召喚特典と世界間差異①
あの胡散臭い魔術師も、本当のことを言うことがあるらしい。
小走りで山中の森を進みながら、俺は自分の体に起こった変化を実感していた。
玉座の間という名の無茶振り会場から退席し、中世ヨーロッパ風の石造りの街並みを屋根から見下ろし、そのまま足早に城門を駆け抜けて、一時間が経過している。
だというのに、全くと言っていいほど疲れていない。
息切れすら起こさないほどだ。
俺たちの世界の人間はこっちの住人より身体能力が高いとか、召喚されたことでさらに底上げされるとか言っていたけど、どうやら本当みたいだ。
今までの俺なら、一五〇〇メートル持久走を完走前に倒れこむくらい体力なかったし。
こんな短距離走みたいなペースを小走り感覚で続けられるような身体能力はとても持ち合わせちゃいなかった。
単純に体力が増えたというよりも、元々の基礎的な運動能力が高くなったみたいだ。
街中や家の屋根と違って、今走っているのは山の中。
木々の根や石ころで足元はガタガタだっていうのに、全然バランスが崩れない。こんなところも強くなってるんだな。
それに――
「ギィィィィィ!!」
「またか!」
頭上をちらと一瞥する。
手のひら大ほどの大きさの、太った蝙蝠のような生物が、三匹ほど俺に向かって滑空してきていた。
こいつが魔物という奴だろう。山に入ってから既に結構な数遭遇している。
右手の槍を握り直し、急ブレーキをかけて魔物に向き直る。
俺が立ち止まったことで、相対的に速度の上がった蝙蝠たちが牙をむきだして襲い掛かってくる。
「せいっ!」
槍を右脇の下から逆袈裟切りに振り上げ、穂先が頭一つ俺に近かった蝙蝠をとらえた。
腹部に衝撃を受けた蝙蝠が、呻き声をあげてすっ飛んでいく。くるくると回りながら近くの木の幹に頭からぶち当たり、静かになった。
この、槍なんて初めて触った武器を振り回せる腕力や、移動する標的を的確に狙い打てる集中力と照準力。これもまた、強化された能力の一つだろう。
「ギャッ!」
「ゲッ!」
そのまま袈裟懸けに次の一匹を弾き飛ばし、最後の一匹を横なぎに振った槍の腹で殴り、昏倒させる。
最後に……槍を短めに持ち替え、二匹を突き刺した。
肉を貫く感触。骨を砕く感覚。……生きて動いていたものが、静かに動かなくなる。