副業:アイドルの魔法少女⑨
その後、自称唯一にして至高のアイドルによる軟禁から解放された俺とディアナは、今まさに扉をぶち破ろうと準備していた兵士たちに保護された。
兵士たちの後ろに控えていた国王に、怪我は無いか心的ストレスは無いかなどあれこれ詮索を受けつつ、中で何があったのかについては微妙に話を逸らして誤魔化した。この時に知ったが、部屋の扉は魔法による拘束か何かでがっちり固まって開かなかったらしい。
俺たちを拉致した当の本人はというと、俺が廊下へ出ようとした瞬間、スクールバッグから魔晶鋼……と呼んでいた、魔素を吸い尽くして空になった魔晶を一瞬で回収し、同時に俺たちを押し出した。
耳元で囁かれた、「サービスよ。武器作っといてあげるわ」の一言を最後に、アイリスは再びよそ行きの快活な少女に早変わりし、それきり俺たちには話しかけてこなかった。
俺とディアナは、兵士たちや国のお偉いさんらしいおじさんズに取り囲まれ、大目玉を食らっているアイリスをその場に、ベロニカ王に客間へと案内してもらったのだった。
「お帰りなさいませ、マスター」
「おー……」
客間内の風呂から上がって居室スペースへ戻った俺を、先に上がっていたディアナが出迎える。
その装いは、普段着であるタイトな黒のショートパンツ姿ではなく、薄手の白いワンピースのような寝間着姿だ。
ベロニカ王に案内された客間は、トレイユで勝手に押し入ったようなワンルームではなく、居室と浴室が据えられた贅沢なものだった。
風呂と言えば、中世ファンタジー風の物語ではその概念がなかったり、貴族階級の特権だったりするが、エーテルリンクにおいては割と普通に普及しているものらしい。ひょっとしたら、過去の召喚者が開拓したのかもな。
風呂があるだけではなく、ベッドやソファなどの調度品も一級品ばかりだ。地球にいたころ、一般庶民レベルしか馴染みのない俺が見たことないものばかりなのだから、きっとそうだ。
部屋に通され風呂を発見した俺は、まずディアナに勧めた。未だに俺のブレザーを羽織っていたが、女の子が海水に落ちた身のままでは居心地が悪かろう。
ディアナは俺にできる精一杯の配慮を素直に受け取ってくれて、ぺこりと腰を折ったのち浴室へと姿を消した。
ほどなくして聞こえてきた水音に、ちょっとだけ落ち着かなくなってしまったのは余談。
……しばらくして、「アレ? 着替え用意してなくね?」と気づき、ダッシュで使用人さんを呼んだのはファインプレーだったと思う。うん。




