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星との出会い⑦

アーケード下の商店街。そこに佇むCDチェーン店の軒先で、俺と同年代ほどの少女が、道行く人々に朗らかな声をかけていた。


肩にかかるくらいの栗色の髪に、髪と同色の人懐っこそうな丸い瞳。

そんな、一見どこにでもいそうな少女こそが、白風瑠奈(しろかぜるな)その人だった。


『新人アイドル』と銘打たれた襷を肩から提げた彼女は、手に持ったCDを人々に差し出し、販促している様子だった。

隣には、彼女のマネージャーか、プロデューサーだろうか。爽やかなスーツ姿の、二〇代後半くらいに見える男性の姿もある。彼も同様に、両手に持ったCDを高く掲げ、雑踏のざわめきに負けぬよう声を張り上げていた。


ぼんやりとした頭で意図せずルナちゃんの前に俺は通りかかり……彼女と目が合った。


そして、彼女の、星のようなきらめきを放つ瞳に、目を奪われた。


夜空に浮かぶ星の明滅にも似た、淡くも確かな意志を秘めた双眸。


そんな光を放つ人間を初めて見た俺は、無意識に足を止めていた。


彼女とは対照的に、俺の方は死んだ魚のように虚ろな目をしていたと思うが、そんな俺にも、ルナちゃんは満面の笑顔を見せ、こう言った。



――新曲なんです。良ければ、一枚いかがですか?



両手で差し出されたCDケースを、またも俺は思考せず受け取る。


ケースカバーに空虚な視線を落とす俺の手を、そっとルナちゃんの両手が包み込む。



――押し売りのように聞こえてしまったら、ごめんなさい。気を悪くしないでほしいんだけど、あなたには、この曲を聴いてほしいの。きっと、あなたの力になれると思うから。



商店街のざわめきに溶けて消えるような、儚い声音でそう告げたルナちゃんの表情は、先ほどまでの笑顔とは打って変わって、真剣そのものだった。


当時の俺は、彼女が俺だけを特別視してくれているといった妄想や、一種の営業手法ではないだろうかという邪推すら思い浮かべなかった。ただ、言われるがままに、受け取ったCDを持って店内のレジへと向かい、会計を済ませていた。


ショップから出てきた俺に気付いたルナちゃんは、一瞬、先の神妙な面持ちになったかと思えば、口元にだけ笑みを浮かべ……器用に右目だけを閉じ、ウィンクを投げてきた。そして、再び街頭へ笑顔を振り撒き始める。


……さっきの言葉はどういう意味なのか? ここに来てようやくそんな疑問が頭をもたげたが、不思議と彼女に問い詰める気にならなかった。


今は、それよりも……

自身の右手に提げたビニール袋を見つめる。


もう長いことそうしているだろうに、一切の疲労を感じさせない少女と傍らの男性に背を向け、俺は家路を急いだのだった。

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