていた教師が瞬時に覚醒、怒鳴り散らすと共に的確な指示を飛ばした。意外にしっかりしてるんだなあ。


「ひゅー。間一髪だったな。っていうかハジメ、普通に今凄いことしたんじゃね?」

「必死だっただけだよ……あの馬鹿力野郎、瓶割るか普通……」


 一部始終を見守っていた達也が、小声で僕にそう話しかけてくる。僕もヒソヒソ声で、安堵と愚痴の声を漏らす。


「っていうか今、ハジメってば正に白雪姫の危機を救ったわけじゃん? 名乗り出たらいいんじゃない?」

「超能力で助けましたって? そんなこと言ったら、馬鹿にされるかドン引きされるかあの先生に実験台にされるか、もしくはその全てだよ」


 結構な大騒ぎになったそれを傍観しながら、達也は少し楽しそうに喋る。だが、僕はとてもそんな気分になれなかった。

 達也と違って、普通の人はそんなこと信じないだろうというのもそうだが、


「結局僕のせいだし。ホント、雪乃ちゃんに怪我がなくて良かったよ……」


 元はと言えば、僕が考えた作戦のせいだ。そのせいで被害を受けた剛田にも、多少申し訳ないとは思う。多少だけど。


「……ま、お前がそれでいいならいいんだけどね」


 少ししてから、思い出したように達也はそう言った。



******************



 6限目、社会の授業――本日最後の授業である。

 結局、あの後は騒ぎのせいもあって碌に何も考えられなかった。つまりノープランだ。

 何もできないまま、今日という二度と訪れないであろうチャンスが過ぎていく。


 ――ああ、本当に僕はダメなヤツなんだなあ。


 そんなことを思いながら、黙って授業を受ける。キューピッドや達也には申し訳ないが、僕はこの程度の男らしかった。


 ただ、それでも最後に、何かできるとすれば。


「じゃあ、この部分――恋野、前出てやってみろ」

「はい」


 僕は黒板まで歩き、正しい答を書く。先生が満足げに頷いたのを確認すると、チョークを置いて席へと戻る。


 ――その、道すがら。


「あ……」


 思わず漏れたであろう声。声の主の視線は、机から転がり落ちた消しゴムを追って。

 足元に転がってきたそれを、僕は屈んで拾い上げた。


「あ、あの……これ」


 その一言、一動作をするのに、心臓はどくどくと脈打ち、喉はカラカラになる。

 思い描いた動作や言葉とかけ離れた、情けない状態で、それでも。


 僕は、初めて自分から、彼女に声を掛けることができたのだった。


「……ありがとうございます」


 受け取って一言、それだけ。それ以上は言葉を交わす意味も理由も無い。



 ただ――言葉と共に向けられた笑顔は、僕をクラッとさせるには十分だった。



***********



「って……ふざっけんなあああ!!!!」

「あばしりっ!?」


 渾身の右ストレートが、僕の顔面を撃ち抜いた。その拳は、僕をクラッとさせるには十分だった。


「な、何するんですか!」


 僕はよろめいて倒れ込みながら、その攻撃を放った相手――キューピッドに文句を垂れる。


「黙らっしゃい! 一日あって成果がそれだけってどーゆーことよ! 超能力よ超能力! 信じらんない!」


 そう言われてはぐうの音も出ない。今朝の僕にも言ってやりたい。『本当にそれくらいやらないとダメな男だよ、俺って』、と。実際もっとひどい状況なんだけど。


「まあでも、雪乃ちゃんの笑顔が見れただけで満足というか……。本当にありがとうございました」


 といっても僕はもう今日のことに納得していたので、素直に感じたことをキューピッドに伝えた。

 正直、本当にもう今日は、幸せな気分ですらあるのだ。


「うるさい。アンタがどう思ってるかなんてコレっっっぽっちも関係無いの。アンタがあの子とくっついてくれないと、私が卒業できないのよ!」


 きーっ、という声が聞こえてきそうなアクションと共に、キューピッドは思い切り喚き散らす。そう言えばそんな話だったな、と他人事のように思い出す。というか他人事だ。


「こうなったら仕方がない。明日もアンタを超能力者にしてあげるから、絶対に明日中に、最低でも連絡先を交換すること!」

「えええ!? っていうか、超能力者になれるのは一日だけだったんじゃ?」


 またもとんでもないことをサラッと言うキューピッド。


「出し惜しみしてる場合じゃ無いもの。一つの能力は一日しか使えないけど、別の能力ならあげられるから。ていうか、分かったら返事!」

「は、はい!」


 勢いに圧されるままに、僕は返事をしてしまう。



 ちなみに、次の能力はテレポーテーションだそうだ。


――――END――――

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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