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星との出会い⑧

帰宅した俺は、自室に入るや否や、父親のお下がりのノートパソコンを立ち上げた。


慣れない手つきでケースを保護するビニールカバーを剥ぎ取り、ディスクをトレイに挿入。


ややあって、被ったヘッドホンから、ルナちゃんの歌声が流れ始める――






「――その曲が、今日までの俺を作ったといっても過言ではないんだな、これが」


胡坐姿で腕を組んだ俺は、ついさっきまでのやや重苦しい空気を払拭すべく、少しおどけた調子でうんうんと頷く。


しかし、正面で今なお正座を崩さない銀白の髪の少女、ディアナは、沈痛な面持ちを湛えたままだった。


「……知りませんでした。マスターが、そのように過酷な幼少期を過ごしておいでだったとは」


「いやいやいや、俺が話さなきゃ知りようもないでしょ」


可能な限り、俺のイジメ描写は省いて手短にしたつもりだったんだけどな。

それでもディアナには思うところがあるらしく、険しい表情のまま身体を固めている。


「そ、そうだ、これがその曲だよ。聴いたことないよな?」


なんとか相棒の緊張を取り除かんと、とにかく話題の方向転換を図る。


無理に転換しようとしたために、地球の音楽を聴く機会があるはずも無い彼女に、当然すぎることを言っているのはご愛嬌。


ポケットからスマホを取り出し、ミュージックアプリを起動。選んだのは、ルナちゃんの記念すべき――記念すべきでない曲なんて無いのだが――サードシングルだ。


先日ディアナをも虜にしたMVを持つ、デビュー曲のファーストシングルとは違い、あえて曲のみを再生させる。


当時の俺と同じように、初回は曲だけを聞いてみてほしい。


……流れるのは、まずは穏やかな曲調。夜空に尾を引く流星を見つけた小鳥のお話。


流星の輝きに魅せられた小鳥はやがて、()の星が流れる天空へ辿り着きたいと思うようになる。

箒星と共に、煌めく天空の大海原を翔けるのだ。小鳥は遥か彼方の夜空へ向かって翼を広げる。


そんな小鳥を、周囲の鳥たちは滑稽だと笑った。そんな高いところへ行けるわけがない。仮に行けたとしても何になるというのだ、と。ここで曲調は下降し、どこか不安感を煽る音階へと変わる。


周囲の嘲笑を受けても尚、小鳥は天を目指し続ける。何度も何度も、小さな羽を懸命に羽ばたかせる。


なぜそこまで必死に星を目指すのか? 周りに蔑まれて諦めようとは思わないのか?


……小鳥は諦めない。どんなに時間がかかっても、どんなに周囲から馬鹿にされても、空を目指し続ける。ここから、落ち込んだテンポが徐々に盛り上がりを取り戻し始める。


そう、それは(ひとえ)に、小鳥自身がそうしたいと思ったから。そうありたいと願ったからだ。

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