副業:アイドルの魔法少女①
「あの嵐に突っ込んで生還した例はないとお話ししましたでしょうに!」「空を駆ける魔装があれど、策も無しに突貫するのは無茶無謀以外の何物でもありませぬぞ!」「あと、王城での奇声はお止め頂きたい! あのあと、城下の者たちからの問合せに苦労しましたぞ!」
ベロニカ王の、荒天島の嵐に勝るとも劣らない怒涛の言葉攻めに、俺は「おぉ……」と身を反らせることしかできない。
王を囲む兵士たちが彼を止める素振りすら見せないのは、皆、王に同感なのか。それともただ成り行きを見ているだけなのか。
少し待てば嵐も過ぎ去るかな、という俺の目論見は甘かった。国王の説教は、「もっと落ち着きを持って」や「周りを見た行動を」なんていう、幼子相手に言い聞かせるような内容に徐々にシフトしており、終わりが見えない。
やばい、完全に捕まってる。王様のゾーンに入っちゃってる。
ベロニカ城で会話したときのような的確な発言に期待し、相棒の助け舟を求め、俺は横目でディアナへと視線を泳がせた。
が。
「ええ」「その通りです」「もっとご指摘下さい、ベロニカ王」
なーんて王様の隣で相槌を打っているのは誰かなぁ!?
さっきまで俺の後ろで正座してたよねディアナさん!? いつの間に王の隣に移動したの!
えっ今俺四面楚歌じゃない? いや、責められても仕方ないことはしたけどさぁ……頼れる相棒すらそっちの陣営に寄られると寂しいものがありますよ。
やっぱり相当怒らせてたんだなあ。ここぞとばかりに首を縦に振り続ける少女の胸中を、どこか諦観にも近い気持ちで推し量る。
たっぷり一〇分ほど、ベロニカ王による説教(というかもはや教育だった)と、ディアナの相槌によるセッションは続き、ようやく二人は静かになってくれた。
げんなり顔の俺に気付いてるのかどうか、オホン、と大きく咳払いを一つつく王様。
「さて、お小言はこれくらいにして……ユーハ殿、ディアナ殿。まずは城まで来られませい。雨風にさらされ、お二人ともお疲れの様子ですからの」
俺の顔色が優れない理由の半分は今の説教でなんだけどなあ……と思いつつも口には出さず、先導する国王と兵士たちに続く。
周囲に輪を持つエーテルリンクの太陽だが、気付けば随分と傾き、もう夜が顔を覗かせる時分になっていた。薄暗くなり始めた港には、漁を終えてきたらしい船たちが続々と停泊ラッシュに入っている。




