星との出会い⑪
そっ、と自身の胸に手を当てたディアナは、再びその真紅の双眸を閉じた。何かを思いつめるかのように静かに息づく彼女の、長い睫毛が呼吸に合わせて揺れる。
「……マスター。いつか、私の話を聞いて下さいますか」
「ああ、なんだ?」
先を促す俺の相槌に、少女は申し訳なさそうに手を振る。
「い、今はまだ、心の準備ができておりませんので、お待ち頂きたいのですが……お願いしておきたかったのです。いつになるかはわかりませんが、きっとお話しします」
――貴方様に、聞いてほしいんです。
「…………」
いつぞや彼女の呼び名を提案した時のような、どこか含みのある発言。
あの時は、彼女の持つ何らかのトラウマ的な地雷を踏んだかと危惧したが、今回はそのような不安な感じはしない。まあ、あくまで俺の直感的なものだけど。
ともあれ、だ。
改まって事前の断りを入れるってところが少し気にならなくもないが、俺なんかでよければいくらでも聞くさ。相棒なんだからな。
「もちろん。いつでも準備が出来たら言ってくれよ」
「……ありがとうございます、マスター」
そう、ディアナがはにかんだ時だった。ベロニカ市街の方から、聞き覚えのある声が俺たちの耳に飛び込んできた。
「お~い! ユーハ殿~!」
声の方を見ると、ベロニカ王がその恰幅の良い体を大きく揺らしながら、こっちに向かって走ってきているのが見えた。周囲には彼を囲むように数人の兵士の姿があり、早足程度の速度で王に続いている……おそらく、王より前に行かないよう速度を調整している。
俺たちがその姿を認めてから少しして、ベロニカ王はようやくその走りを止めた。
膝に手を置き、ぜいぜいと息を切らしている。
「ご、ご無事でしたか……心配、しましたぞ、オェッ」
「ちょ、大丈夫ですか」
俺が思わずベロニカ王の背中をさすろうかと身を乗り出した時、一人の兵士がすかさず水袋からグラスに移した水を王に差し出した。
「王! こちらを!」
「おお、すまない……ふぅー、落ち着いたわい」
王の額に浮かぶ玉のような汗を、また別の兵士が豪奢なハンカチで拭う。グラスの水のおかげで一息ついた様子のベロニカ王を見て、思わず俺もほっとする。
「王様、あんまり無茶しちゃだめですよ」
「むっ、ユーハ殿! それはこちらのセリフですぞ!」
遠回しに過度な運動は控えたほうが、と伝えたところ、逆にお叱りの言葉が飛んできた。




