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星との出会い⑤






初めて幽霊を見かけたのは、確か五歳の頃だったかな。


見た目には、町でよく見かける畑仕事中のおじさんに見えたんだけど、排水溝の中に突っ立ってたからさ。つい話しかけちゃったんだよ。そんなとこで何してるのって。


おじさんは無表情のまま、ぼーっと遠くを見てる。まあ、無視されたのかなってその時の俺は思って、深く気にせずに、その場を後にしたんだ。


それで、何日か経って同じ道を通ると、そのおじさんがまだいるんだよ。

雨の日も雪の日も雷の日も、朝でも夜でも夕方でも、同じ格好で、同じ虚空を見つめてる。


何回かおじさんに出会ってようやく俺は、『このおじさんは変な人だ』ぐらいに思うようになって、同じ道を通っても気にしないようになった。


おじさんを気にしなくなった頃から、町中ですれ違う人たちの中に、おじさんと同じ『変な人』が混じってることに、少しずつ気付くようになった。


その変な人たち――幽霊たちには実にいろんな人がいたよ。当時の俺と同じ年頃の子供も、バリバリのキャリアウーマンって感じのお姉さんも、ブロンドヘアの外国人もいたっけな。あのおじさんはずっと同じ場所にいたけど、ふらふら歩いてる幽霊のほうが多かった。


ただ、その人たちはみんな普通に生きてる人たち、俺たちと変わらないように見えた。今にして思えば、どこか生気のない表情だったような気がするけど、小さかった俺にはとても区別はつかなかった。


……おじさんを見かけてから二年くらいしてからのことだ。


ある休日、両親が俺を呼び出して言った。『最近、変わったことは無いか?』って。


俺は首を横に振ったけど、そのまま話は続いた。学校の先生から、俺の言動がおかしいって言伝があったらしい。『何も無い空間をじっと見ていたり、話しかけたり、障害物があるかのように避けたりする』って。


分かると思うけど、俺にとってはそれは何も無い空間じゃなかったんだよな。

そこには『変な人たち』がいたんだ。腹を押さえて動かない兄ちゃんとか、三角座りでうずくまる幼稚園児とかさ。


重ねて言うけど、その変な人たちは、見目は俺たちと何ら変わらない。


そう、当時の俺には、見ただけで、生きた人間と幽霊との区別が出来なかったんだ。

『変な人』だなとは思ってたよ? でもその時の俺は、その人たちもちょっと変だなってだけで、普通に生きた人間だと思ってた。


そりゃ、歩いてて前に人がいたら避けるでしょ。

腹痛そうにしてたら心配して声かけることもあるよ。

年下の子に、一緒に遊ぼうぜって大人ぶったりもするさ。


それを、普通の人たちと一緒にいるときに、普通の人たちの前でやったのが良くなかったみたいだった。


彼らにとっては俺のほうが『変な人』だったんだな、きっと。

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