黒い滲を
黒い滲
かいだんを いそいで かけおりた。今にもおしっこが もれそうだった。まんがのつづきが気になって、あと少し、あともう少しって、ギリギリまで 読んでいたからだ。
お母さんが でんわで話している。いつものことだ。泣いているみたいだ。それも、よくあることだ。
「まさか、そんなことがみぢかであるなんて、信じられないわ……」
そんな声が 聞こえた。
お母さんは、まえは かんごしだったみたい。友だちも かんごしが多くて、こんなふうに、でんわで 泣いているのはよくあることだ。人が死んで泣くのはわかる。かっていた犬が 死んじゃったとき、とってもかなしかったから。だけど、赤ちゃんが生まれてきて なくのは、よくわからないな。
トイレをおわってリビングに行くと、お母さんは、ちょうどでんわを切ったところだった。ソルもかいだんを おりてきて、
「ゲームしようよ」
といった。
ぼくはゲームきをつないで、テレビのスイッチを入れた。いつもと同じ ばんぐみなのに、いつもとちがう。なにかたいへんな じけんが おこってニュースをやっているみたいだった。
『これまでにふたりの幼児が殺されています。遺体はバラバラで、公園やゴミ捨て場に捨てられていました』
「あっ、ここ ちゅうおうこうえんだ!」
ぼくの出した声に、ソルも がめんを見つめた。
「ほんとだ!」
よくあそぶこうえんではないけれど、お母さんの買いものにいっしょに行って、まっているあいだ、あそんでいることがある。
お母さんが、言った。
「小さい子どもが ねらわれているのよ」
ぼくは、お母さんを見た。とてもかなしい目をしているようなかんじがした。
「あなたたち、はんにんがつかまるまで、ぜったいに外に出ちゃだめよ」
「こわいね」
ソルが手をグーにして、おびえる。
「わかったよ」
ぼくは、ゲームのスイッチをおした。
ソルにひっさつわざを出されて、ぼくのそうさするキャラクターが死んだ。
「もう一回」
つぎはまけない。リプレイおせば、何回だってふっかつできるんだ。