副業:アイドルの魔法少女⑩
「ふー……」
居室スペースにある応接セット。向かい合っている二人掛けソファの内、腰かけているディアナの正面に座る。
「お顔が優れませんね。やはり、先ほどのアイリス様のお話ですか?」
「あー、うん。風呂に入りながら考えてみたんだけど、どうしたもんかね……」
大急ぎで女性の使用人さんを連れて客間に戻り、ディアナが風呂を済ませる前に彼女の服を用意して貰った。丁度上がるところだったらしく、使用人さんと共に居室側に戻ってきたディアナと入れ違いに浴室に向かった俺は、湯に浸かりながらぼーっと天井を仰いでいた。
頭の中では、今日一日の出来事と、先ほどのアイリスの提案が行ったり来たり。
考えがまとまらず、もはや無心とも言える状態で石鹸を泡立て、体や頭を洗っていると、あっという間に風呂での用を済ませてしまった。
ディアナの着ているものに似た意匠の寝間着に袖を通し、ようやく一息ついた今でさえ、頭の中はこんがらがったままだ。
「ああ、そうだ。さっきはありがとうな。俺の代わりにアイリスに話をつけてくれて」
そう、先ほどディアナは、金髪の少女の発言に窮してしまった俺に代わり、その場を納めてくれたんだった。
彼女の言葉が無ければ、俺は答えを出せずその場に立ち尽くすばかりだっただろう。
頼もしい相棒に感謝を告げると、少女は微笑を浮かべて小さくかぶりを振った。
「いいえ、マスター。お礼を申し上げるのは私の方です」
「? どうして?」
「マスターが、港でお話ししたことを、心に留め置いて頂けているとわかったのですから」
そう言い、彼女にしては珍しく、はっきりと嬉しそうな表情を作るディアナ。
……えっ、分かったの? 俺がアイリスに返事できなかったのが、ディアナのためだって。
恥っずいんですけど。
口元に笑みを湛えたままの相棒に対してばつの悪い気持ちになり、そっぽを向く俺。
……顔、あっつい。風呂上がりだからかな! そうだな、うん! 耳まで熱いけどきっとそうだよな!
先ほどまでしっちゃかめっちゃかだった思考はどこへやら、今は気恥ずかしさ一色で悶々とする俺。
その気持ちを払拭すべく、そっぽを向いたまま相棒に声をかける。




