副業:アイドルの魔法少女③
ヤキモチを決して認めないディアナをそれとなく宥めつつ、俺たちは二度目のベロニカ城へ足を踏み入れた。
今回は城の主と一緒にいるせいで、擦れ違う兵士たちが一様に背筋を正すので、何もしてないのに申し訳ないような気持ちになる。
最初に謁見した玉座の間へと向かう途中で、王がふと俺に声をかけてきた。
「魔晶加工の件ですが、我が城の宮廷魔術師に相談されてはいかがですかな? 若いながらに優秀な多彩魔術師でしてな。魔術のほかに鍛冶や細工方面にも明るいゆえ、良い助言を得られると思いますぞ」
こちらですじゃ、と再び王様が先導する。
玉座の間は三階だったと思うが、王は階段を二階まで上がって廊下の方へ向かった。城に仕える魔術師や、位の高い兵士などが常駐する部屋がある区画らしい。
魔術師と聞くと、どうしてもトレイユの胡散臭い魔術師が顔を覗かせる。
爽やかな笑顔の裏に真っ黒な腹の内を隠していそうなやつだったが、ここの魔術師はそんな捻くれた奴でないといいなあ、なんて考えていると、いくつか部屋の扉を通り過ぎたところで王が立ち止まった。
王が立ち止まった部屋の扉は、先ほどまで通り過ぎてきたものと変わらないが、どうやら他の部屋より中が広いようだ。廊下の先には次の扉がなく、この部屋の壁が突き当りまで続いている。
「ここがその者に与えている工房ですじゃ。この時間ならいるはずですが……おーい、アイリス。おるかのぅ?」
部屋の中にいる孫に声をかけるような調子でベロニカ王がドアをノックする。部屋の主はどうやら在中のようで、何やらドタバタとした音がドア越しに聞こえてくる。
それにしても……はて? アイリス、ってどっかで聞いたような――
腕を組んで眉をひそめる俺。ディアナも引っかかるものがあるようで、ほんの少し小首を傾げている。だよな。どっかで聞いたことあるよなその名前。どこだったかな……
俺の記憶が答えを出すより早く、俺たち二人の疑問を振り払うかのように眼前の扉が開け放たれた。
「ハイハイただいまー! 何か御用でしょうか王様ー!」
「あ、騒音アイドル」「ああ、この方でしたか」
合点のいった俺とディアナが同時にポン、と手を付く。
そう、扉の向こうから現れたのは、昼間、ベロニカの噴水広場で華麗なダンスと過激すぎる歌声を披露していた、自称アイドルの金髪少女だった。




